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第二十五話 登場・降臨・襲来

 胸にぽっかりと空白が出来てしまった。

 そんなことをここ数日で俺は感じた。

 阿冶さんとクロと爛さんと出会い、暮らしていくうちに縮まっていく関係性。初めは拒絶され、次にすれ違い、そして引き裂かれそうになった。そんな、今までに出会ったことのない出来事を体験し、そして乗り越えた。

 次第に俺の混乱も収まり、今はごく自然に――それが当たり前のようになった。

 だからだろうか。

 だからだろう。

 俺は、今空っぽなのだ。

 空っぽって言うと、まるで何事かがあったようだ。

 空っぽって言うと、まるでそこに何かがあったようだ。

 そんなことはない。

 この空白は、初めから何も埋まってはいなかった。

 自分を急かし、追い詰め、無理やり他の事で覆っていただけだ。

 でも、今の生活が幸せで、自由を手に入れてしまった。だから、今そう感じてしまったのだろう。

 ここまで色々と小難しいことを述べはしたが、要するに俺は、空いた時間の使い方が分からないのだ。

 今までは、伯父さんたちに迷惑をかけないように物を欲さず部活にも参加しなかった。一人暮らしは、家事に勉強に時間を費やした。

 良くも悪くも贅沢をしてこなかった俺は、今になってこの無趣味のおかげで何をしていいのかが分からなくなっていた。

 自由を手に入れても、自由の使い方が分からないでいた。

 だから、心の底で願ってしまっていたのかもしれない。

 この空白を埋めてくれる何かを。

 紛らわせてくれる出来事を。

 だが、神というのは残酷だ。本当に色々な意味で、それを俺は知ることになった。



「――この寒空の下で」

 なにかそれっぽいモノローグを語ったが、そんなことを言ったところで今の状態は何も解決しない。何も変わらない。

 現在の時刻は……わかんないけど、たぶん午後8時頃だと思う。

 思うって言うのは、現状時計が無いからだ。

 まず、とばり荘に俺はいない。

 とばり荘から学校への道を一人でとぼとぼと歩いている。

 しかも、手ぶらで。

 財布もスマホも持っていない。

 文無しとはまさにこのことだ。

 これが、自発的行動だったらまだよかったのだが、そう言うわけではない

 もう、本当に嫌になってくるレベルだ。

 そんな気分になってまで、俺がここにいる。

 その理由を知るには、ほんの三十分程時間を遡る必要がある。



 夕飯を食べ終えた俺は、爛さんとクロと一緒にテレビを見ていた。

 本当は阿冶さんの手伝いをしたかったのだが、どういうわけか甘えモードに突入したクロが、俺を座椅子替わりに膝の上に座り込み、一向に離してくれそうになかったからおとなしく付き合うことにした。

「……爛早く」

「大丈夫だって、まだ始まってないから」

「何が始まるんですか?」

「知らないのかよ夏樹。今話題のバラエティ番組だよ」

「……サバイバル生活。お魚おいしそう」

 あぁ、確かに二人が食いつきそうな番組だ

「滅茶苦茶面白いから! あたしもサバイバルしてー」

「爛さんだったら、結構余裕で出来るんじゃないですか」

「そうかな? へへへ」

「何で照れてるんですか」

「……クロも自分でお魚取って、食べたい」

「機会があったら釣りにも行きたいね」

「ん!」

 それにしてもテレビか。アイツもおんなじようなこと言って俺に薦めてきたな

 俺は、義妹の事を思いだす。

 明るく、生意気だけど優しい子。

 黒髪のショートボブが良く似合う妹を不意に思い出した。

 ホームシックってわけじゃないけど、クロと関わっていると思い出すことがある。

 まぁ、今はクロとは似ても似つかない。身長も性格もこんなに甘えてもこないし。昔は、俺の後ろに隠れるかわいい子だったのに

「……夏樹?」

「何でもないよ」

 昔妹にしたようにクロの頭をなでる。

「おい、二人ともそろそろ始まるぞ」

 爛さんに言われるがまま俺たち三人は、画面に注目する。

 すると、二人の目当ての番組が始まった。

 しかし、丁度番組タイトルが映し出された瞬間に画面は砂嵐に変わってしまった。

「おいおい、どうしたんだよこれからだって時に」

 爛さんは、そう言ってテレビを叩く。

 いやいや、今の時代、薄型テレビに対して叩くという前時代的対処法するなんて……初めて見ましたよそんな人

 そんなことを思っていると、砂嵐が止んだ。

 嘘直った! 

 そう思うと同時に、テレビからまばゆい光が発光した。

 視界全体を白く塗りつぶすようなそんな強い光。

 そして、その光の中から一つの――いや、一人の影が現れた。

 一体、誰だ……



 光が徐々に薄れていき、そしてその人物も明瞭に見え始めた。

 空色のショットカットヘアーと切れ長の目が印象的な同い年くらいの美少女。その姿は、旧時代の異国を彷彿とさせるように、青を基調とした服の上に胸当てや腰当が装備されていた。

 完全な人型ではあったものの、異種人であることはすぐにわかった。

『一体誰だ』

 それに答えたのは、当人ではなく爛さんだった。

「お前は――守璃(しゅり)!」

 守璃――そう呼ばれた少女は、周囲を見渡し。そして、最後に俺を見下ろした。

 気のせいかな。今一瞬すごく嫌なものを見る目を向けられた気が

「今まで何してたんですか。守璃さん」

 いつの間にか、阿冶さんも合流していた。

 どうやら阿冶さんも知っている人みたいだ。

「それは、こちらのセリフです。どうしてあなたたちは、仲睦まじそうにしているんですか」

 阿冶さんと同じ丁寧な言葉遣いではあったが、それは優しいというよりは――いい意味ではマジメ、悪い意味では厳しい。そんな印象を感じた。

「クロ、クロ、彼女は」

「ん……あれは、守璃。御盾守璃(みたてしゅり)。天界代表の神様」

 あれが、天界の代表。

 最後の一人か。

 確かにそう言われてみたら、神々しさを身に纏っている気がする。辺りを見渡す――そんな日常の身のこなし一つですら貴族のように流麗に感じた。

『洗練』まさにそんな言葉がぴったり当てはまる、そんな人だ。

 気づくと、俺とクロがこそこそ話している間に、守璃さんは爛さんと言い争いになったようで、そしてその矛先を俺に向けて来た。

「だから! 私は認めない!」

 怒声を飛ばしながら、守璃さんはビッと俺に指を指す。

 その青眼を、まるで憎き仇敵を見るような目にして

「夕月夏樹! この家から出ていけ!」

 どうしてそうなった

 俺は、状況も把握できないまま、突如現れた女神さまにそう告げられた。


こんにちは五月憂です。

先週の日曜日で遂に20歳になりました。

誕生日は当日は……一人ぼっちで、親からも兄弟からもおめでとうメッセージはこず、リアルの知り合いは二人からしかメッセージがこないという。悲惨な日になりました。

Twitterでメッセージくれた人達ありがとう。

誕生日の話はこのぐらいで、今回遂に最後の一人守璃が登場しました。

彼女が怒っている理由は一体なんなのか次話もお楽しみに。

最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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