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第二十七話 救世主のお部屋

 夏樹が車の人物と接触した頃、『とばり荘』では驚愕の声がこだましていた。

「誤解だったぁぁぁ!?」

 もちろん、その声の主は守璃である。

「そうです。お恥ずかしいお話しですが、私は夏樹さんに助けて頂きました」

 私は、守璃さんに事の真相を告げました。

 本当は追い出されたときにすぐに夏樹さんを引き留めに行きたかったのですが、そのすぐ後に、守璃さんのお説教が始まってすっかり打ち明けるタイミングが遅くなってしまいました。

「しかし、でも……」

 守璃さんの怒りはすっかり鎮火していましたが、それでも納得しがたいのか、アウアウと口を開閉し手を弄んでいました。

 おそらく、あそこまで怒ってしまって引っ込みがつかなくなったのでしょう。

 もちろんその意図を察したのは私だけではなかったみたいで、

「……守璃。ごめんなさいしないとダメ」

 クロちゃんが逃げ場を塞ぐように守璃さんを注意しました。

 愛らしいへの字口をしたクロちゃんにも注意され、守璃さんは肩を縮こまらせて弱弱しく「はい」と答えました。

「では、明日の朝にでも、夏樹さんをこの家に戻してもいいですね」

 それについては若干不服そうで、何か言おうとしていましたが、しばらくして守璃さんは無言でうなづきました。

 場を満たしていた空気が緩んだことによって今まで黙っていた爛さんが笑い飛ばして言いました。

「まぁ、仕方ねぇよ。人間間違いはあるって」

 さっきまで怒られていても一切反省せずのらりくらり交わしていた爛さんに守璃さんはムッとしました。

「もとはと言えば! お前の軽率な態度とあの男の許容な態度が……」

 しかし、そこまで言って守璃さんは急に押し黙りました。

 そして、

「そうだ。確かに今回は私の早とちりだったことは認める。だが、今後はわからない。こんな誤解が生まれるのも元はといえば、奴が拒否しないから悪いんだ――」

 あらぬ方向へと、守璃さんは思考をめぐらし始めました。

「――どうせまんざらでもないと思っているに違いない」

「そんなことは――」

「いや! そうに違いない! 男とはそういう生き物だ! だから、私が叩き直してやる!」

 守璃さんの目に新たな火が灯ったのでした。

 夏樹さんごめんなさい。また、厄介なことになってしまいました。

 私は、明日訪れるであろう夏樹さんへの不運な出来事を想像しつつ、心の中でそれを止められなかったことを謝罪しました。



 夏樹が車の中を覗いてみると良く知る人物がそこにはいた。

「やっぱり! 夕月夏樹じゃんか」

 声をかけて来たのは、二十代後半ぐらいの若い女性だった。

 シックで飾り気のない服装が余計にその美貌を際立たせるそんな女性。

「大家さん!」

 そう、俺が『とばり荘』に住む前にいたマンションの大家さんだ。

「元だけどな」

「こんなところで、何やっているんですか?」

「ちょっと実家に行ってたんだ。それより、何やってるのかはこっちのセリフなんだけど」

 時間もそれなりに遅いし、大家さんがそう聞くのも当然である。

「あはは、それは――」

 大家さんの質問にどう答えたものかと思いつつ、とりあえず住人間のトラブルで今日は家に帰れない旨だけを伝えた。

 すると、

「んじゃ、家くるか?」

「いいんですか?」

「だって泊まるところないんだろ?」

 そう言って、大家さんは俺を助手席に乗せて走り始めた。

 シンとした車中。音楽はかかっておらず車を走らせる音だけが振動と共に伝えられるそんな感覚を感じた。

「何だか意外です」

「何がだ?」

「大家さんはもっと適当な人間だと思っていました」

「助けてもらっといてそれかよ」

「だって、日中は寝てばかりでだらしないところしか見てないし、俺が引っ越しするときも適当に話を進めちゃうし、てっきり他人に興味がないのかと思っていました」

 そんな印象があったからか、今日の彼女からはギャップを感じた。

 スーツではないが実家に行くにしてはかっちりとした服装に、寝癖一つない髪。

 もしかして、お見合いでもあったのか!?

 と思いつつ、イヤイヤこの人に限ってないだろうと頭の中の想像を扇ぎ消した。

「なーんかむかつくこと考えてないか?」

 大家さんは、ジトッと目を細めて俺をにらむ。

 運転中だから前見てくださいよ

「大体、他人に興味がない人間がマンション経営なんてしないだろ」

 言われてみればそうだ。

 様々な見ず知らずの人と確実に関わらないといけない仕事ではある。場合によっては、住人間のトラブルなどにも仲介に入らないといけないだろうし。……そんな姿全然想像できないけど

「じゃぁ、興味があるんですか」

「まぁ、それなりには……な」

 大家さんはどこか遠い目をしてそう言った。

 そして、しばらくしてから数週間ぶりのマンションに着いたのだった。



 俺は、マンションの一階――大家さんが住む部屋へと通された。

 やっぱり元俺の部屋と一緒の造りで別段慣れない印象を受けなかった。っが、違う問題が発生した。

 汚い!

 これが若い女性が住む部屋か!

 純粋な男の子の夢をぶち壊す光景が広がっていた。

 テーブルには、空いた缶ビールで埋め尽くされ、床には服が散乱していた。

 違う意味で居心地が悪い。

「おー、適当に座ってくつろいでくれ」

 どこでくつろげって言うんだよ!

 心の中でグッと我慢して、一宿一飯の恩義と思い無言で片づけを始めた。

 その間大家さんは奥の部屋へと姿を消し、しばらくしてから再び現れた。

 普段通りの、タンクトップとショートパンツでだ。

「また……なんて格好しているんですか」

 もう怒る気力も無くなり弱弱しくそう訴えかけた。

「良いだろ。あたしの部屋なんだから」

「それでも、俺も男なんですからもうちょっと気を使ってくださいよ。大家さんに羞恥心はないんですか」

「無い! あっ、後、大家さんは禁止な。もうお前は住人じゃないんだから。そうだなぁ……沙由里さんだ。沙由里さんって呼びな」

 大家さん――もとい沙由里さんは、そう言うと冷蔵庫から缶ビールを持ってきて、今ちょうど俺が作ったばかりのスペースにドカッっと座り込んだ。

 そして、

「んじゃ、夜は長いんだ。新生活の話でも聞かせてくれよ」

 俺は、この時理解した。長く面倒な夜がこれから幕を開けることを。

皆さんこんにちは五月憂です。

前回のあとがきでだした問題の答えは大家さんでした。

大家さん。この話でついに名前も出てきたわけですが、実は初期の設定では名無しキャラでそのまま終わるつもりだったんです。しかし、心変わりというべきか、今後準レギュになることも最近考え始めた出世キャラです。

今後の――そして次話の大家さんの活躍を是非皆さん見守ってあげてください。

最後になりますが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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