第三十五話 夏樹がいないときに
「ヤバイ!」
習慣というのは恐ろしいものだ。
昨日まで――もっと言えば朝起きた段階では、学校に行くのを覚えていたのに。
いつも通りトレーニングして朝食を取っていたらあっという間に遅刻寸前だ。
すっごいデジャブ
卒業式と全く同じ時間、同じ心境。
唯一違うことといえば、送り出してくれる人がいることぐらいか。
「行ってきます!」
その言葉に――
「「「「ーー行ってらっしゃい!」」」」
と、四人の声が返ってくることを心地よく思いながら、家を飛び出した。
「まったく。時間の管理もしっかりできないのか」
夏樹さんを見送ると、守璃さんは呆れ気味にそう言いながら家の中に入っていきました。
「まぁまぁ。朝からトレーニングもしてたんですし、最初ですからこういうこともありますよ」
私たちも続いて中に入っていき、私とクロちゃんが朝食の片づけを、爛さんはテレビを、守璃さんは読書を、リビングでそれぞれが自由に過ごし始めました。
「……夏樹、間に合ったかな」
お皿を拭いていたクロちゃんが不意にそう漏らしました。
それは、心配というよりはどこか寂しそうな調子の声でした。
思えば、最近はお皿を拭いてくれるのは夏樹さんの役割でした。クロちゃんはそれをどこか心配そうに、そして楽しそうに見ていたから。
もしかしたらそれが見れないのが寂しいのかもしれません。
それに、これから学校が始まってしまうと、いつも隣にいた夏樹さんがいなくなってしまう。私たちは、こちらに来るまでは共同生活していたし、一緒の学校に通っていました。常に一緒に過ごしていたから感じていませんでしたが、誰かがいない喪失感のようなものをクロちゃんは感じているのかもしれません。
「大丈夫だろ。あたしたちが鍛えてんだ。今の夏樹の体力だったら十分間に合うさ」
「また、お前はそういう適当な事を。私が見た限りまだまだ下の下の実力だ」
二人もそれを感じたのか、それぞれ本とテレビから目を離し、クロちゃんにそう答えました。
「でも、根性はあるだろ? お前に勝ちを譲らせたんだし」
「……譲ったんじゃないし、根負けしたわけでもない。ただ、ちょっと油断しただけーー」
守璃さんは、半分不機嫌そうに半分悔しそうに、そして、どこか思いつめたような表情で言いました。
守璃さんも、それなりに夏樹さんの実力を認めているということでしょうか。
「……でも、夏樹も強くなってると思う。例えまぐれだったとしても、守璃の防御力を突破できたんだからーー」
気づけば、私達は夏樹さんの話に花を咲かせていました。
すると、急にテレビからコール音が聞こえてきました。
「ん? なんか着信が……」
爛さんが応答すると、すぐに着信主の声が聞こえてきました。
「お主ら全員居るな」
「幼狐様! どうしたんですか?」
私はひどく驚きました。
突然の幼狐様からの電話にではなく、その幼狐様の姿に。
黄金色の髪はボサボサになり、煌びやかな着物は乱れ、真っ白い顔にはうっすらとクマが出来ていました。
テンションも今日は低いですし……
「……幼狐、寝不足?」
「うむ、昨日あれから馬車馬の如くロアにこき使われたからのう。まったく、ちょっと忘れていただけであんなに怒らなくてもいいじゃろうに――」
「それで、一体何の用なんだ?」
ロアさんへの愚痴を永遠に続けそうだったため、爛さんが率直に本題を聞きます。
「――っと、そうじゃった。お主らは、それぞれの世界の代表。ワシ等がそちらで支障なく過ごせるかという研修も含めてそちらに行ってもらっておる」
「なんだよ。今更」
「まぁ、急くな。そこでじゃ、お主らに最初の課題を持って来たのじゃ」
そう言って幼狐様は、私達に最初の課題を伝えてきました。
お久しぶりです。五月です。
二週間ぶりの投稿なのに短くてごめんなさい。
学祭とその準備で休日がつぶれちゃって、思うように時間が取れませんでした。
今回は、夏樹が学校に行った後のとばり荘の話になります。
幼狐の科した課題とは何なのか。
次回は、夏樹が学校に行くお話になります。
お楽しみに!
最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。
今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。




