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第二十九話 アドバンテージ

「……もう、朝か」

 カーテンの僅かな隙間から差し込んでくる日差しを顔に受け俺は、目を覚ました。

 全然寝たりない

 重たい瞼をこすりながら体を起こすと、そこにはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。

 所狭しと散乱する空き缶にハエでもたかりそうなつまみの残り、大気中にはアルコールの匂いが充満している。

 この空間にいるだけで軽く酔ってしまいそうだ。

 そして、隣にタンクトップとショートパンツの沙由里さんがお腹を出して熟睡していた。

「今何時だ?」

 結局昨夜は夜通し晩酌につき合わされた。

 この部屋には、時計もないのか

 ガサガサと空き缶を掘り起こして、やっと目覚まし時計を見つけた。

 時刻は、午前6時。

 もう少し経ったら、家に帰るか

 ゆっくり辺りを見回し、改めて『汚部屋』の現状を確認してから、俺はよしっと気合を入れて活動を開始した。

 戸棚の奥底に眠ったゴミ袋を2、3引っ張り出して、一宿一飯の恩義と思い空き缶を片付けていく。

 その間も、沙由里さんは一切起きる気配を見せず、のんきにお腹を掻きさえしていた。

 大物というか、ずぼらというか、なんとも言えない気持ちに俺はなった。

 そして、気づけば午前7時。

 ゴミを集めるだけで一時間もかかるのってどんな部屋だよって思いつつ、俺はそっとドアを開けた。

「ありがとうございました」

 俺は、小さな声で呟いた。



 パタンと戸が閉まる音が聞こえて、あたしは目を開けた。

「行ったか」

 楽しそうだったな夏樹。

 昨夜の夏樹の様子を思い出してあたしは思う。

 良かった。そう思う大人としての感想を抱きつつも、無視しきれない程の胸のモヤモヤを私は感じていた。

 決して二日酔いのようなものではない。

 確かに、昨夜はハイペースで飲んでいたのも事実だが、このモヤモヤを打ち消すように飲んでいただけで、それが無ければ今日は眠ることも出来ていなかったかも知れない。

 もしかしたら、今朝寝たふりをして夏樹をやりすごしたのはこの気持ちのせいなのかもしれない。

 この気持ちを大きくしないためかもしれない。

 あたしらしくないのは分かっている。

 そんなあたしをもう見ないと言わんばかりに腕で目を覆う。

 それでも、胸はスッキリせず。

 最終的に内に秘めたたった一つの気持ちを吐露する。

「悔しいな」



「……どうして、俺はここにこんな格好でいるんだ」

 場所は道場。

 正面には守璃さんが眼光鋭く立ち、横の少し離れた位置に阿斗さん、爛さん、クロが心配そうに俺を見つめている。

 俺は、帰ってきてすぐに守璃さんに捕まり、あれよあれよと言う間に剣道の防具を付けられて、この場に立たされた。

「さっきから言っているだろう。昨夜は私の勘違いだった。その点については謝る。……が、夕月夏樹。君を信用することは現状出来ない。一緒に暮らすこともできない――」

 突然の拒絶宣告を告げられた。

 確かに、多少の――本当に多少の誤解があったとはいえ、第一印象最悪で信用できないのも分かるけど、そんなにはっきり言われるとさすがに傷つくな

「――しかし、私にも使者としての使命がある。そこで、相反する私情と使命の妥協点として真剣勝負をしようということになった。君が勝てばとりあえず私は私情を殺して君と暮らすことを黙認しよう。だが、私が勝てば少なくともこの家に君を住まわすことを許さない」

 守璃さんの苦渋に歪んだ表情から決定事項を告げられた。もちろん俺に拒否権などない。

 なんて勝手で、何て横暴な意見の押し付けなんだ。

 守璃さんって、知的で冷静に見えて案外脳筋思考なのかもしれない。爛さんとおなじくらいには。

「……大体、君がしっかりしていればこんなことには――どうせまんざらでもないと思って鼻の下を伸ばして暮らしていたに違いない。そんな不埒な輩は文字通り叩き直してやる。ついでにこの家からも叩き出せて一石二鳥だ。うん」

