第四十三話 怪
「それはおそらく怪じゃな」
「怪?」
そう、言い切ったのはテレビの向こう側で大きなたんこぶを作った金髪幼女の幼狐だった。
近衛と出会った後、大通りで阿冶さん達と合流して帰ってきて、先の毛玉の件を幼狐に聞いた。その答えが、怪である。
「うむ、怪とは――」
因みに妖狐のたんこぶは、阿冶さん達が学校に来ることをわざと俺に教えなかったということがロアさんにばれて折檻されたためについている。
何とも、情けない妖界の長の姿である。
「おい。聞いておるのか?」
「あ、あぁ。聞いてなかった」
「聞かぬか小僧!」
「って言っても、話しが難しすぎてなぁ」
すると、傍に控えていたロアさんがすっと画面に近寄ってきた。
わざわざ幼狐を隠すように。
「私が簡潔に説明しましょう」
「おいっ、ワシが見えぬぞ」
「怪とは、人間界にいる異種人の総称の事です。一般に妖怪や幽霊、化け物に神様。そう言ったものを、我々独立した世界の住人と区別するためにそのように我々は呼んでいます」
「おいってばー。聞けよー……」
「以前より我々もその存在は察知していました。人間の多くは――いえっ、ほとんどのものはその姿どころか存在すらも認識することができないため、人間界では伝承などでしかその存在を認められておりません」
「聞いてよー。ねぇ、聞いてってばー……グスンッ」
っと、あらかたの説明をロアさんがしてくれた。
今まで無視され続けた幼狐がものすっごく涙目で鼻を啜る音が背後から聞こえてきたけど。
「なるほど。じゃぁ、俺が見た黒い毛玉もその――怪であると」
「はい。おそらく、その可能性は大きいかと」
「この世界にそんな存在が昔からいたなんて」
「それは……グスンッ……ちと…ズズー……違うのじゃ」
「違う?」
そこでやっとロアさんは幼狐の前からどいた。
奥では、その煌びやかな赤い着物で涙をぬぐう幼狐の姿があった。
そんなに泣くなよ。無視されただけで
「コホンッ……怪そのものは、ある意味こちら側のものと言える。というのも、昔は差ほど世界の壁は厚くはなかったのじゃ」
「世界の壁は厚くはなかった?」
「そう、言ってしまえばあらゆる世界は独立してはいなかった。一つの世界だったものが、バラバラに分かれていまの世界等が出来上がったとワシは考えておる。故に、あらゆる世界の住民が一方的にそちらの世界に流れ、そして定住している――それが怪じゃ。まぁ……そんな違いは今はどうだっても良いのじゃが」
「そうですね。今の問題点は、どうして夏樹様が怪を見ることができるようになったのかということです」
確かに。今まで阿冶さん達以外のそう言った存在を見たことはなかった。
阿冶さんたちは、自らその姿を晒すようにしているため、誰でもその姿を見えるようになっている。もちろん、牙や耳は他の人には見えないが。しかし、今回聞いた怪は違っている。わざわざ人に見えるようにしてはいない。
見えるようになったそのきっかけは――
「どうしてなんだろう」
全然わからない。
「一つ仮説を立てるならば、異種人と一緒に過ごすことでその能力を手にしたか」
「だとしたら、もう少し経過を見るべきでしょうか」
「うむ~。夏樹よ。お主は、このまま見えたままでも良いか。嫌というならばワシがその能力を封印することもできるが」
……封印するか。それも一つの選択肢ではある。この能力があったところで、何か役に立つとも思えないし。でもーー
「もう少し考えてみる。そうしたいときは、俺から連絡を入れるよ」
なんとなく無くさない方がいいと思った。俺の身近になりつつある四人を知っていくためにも
それを察してか、幼狐は薄らと笑みを浮かべた。
「そうか。ではその間だけでも経過を教えてほしい。その力の変化のデータが欲しいのでのう」
「分かった」
「それじゃ、今日聞きたかったのはこの辺かのう。また、何か聞きたいことがあれば連絡するように」
そう言って、テレビは元の砂嵐に戻った。
「怪ですか。夏樹さんが見えるようになったのは本当に不思議ですね」
キッチンからお茶を運んできてくれた阿冶さんはそう言った。
話しが終わった頃に傍にいたのは、阿冶さんとクロだけだった。
話が長くて飽きた爛さんは早々に道場へ。話が終わる間際に、むずかしい顔をした守璃さんがどこかへ行ってしまった。
「……不思議。……霊感がある人間でも怪を見ることができる人間は少ない……って、聞いた」
「そうなのか」
「霊感とは、異種人を感じることのできる人の事を言います。その異種人を実際目で見ることができるのは、非常に強い力を持つ人だけなんです」
「なるほど。だから、不思議なのか。霊感何てさらさらなかった俺が急に怪を見えるようになったことが。まぁ、今は特段気にすることじゃないか。これからの学校生活に比べたら」
「そうですね。来週からは、体力測定がありますし、私たちは、そちらに専念しなければ……」
「体力測定がどうかしたんですか?」
「はい。私たち異種族は人間よりも身体能力が優ってますから、うまい具合にセーブしなくてはいけません」
「なるほど確かに」
小柄なクロでさえその跳躍力や俊敏さはすごい。初めて会った当初のことを思い出す。
「しかし、もっとも問題なのが守璃さんと爛さんが加減できるかという点なんですが」
「あっ」
それから一週間。人一倍常人離れした力を持つ二人に、人間の常識的な身体能力を教えるのにひどく
苦労することとなった。
こんにちは、五月憂です。
今回は、前回の毛玉の正体に迫るお話でした。
久しぶり? の幼狐とロアのペアが多く出て、書いていて楽しかったです。
次回から体力測定の話になります。
果たして、夏樹はこの危機を乗り越えることができるのか。
次回も是非読んで見てください。
最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。
今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。
 




