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第三十九話 浸食されゆく日常

 その夜、私は眠れずにいた。

 あの後、すぐにおばあ様は京都に旅立ってしまい、ますます私の不安は増していくばかり。

「行けません。こんな気持ちでは、出来ることまで出来なくなってしまいます」

 落ち着かなくては

 私は、こういう時庭先に出て涼むことに決めている。

 決めているというより、いつの間にかそういう習慣が出来てしまっていた。

 寝間着の上にさらに一枚羽織を着て、うぐいす張りように軋む廊下をゆっくりと歩いて、そっと外に出た。

 外は、人の気配はなく風の音だけがただ静かに囁いてくるだけ。

「……静かですね」

 『不気味なほど』、それをグッと飲み込んで私は吐露する。

 カツカツと、静けさの中にゆっくりと下駄の音を刻みながら、私はグルっと家の周りを歩いていく。

 あぁ、こんな時間に外に出ているのを見つかったら、おばあ様やミーちゃんに怒られてしまうな

 お母さんだったらもしかしたら一緒に歩いてくれるかも

 そんなことをぼんやりと思いながら、目的もなく歩き続ける。

 不安を紛らわせるために。

 重圧に押しつぶされないように。

 ………

「………。って、意識しないようにすればするほど、かえって意識しちゃうよ」

 私は、頭を抱えてグッと顔をあげる。

 この日ばかりは、家にお母さん以外誰も居ない。つい口に出して思っていることを吐き出す。

 すると、それまでの様々なものが入り混じった気持ちを一瞬で忘れ去ってしまうような光景を目にした。

「……、綺麗」

 それは、空一面に広がる星々だった。

 全然気がつかなかった

 過去数度こんな風に外に涼みに来ることはあった。しかし、そのどれもが億劫でどうしようもない悩みを抱えた時。誰にも相談することが出来ず、唯々真っ暗の道を歩む自分の足元を見ながら堂々巡りを繰り返すばかりだった。

 だから、初めてだった。

 顔をあげてしっかりと星空を眺めるのは。

 どこかの本に書いてあったような、宝石を散りばめたという表現が正に当てはまる光景だった。

「知らなかった」

 少し顔をあげるだけで、こんなに光は溢れているんだって

 もう迷いなんかどうでもよくなってくる。

 考えられない。

 今は、この光景をいつまでも楽しんでいたい。

 それから、月が頭上高くから次第に落ち始めたころ。

 少しの身震いと共に。私は、はっとした。

 気づけば、1、2時間。家の庭にある岩に座って空を仰いでいた。

「少し長居しすぎちゃったかな」

 寝間着は、巫女の白衣のように白く薄い生地で、羽織を着ているとはいえやはり春先には肌寒かった。

 私は、少し名残惜しさを感じつつ玄関に向かう。

 すると――

 パンッ!