「すごく不穏な本音が聞こえたような――」

「何か言ったかね」

「いえっ、何も」

 何を言ってもやらされるんだろうし

 ジト目をしていた守璃さんは、コホンと一つ咳払いをしてまた話し始めた。

「それじゃぁ、ルール説明をする。時間は無制限、君が私に有効打を浴びせられたら君の勝ち。それ以外は、私の勝ちだ」

「「………」」

「それだけ!?」

 一見俺の方が有利に見えるけど

 そんなことを思っていると守璃さんはさも当たり前のように言ってきた。

「当たり前だろ。それなりの実力差があるんだから」

 そこにはなんの侮りも含まれていなかった。おそらく試合を平等にする。守璃さんのまじめさのみからきたルール何だろう。

 そう言う点では、やはりこの人はまともな人なんだと改めて実感する。

「ちなみに、私は君に指一本触れ指す気はないし、触れられることもないから防具などは着けない」

 ……訂正しよう。多少侮りはあるようだ。

「では、試合を始めようか」



 試合が始まって早々に俺は攻めあぐねていた。

 というのも、守璃さんの装備に問題があった。

 守璃さんは、左手に木盾、右手に木剣を構えていた。

 俺は、爛さんとの模擬試合で木刀との試合経験はあったが、それ以外の武器とは試合経験がなかった。

 リーチは俺の方があるし、攻撃の重さもこちらに分があると思う。

 でも、責められない。まるで蛇ににらまれた蛙の如く。指の一本すら動かせない。そんな鋭い凄みを守璃さんからぶつけられていた。

 これが、爛さんだったら――

『おいおい、攻めてこないのか』

 ――なんて挑発してくれるんだけど

「………」

 守璃さんは、固く口を閉ざしている。

 どうすれば――

 すると、不意に守璃さんが俺の方に一歩だけ足を踏み出した。

 っ!

 俺は、条件反射的に大きく後方に飛びのく。

 ……間違いない。俺はビビっている

 一度も刃を重ね合わせていないにも関わらず敗北した時のイメージを想像している。

 始まって気づいた。時間無制限で勝ちの明確な基準の無い守璃さんの優位性に。

 どれだけダメージを追わされても終わらないかもしれない。

 いつもの無心にどうやって打ち込むかのみの思考にどうしてもなれない。

 無駄な事――雑念が頭いっぱいに満たされ今にもパンクしてしまいそうだ。

 俺は、とにかく大きく動き出した。

 これ以上の硬直は何かに押しつぶされてしまいそうだったから。

「……はぁぁぁぁ!」

 自分を叱咤するように声を張り上げる。

 やけくそと言ってもいい。

 どうしようが負ける。

 そんなイメージを持ちつつ真直ぐに守璃さんの方に向かう。

 対して守璃さんは避けるそぶりを見せない。かといって盾を構えるそぶりもない。

 完全無防備な守璃さんに俺の一撃が迫った。

 いけるのか。そう思った時だった。

「愚かな」

 冷ややかな口調でボソッと呟いたその言葉は、まるで耳元で囁かれているかのように嫌にはっきりと聞こえた。

 そして、俺の一太刀は空を切った。

 当たる寸前、守璃さんは半身になって紙一重のところで躱していた。

 肉眼でも視認できていなかったが、体の位置的にそうなのだろう。

 そして――

「君の実力はその程度か」

 言葉をすべて聞き取ったすぐあとに、俺は吹き飛ばされた。

 壁に当たり咳き込み、遅れて腹部に鈍い痛みが広がる。

 目じりに涙を蓄えつつ守璃さんを見ると、木剣を振り切った後の姿だった――

こんにちは五月憂です。

今回は、後半からバトル展開開幕。

次週は、一話丸っとバトル回。果たして夏樹はどうなるのでしょうか。

次週も是非読んで見てください。

最後になりますが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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