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第三十二話 異変と決着

 ……驚きました

 私は迫りくる木刀の先端を眺めてそう思いました。

 この試合の中で彼は進化に進化を重ねた。実際の強さが上がったわけではなく、立ち回りや作戦による進化。素人に毛が生えた程度の実力の彼に良いように動かされ、そして眼前に切っ先を突き立てられている。まんまと彼の術中にはまったということです。

 爛さんが彼に執着しているのも、もしかするとこれが関係があるのでしょうか。

 分かりません。

 ですが、彼が他の人間と同様であるという結論は、いささか早急過ぎたということは認めなけらばなりません。

 出なければこんな結果にはならない。下心や上っ面の心ではこうはならない。

 さて、それでは私の中でも結論が出ました。

 負けてあげる――

 私は、ゆっくりと目を瞑りゆっくりと息を吐きだす。

 ――のは、別問題で勝負を付けましょうか。

 私は、目を見開くと両手に持った盾と木剣を手放しました。そしてさらに身を低くしながら彼の手を取る。

 そして――投げる。

 一気に体をねじり、背負い投げをしました。

 まさか、投げられるなんて思っていなかったのでしょう。そうでなくても、重心は完全に前に傾いていました。

 すさまじい音を響かせて地面にたたきつけられた彼は、ピクリとも動く様子はありませんでした。

「「「夏樹さん!」」」

 慌てて駆けつけようとする三人を私は手の平を向けて制します。

「大丈夫です。死なない程度に手加減はしました。もう、立てないでしょうけど。これで私がフィールドから出れば、だれがどう言おうと私の勝利でしょう。それまでは、誰もこの場に入らないでください」

 酷なことかもしれません。あるいは、まじめすぎるか。

 しかし、これは彼にとっての最後のチャンスでもあります。

 彼が、今の一撃でもまだ立ってくる。そうであれば、今度こそ勝ちを譲りましょう。

 それほどの覚悟と気持ちがあるのなら私に見せてください。

 私は、彼に背を向けてゆっくりと場外へと向かっていきます。少しの、ほんの少しだけの期待を抱いて――



 目の前が真っ暗だ。

 何が起きたのかも分からないまま、俺は暗闇の中に叩き落された。

 思い出せるのは、回転する視界と背中に生じたすさまじい衝撃。それだけでも、俺の攻撃は失敗に終わった事だけは分かった。

 あぁ、本当に負けるのか……もう、立つことも出来ないし、視界も定かではないし

「………」

 勝ちたかったな……

 勝たなきゃいけなかったのに……

 勝てるのならばどうなってもいいのに……

 ポツポツと浮かんでくる後悔の気持ち。

 気づけば、もはや神に祈るが如く理論も原理も無視した願いが浮かんでいた。

 神様相手に戦っていたのに、一体誰に願っているんだか

 そう思ていると、まるでその願いに呼応するように体に異変を感じ始めた。

 背中が熱い。打ち付けられた衝撃とはまた違った。まるでそこから血が沸騰していくように内側から感じる熱量。

 それと共に全身から力がみなぎり、反して意識は不思議と薄れていく。

 それは、どう形容すべきか。

 意識が上から塗りつぶされる?

 そんな感覚だった。

 俺の体はどうしてしまうんだ……

 恐怖と不安。

 それを最後に俺の意識は完全になくなった。



 一歩、二歩と確かに歩みを進め、ついに後一歩で場外に出るところまでやってきました。

 やはり、土台無理だったということか

 自分でやっておきながらだが、落胆の情を覚えた。

 そして、最後の一歩を踏み出そうとした。そのとき――

 殺気!

 私は、瞬時に反転して構える。

 後方では、いつの間にか彼が立ち上がっていた。

 今のは夕月夏樹からか……いや、しかし、様子が

 私の目から見た彼は、さっきまで戦っていた人とは全くの別人だった。

 雰囲気がまるで違う。まがまがしいオーラ。

「夏樹さん……?」

 阿斗さんたちの反応からも彼が普通でないことが見て取れました。

 面によって表情が見えないくて彼がどんな状態なのかもわからないが、気を抜いては――

 そこまで考えた時に、彼は何の予兆もなく突進してきました。

 クッ、早い!

 本当に別人だ。それ以前に、これが人間の動きなのかと見まがうほどの速度だ。

 私は、かろうじて盾で初撃を防ぐ。

 防戦一方はさすがにまずいな……

 私は、反撃をしようと剣を振りかぶった。

 しかし、さっきまで彼が居た場所に、もう彼の姿はない。

 どこに!

 不意に視界の端で動くものを感じて身をくねらせる。

 一瞬後、さっきまで私の顔があった場所を、木刀が貫く。

 何という、緩急だ。この私が、完全に見失う何て

 私は、負けてやるというさっきまでの余裕を完全に失っていた。

 彼は、今度はしっかりと構え。

 そして、また突進してくる。それは、突進というよりは跳躍。

 たった一歩で、間合いを一気に詰められる。

 そして、木刀を上から下に切り降ろす。

 それを私は剣で受け止めようとする。しかし――

「何っ!」

 木刀は木剣をなでるようにすり抜け、即座に刃を返して切り上げられた。

 木剣は私の手から宙高くはじき飛ばされる。

 しまった!

 私の驚愕の声を無視するように、彼の攻撃は止まらない。

 片手で木刀を持ち、グッと肘を引き絞っている。

 まずい!

 とっさに、盾を構えた。

 次の瞬間。盾の向こうから風切り音が聞こえ、次いですさまじい衝撃と共に盾が砕けた。

 なんて突きだ。

 眼前にまで迫る切っ先。さっきと似た光景だが、今度は余裕がない。防ぐものも無ければ、避けることもままならない。

 当たる!

 頭を穿つような一撃を喰らう。

 私は覚悟を決めて歯を食いしばる。

 しかし、不意に切っ先がブレはじめ、私に届くまでに肘がガクッと落ちた。

 それは、偶然か。あるいは、意図的か。

 彼が私に覆いかぶさるようなタックルへと変わった。

 どういうことだ

 なんの冗談だ

 いま、確実に私を仕留められただろうに

 私は、彼の面の隙間から彼の顔を見る。

 気絶しているのか?

 ホッと気が抜けていく。

 今の死を実感させるような攻防は何だったのか。

 そう思っていると、顔を影が覆う。

 爛さん達だ。

「有効打タックル。夏樹の勝ちでいいよな」

「………」

 心配そうに私を見つめてくる阿斗さんとクロさん。

 結果は、気絶が先か。後か。微妙なところですが――

「……はぁ、分かりました。私の負けですよ」

 今日のところは認めてあげることにしましょう。

こんにちは、五月憂です。

そろそろ夏休みも終わって学校が始まろうかとしています。かなり億劫です。

はてさて、今作でついに守璃との戦いが終わりました。いかがだったでしょうか。

夏樹の異変の謎もおいおい書いていきたいと思います。

次回で、守璃編も最終回。

是非、皆さん読んで見てください。

最後になりますが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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