 不意に紙風船が割れたような破裂音を感じた。

 耳で直接聞いたのではなく、脳裏に響くようなこの感覚。

 私はその音を感じた方向へと急いだ。

 家の門を抜け外から家の塀を見る。

「これは……式の痕跡」

 塀にはうっすらとこげのような跡が残っている。

 霊的な力が家に入ろうとして、結界にかき消されたのだ。

 痕跡からして式神だとは思うけど、誰が何のために

 可能性としては、私やおばあ様のような何か霊能力を持つ人間か、或いは人以外の何物かか

 前者だったら、おそらくどこにも属していない浮浪の霊能力者。後者だったら、唯の幽霊ではなく妖のような自らの意思を持ち、特異な力を持った種族。

 どちらにしても、放って置いていい相手ではありませんね

 おばあさまが出て行ってすぐ、しかもあんな忠告をされたばかりだ。

 私がどうにかするしかない

 私は、この後痕跡を頼りに式神の発信源を探り始めた。



 月曜日。

 先週の反省も兼ねて俺は余裕を持って学校に行く準備をした。

「行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃい!」」」」

 家の奥から皆の呼応する声が聞こえてくる。

 なぜか今日はみんな慌ただしそうで、朝練もなかった。

 どうしたんだろう。そういえば、土日も外出したと思ったらたくさんの荷物を持って帰ってきてたし。何かあるのかな

 そう思いつつ家を出ると、斜め向かいの家の前に音無さんが立っていた。

 立っていたというより、門にもたれかかって軽く俯き、誰かを待っている様子だった。

 俺を待っててくれたのかな……なんて、そんなわけないか

「おはよう。音無さん」

「……あっ、おはよう」

「どうしたの? 眠そうだけど」

「うん。ちょっと調べ物をしてて。ちょっと寝不足かも」

 眠たそうに目をこすって音無さんは答えた。

「夕月君は、今日は早起きだね」

「まぁ、毎日遅刻ギリギリは俺も嫌だからね」

 どうやらいつもの音無さんみたいだ

 先週雰囲気が少しだけおかしかったから少し心配だったけど。今までと変わりない。

「そういえば音無さんはこんなところで何してるの?」

「あぁ、それは――」

 そこで、音無さんの視線が俺の背後に向き、同時に殺気を感じた。

 身をひるがえすと、風切り音の後、先ほどまで俺の立っていた場所を竹刀が通過していた。

 少しだけ冷や汗を流す。

 あっぶねー

「ん? 誰かと思えば夕月か。どうしてここに」

 俺を攻撃してきたのは、近衛だった。

「どうしてはこっちのセリフだ!」

「もう、ミーちゃん。竹刀を振り回したら危ないでしょ」

「だって、待ち合わせ場所に着いたら。春乃が男に絡まれていたから」

 絡まれていたって。なるほど音無さんが待っていたのは近衛だったわけか

「にしても、やりすぎだろ。当たったらひとたまりもないぞ」

 それに対して、大丈夫だろっと軽く近衛は答えた。

 何が大丈夫なのか全くわからない

「それにしても、夕月君よくミーちゃんの竹刀をよけれたね」

 そういえば、察知してから考えるより先に体の方が動いてた。

 鍛えられて培われたのか、追い込まれ過ぎて身に付いた生存本能なのかは定かではないが、とにかく助かった。

「ふんっ、確かに振り返る前に避けられたのは久しぶりだ。夕月が武道を身に付けているとは聞いたことがなかったが」

 二人が何で? って顔でこちらを見てくるので、俺はそれとなくはぐらかして学校へと二人を推し進めた。



 久しぶりに学校に余裕を持って来れた気がする。

 実際、卒業式と入学式の二回続けて遅刻しかけただけなのだが、体力を削られることなくのんびりと席に着いてホームルームを待つということは実に有意義な事だと感じる。

 何だか、のどかすぎて眠くなってくる

 音無さんも近衛も、教室に入るとすぐに人に囲まれて、俺に話しかけてくる人は誰もいなくなった。

 ほんとすごい人気だな

 そう二人を眺めるも、ウトウトとし始め、ついには机に突っ伏して先生が入ってくるのを待つ。

 何だか、いつもと変わらないような気がする。家で寝て遅刻しそうになるか、学校に早めに行って寝てるか。

 ……結局寝てばっかだな

「はーい。皆席について」

 先生の声をモーニングコール代わりにして俺は重たい瞼をこする。

 まだ、頭はまどろみの中にいる。

 近衛に見られたらシャキッとしないかと一発喝を入れられそうである

「今日はホームルーム前にみんなに伝えておくことがあります」

 そういうと、突如教室のドアが開き、うちの制服を着た複数の生徒が入ってくる。

 何だ遅刻か? やけに多いな

 しかし、そんな寝ぼけた頭は、その生徒の姿を見て一気に覚醒する。

「新しいクラスメイトだ」

 そうして一人ずつ自分の名前を言っていった。

銀木阿斗(しろきあと)です」

「……猫目(ねこめ)、クロ」

織田爛(おだらん)だ」

御盾守璃(みたてしゅり)

 どうして、あの四人が!?

 俺は思わず立ち上がりそうになるほど、驚愕した。

皆さん、メリークリスマス! 五月憂です。

いやー、今日はクリスマスイブですね。

最近は、イルミネーションなんかよく飾られていて街が活気づいていますね。

まぁ、私はクリスマスイブの昼頃までこの作品の編集に明け暮れているわけですが。

今夜は遊ぶぞーっと。

さて、作品の話に行きますが、今回は前半は春乃の葛藤。そしてラストに阿斗たちが学校へというわけで。いよいよ、第二部の学校を舞台とする話が始まりそうですね。

異種人達も、夏樹以外の人間と深く関わるのは初めてになるわけで、今後どういった関係を築き。また、どんな問題が出てくるのか。そして、春乃の心境にも注目。

皆さん今後とも異種人同居を楽しんでくださいね。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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