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第四十二話 跳ねる毛玉

 今日最後の終業を知らせる鐘がなった。

「やっと、終わった〜」

 たった1日。学校にいた時間を考えるとたかだか10時間程度だが嫌に長く感じた。

 さっさと帰ってしまおう

 ぐったりとした肩にまだ少し硬い鞄を掛けて教室を見回す。

 阿冶さん達は多くの生徒に囲まれ、部活の勧誘等がひっきりなしだった。

 目線で合図すら出来ない程の人の壁で、仕方なく俺は黙って教室を後にした。

 校門に向かっている道中で剣道部であろう集団とすれ違った。

 なぜそう思ったのかというのも、そこに知っている顔があったからだ。

 知っているというよりは見たことがある。向こうは俺のことなど知らないだろうし、俺も同じ一年生である以外名前すら知らない。

 唯、中学時代に近衛の試合で良く相対していたのが彼女だった。素人目でも強いのは明らかだったが、それでも近衛には劣り、いつも悔しそうにしているのが印象的だった。

 今は少し髪が伸びているが、近衛とは違った真直さとどこか切羽詰まった危うさの瞳が彼女たらしめていて、すれ違いざまでもわかった。

 そんな彼女のいる集団の中にはやはり近衛の姿はなかった。

 昼休みでの出来事。

 自分の人生――己自身の生き方を寸分の迷いなくまるで当たり前かのように言ってのけた近衛の姿が浮かぶ。

 おそらく、宣言した通り近衛は音無さんの傍にいるのだろう。

 そのことに、なぜだか俺は寂しさを感じた。

 他人の事ではあるが、その自分自身の道を狭く見つめる姿がかつての自分と被って見えてしまう。

 悩ましい

 そんなどうしようもないことを考えながら歩いていると、ふと細い路地から小さななにかが飛び出してきた。

 ネコか?

 その割には、やけに小さくそれに丸かった。

 それを言葉に例えるなら、手のひらサイズの黒い毛玉。

 そんな不思議なものが通り過ぎたのだからもちろん気になる。

 落ちた気分を紛らわすためにもと思い、その後を追って俺は帰路からはずれた。



「確かこの辺りに来たと思ったんだけど」

 あの黒い毛玉を追っていて、いくつか気がついたことがあった。

 一つは、その独特な動きだ。

 狭い路地とは言え車一台分は通れる。そんな道を地面から壁へ壁から壁へと縦横無尽に動き回る。最早、動くというよりスーパーボールのように跳ね回っているといった方が性格だ。到底、そこらにいる小動物ができる動きではない。

 二つ目に、意図的に道を選んでいるという点だ。

 大通りを避けて、丁度動き回るのに適した道へ道へと時折不自然に曲がっている。そういう習性があるのかは分からないが、一定の思考力があるようだ。

 やはり俺が知っている生き物とは違った何かの様である。

 以前なら信じられなかっただろうが今の俺ならば十分にその可能性を信じられる。

 っと、また曲がった

 だんだんと入りくねった道になってきた。もう元の道に戻れるかどうかすら怪しい。

 そう思った矢先、急に眼で追うのも一苦労なほど加速した。

 まるで何かに吸い寄せられるかのように。急激に。

「くそっ! ここに来て速度が上がった」

 遂に、曲がった先で俺は黒い毛玉を見失ってしまった。

 辺りをキョロキョロと見渡すがどこにも見当たらない。

 俺はとぼとぼと歩きながら少し先まで向かってみる。

 すると、曲がった先には意外な人物がいた。

「夕月か。こんなところで一体何をしている」

 曲がった先にいたのは、黒い毛玉ではなく近衛だった。

「そっちこそ何やってるんだ? 音無さんと一緒に帰ってたんじゃ」

「その春乃の用事で私はここにいるんだ。春乃もこの先にいる。それより私の問いに答えろ」

「俺は黒い――」

 毛玉を見なかった? っていうのはおかしいよな

「黒い?」

 訝しそうに近衛は俺を見る。

 それにはなぜかいつも以上の鋭さが帯びていて、何だか萎縮してしまう圧を俺は感じた。

 下手な事を口走れば容赦なく斬る。そんな殺気にもにた圧力を。

「――黒い……そう、黒い猫を追いかけてきたんだよ。見なかった?」

「猫? 見てないな。こちらには来てないんじゃないか?」

「そうなのかな。……そうかも。……それじゃっ」

 何だか近衛から早く帰れと言われているよう気がして俺は諦めてその場を立ち去ろうとした。

 しかし、近衛に背を向けて三歩。俺は再び立ち止まる。

「どうした?」

「ここ何処ですか?」

 近衛はため息交じりに道を教えてくれた。



「――そこを右に曲がれば大通りに出る。そこからは分かるだろ」

「あぁ、ありがとう」

「では、さっさと帰れ。銀木達もどうやら君を探しているようだったぞ」

 そう言って、私は夕月を急かした。

 夕月は若干戸惑った様子だったが、また明日っと言ってその場を後にした。

 そして夕月と入れ替わるように私の背後から人影が現れた。

「ごめんね。ちょっと手こずっちゃって。何かあった?」

 もちろん春乃だ。

「いや、何も。……春乃」

「何?」

「さっきの奴。猫の形をしていたか?」

「えっ? ううん。黒い毛玉みたいな姿だったよ。どうかしたの?」

「……いや、それならいいんだが」

 まさか……な

 私は、夕月が去った方角を見つめる。

 細い路地に肌寒い空気が流れ込んでくる。

 私はそれに少しだけ胸騒ぎを感じた。

こんにちは五月憂です。

今までは、新キャラ二人の紹介兼主人公との絡みが主でしたが、今作からちょっと変わった生き物が登場しました。

次第に日常と非日常が混ざり合っていく夏樹の周りの世界。今後どうなっていくのでしょうか。

そして、次週毛玉の正体が明らかに!?

是非読んで見てください。

さいごになりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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