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第四十四話 苦悩

 とばり荘の玄関先はわりと大きさがある。

 それは、和風家屋にこだわりのある幼狐の意向と複数人が使うのによいという効率的観点からなのだが。

 今そんな玄関で四人の女子が少し窮屈そうに靴を履いていた。

 まるで大家族の通学風景。短いスカートで腰を上に突き出すようにする姿が一種の美しさすらもうかがえた。

 しかし、そんな光景を眺める俺の心中は、遂にこの日が来てしまったか。っと、心配と後悔の気持ちが入り混じっていた。

 俺は腕を組んで目の前に並ぶ四人に告げる。

 それはもう念を押して。

「いいですか! 今日は皆に合わせてほどほどの力加減で挑んでくださいね!」

「分かってるって何回言うんだよ。たかが体力測定だろ? 余裕だって」

 頭をボサボサと掻きながら面倒くさそうに爛さんが言う。

 そして、その横では何も言わないけど不服そうな守璃さんが。

 さらにその横には、なぜ自分たちも言われているのか分かっていなさそうな阿冶さんとクロが立っている。

「本当に大丈夫なんだろうか。まったく、安心できない……」

 そう、俺がこれほど心配が尽きないのにも理由があった。それは、今から一週間ほど前に戻る。



 体力測定一週間前。

 俺は、道場に住民全員を呼び集めた。

「今から体力測定の事前練習をします」

「「「「事前練習?」」」」

 俺のかつて一度として使われたことのないであろう言葉に全員が頭の上に疑問符を浮かべる。

「はい。阿冶さんに言われて気づきましたが、皆さんは常人を超越した身体能力を身に付けています。それはもう木剣で人を殺しかけるぐらいに……」

 俺は、熱を込めて言う。

 この一ヵ月程色々な意味で痛い目を喰らってきたこの重さを彼女たちはどう思っているのか。

 俺は、ちらっとその当事者二人に目を向ける。

 守璃さんは不機嫌そうにそっぽを向き、なぜか爛さんは照れたように顔をにやけさせていた。

 褒めてないからね。全然。

「そんな力を、体力測定で晒すわけにはいかないんです。っというわけで体力測定で周りから浮かないような程よい記録を出す練習をします」

 そう言って、有無を言わさずにとりあえず皆の記録を計測し始めた。

 当初としては、すぐに終わるつもりだった。力を絞り出すより、セーブする方が圧倒的に簡単だと思っていたから。

 しかし、それはすぐに甘い考えだと実感した。

「あのですねー」

 俺は、記録用紙を見ながらワナワナと肩を震わせて言った。

「皆さん力を抑える気あるんですか!」

 全員が全員明らかに突出した記録を出していた。

 最も恐れていた守璃さんと爛さんは、幸いにも守璃さんが持久走と握力、爛さんが短距離走と握力、反復横跳びの記録がとびぬけている程度だった。程度と言ってもその記録のどれもが顔面蒼白になりそうなほど優れていた……爛さんにいたってはテスト中残像が見えた気がするし

 それよりもだ。問題なのが約一名。

 俺が目を向けると、その美しい黒髪を動きやすいように一つ括りにした今回の問題児がにこりと微笑んだ。

 阿冶さんである。

 阿冶さんの記録は爛さん守璃さん程とびぬけていない。

 パッとみすべてがバランスよい能力なのだが、錯覚してはいけないそのバランスのよい記録自体が常識から逸脱していた。

 ほとんど全部の種目を強制しなければいない上に、もう一つ問題があって――

「阿冶さん記録の事でちょっと――」

「夏樹さん。どうでしたか、私の記録!」

「そのことでちょっと問題がありまして」

「駄目でしたか……私の記録……」

「っ! いえ、大丈夫ですよ。もう少し抑えて貰えれば」

 ――本人がそのことに気がついてない上に、そのことを非常に言いづらいということだ。

 どうしたものか

「………」

「夏樹……大変……」

 俺が頭を悩ましていると、今回唯一普通だった癒しが俺の服の裾を引っ張る。

 俺は、クロの頭にポスッと手をのせると、ストレスを発散するが如く撫でまくった。

 そりゃもうグシグシと。

 いつもクロが気持ちよさそうにするが今回ばかりは俺が落ちつく。

 サラサラのフワフワで撫で心地最高だな

 そして、しばらく癒しを分けてもらい一つの妥協案を出した。

「皆さん人に合わす練習をしましょう。俺も一緒に走ったり飛んだりするので俺に合わせてください」

 指標を作ることに決めた。

 幸いうちの学校には男子を凌駕する記録を出せる近衛がいるから俺程度の記録が出せても浮きはしない。

「ひたすら俺に合わせてください」

 そして、この一週間俺の記録に極限まで近づける特訓をした。

 その間、俺が全員の倍以上の運動をしてへとへとになったのは言うまでもない。



 そして、今日。

 体力測定当日へと繋がってくる。

「夏樹さん一緒に周りましょう」

 全体の説明を受けた後、全クラスの生徒がバラバラと体育館から出てく中、阿冶さん達はすぐに俺の元へとやってきた。

 うちの学校は基本的に自由に種目を回って良いことになっているため、仲のいいグループでテストを受けることも珍しくはない。

 だから、阿冶さん達が寄ってくるのは分かるのだが……

「どうして音無さんや近衛まで?」

 その阿冶さん達の後方に控えていたのは音無さんと近衛だった。

「えっと、先に銀木さん達に声を掛けたんだけど、そしたら夕月君にも声を掛けるって流れになって」

「別に嫌ならいい。我々は別行動をする」

 音無さんの後ろで若干不機嫌そうに近衛が言い、えっ、えっと音無さんがその意見に対してテンパり悲しそうな顔をする。

 そんな態度取られたら断れるわけないでしょ。まったく

「いや、俺は別に構わないんだけど……」

 むしろ、近衛と一緒に爛さんや守璃さんを受けさせた方が記録が紛らわさせるにはちょうどいい。唯……

「この男女比よ……肩身が狭いというか気まずいというか……」

 俺は、俺を囲む女子を見回す。

 全員が全員学年トップレベルの容姿の持ち主だ。

「この集団に俺はいるのだろうか」

 体力測定開始前から俺には荷が重い一日になりそうな予感がし始めていた。

こんにちは五月憂です。

今回から体力測定会のお話です。

実はこの話、幕間として一はないし二話でお届けするつもりだったものなのですが、学校編と言いながら学校での四人にピックアップすることがあまりないなと思い急遽話を伸ばしました。というわけで次話から一話毎に一人ずつに焦点を集めた話を書くつもりです。

プロットとの大幅なズレはありますが頑張って書いていきますので次回もよろしくお願いします。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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