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第三十七話 凍える春

 春の麗らかな日中。

 本来暖かな日差しを浴びているはずなのに、この場の空気だけはひどく凍りついていた。

 あれ? もしかして、寒さに関係のある異種人でもやってきた?

 そんなことを冗談交じりに考えていると、まるで雪女が発したかのような酷く優しく、酷く冷めきった声が俺の名を読んだ。

「……夕月君?」

「はっ、はい!」

 ビクンと体を強張らせ後ろを振り返ると、いつもと同じ柔らかな笑顔の音無さんが立っていた。

「その人は誰?」

 なぜだろうか

 いつもと同じ顔に声なのにひどく恐ろしく感じる。

「あっ、えーっと……」

 チラッと後ろを振り向くも、阿冶さんは何も感じていないように平然とした様子でこちらの様子をうかがっている。

「――彼女は、阿冶さんって言って一緒にここに住んでいるんだけど」

「……一緒に?」

「そ、そうなんだ。俺が住んでいるところは、寮みたいなところだから他にも数人が住んでいるんだけど――」

「へー、そうなんだ」

 なぜか圧倒されながら俺が受け答えしていると、やっと阿冶さんが近寄ってきた。

「夏樹さん? もしかして、お友達ですか?」

 どうやら黙って見ていたのは俺たちの関係を確認していたようだった。それにしても、もう少し早く会話に入ってきてほしかった。

「あっ、はい。こちらクラスメイトの――」

「――音無春乃です。家が近くですのでこれからよろしくお願いします」

 俺の言葉を遮って、音無さんは自ら自己紹介をした。

 その姿は、一転していつもと同じ丁寧な対応だった。

「申し遅れました。銀木阿冶です。こちらこそよろしくお願いします」

 対して、阿冶さんもいつもどおりに柔らかな対応で軽く頭を下げた。それはさながら、俺の保護者のように。

 それを音無さんは見届けると、今度はこちらを向いて本当にいつも通りの柔らかな笑みで、

「じゃぁ、夕月君。また来週」

「えっ、あっ、また来週」

 何事もなかったかのように――いや、実際何事もなかったんだけど、音無さんは門の中へと姿を消した。

「はぁー……」

 疲れた

 どっ、と力が抜ける。

 まるで、怒った爛さんや戦闘時の守璃さんと相対しているようなプレッシャーを感じた。

「可愛らしいお友達でしたね」

「いや、まぁ、そうですね」

 やっぱり、阿冶さんは何も感じていない様子だった。



「そう言えば、三人はどこに行ったんですか?」

 昼食の片づけをしながら阿冶さんに尋ねた。

 俺が帰ってきたときには、既に爛さん、守璃さん、クロは家にいなかった。

「あぁ……、幼狐様からの依頼でちょっとお買い物に……」

 珍しく歯切れの悪そうな阿冶さんに嫌な予感がよぎった。

「また、ろくでもない事の予感がする」

「あはは……もうすぐ帰ってくると思いますよ」

「そうですか……」

 そういえば、阿冶さんと二人きりというのも珍しい気がする。

 最近来た守璃さんは別として、爛さんとはトレーニングで一緒だし、クロはよく傍によって来てくれるからよく一対一で接する機会があるんだけど。

 すると、いつの間にか片づけを終えた阿冶さんがじっと頬を赤らめて俺を見つめていることに気がついた。

「夏樹さん、あの……」

「?」

「……その、お願いがありまして」

「何ですか?」

 気まずそうに、そして何より恥ずかしそうにモジモジして阿冶さんはお願いを口にする。

「みんながいないうちに……せて欲しくて」

「え?」

 声が小さくて聞こえない。

「ですから、その――」

 阿冶さんは少し背伸びをして俺の耳元に顔をよせる。

 顔の近さと不意に香る甘い香りにドキッとしたが、さらにその言葉に胸を鷲掴みにされたような気持ちになった。

「血を吸わせてください」

 魅惑の声色。

 妖艶な声色。

 普段の阿冶さんの柔らかな口調とは違った魅力を不思議とその声からは感じ取った。

 もしかしたら、そういう特殊な力があり、作用しているのかもしれない。

「夏樹さん?」

「あぁ、良いですよ」

 深く考えることをせず、自然と了承してしまった。

 それからは以前と同様。

 柔らかな唇の感触に湿った舌の生暖かさを首筋に感じ、そして牙を突き立てられる。

 やっぱり何の痛みもない、むしろ自然と体は脱力していき心地よさすら感じられる。油断をすればこのまま眠りについてしまいそうだった。

 阿冶さんも顔を赤らめてはいるがうっとりとした表情を浮かべている。

 まるでお互いが溶け合うような一時が流れ、数秒の後にそれは突如として崩れ去った。

「「「ただいま」」」

 玄関が開く音と三人の声。

「阿冶さんまずいです。皆さんが帰ってきましたよ」

 別にやましいことをしているわけではないし、隠すようなことではない。前回も人前でしたわけだし。

 唯、予想だにしないみんなの帰宅と守璃さんにこの姿を見せられない気持ちでいっぱいになり阿冶さんに言う。

「もう少しだけ、もう少しだけお願いします」

 そういう間も、トタトタと近寄ってくる三人の足音。

 それでも、俺を掴む阿冶さんの手は緩まらない。

 半ば強引に振りほどくわけにもいかないし、確実に三人は俺たちがいる居間に向かってきている。

 そして――

 あぁ、もう駄目だ。打つ手なし

 俺はすべてをあきらめた。

 その後は、案の定俺たちの姿を見た守璃さんが怒り沸騰。まぁ、パッと見二人が抱き合っているようにしか見えないわけで、顔を真っ赤にした守璃さんがどこから出したのか木剣で俺に切りかかってきて、俺はまた死にかけた。

皆さんこんにちは五月憂です。

前回は急遽お休みしてすみません。プレゼンの準備があまりにも終わりそうになく、泣く泣くお休みしました。

さて、今回雰囲気のわりにあっさりと過ぎ去った修羅場、春乃の心境は果たしてどうなのか。次週は、春乃視点で語っていきます。お楽しみに。

後、近日発表しますが12月、1月の投稿が少し特殊になってくると思うので、投稿予定を活動報告にてお知らせします。それを読んでもらえるとありがたいです。

最後になりますが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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