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第十七話 とばり

阿冶を探して阿冶の部屋に入った夏樹。

そこには、布団に横たわった阿冶が。心配する夏樹だが、阿冶は唯大丈夫というだけ。

心配しつつも、意見について無事に聞けた夏樹は、後は意見をまとめて名前を考えるだけとなった。

一方で、自分の体の異変をひた隠しにする阿冶。しかし、その限界も刻々と近づいていることに阿冶は気づきつつあった。

昨夜は、一人でずっと家の名前について考えていた。

いくつか候補を出し、その中からとりあえず一つに絞ってから皆にどう説明するか練る。そんなことをしていると、気がつけば夜が明けていた。

今日は、忙しいと思ったのか爛さんのトレーニングのお誘いもなかった。

時間を見ると朝の六時。爛さんは今頃外を走っていることだろう。

そう、思いつつ少し早いけど部屋を出て、居間に向かった。

朝方の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込むと眠気が少しだけ抜けていく。

そして、居間に近づくにつれてそれが良い匂いへと変わっていった。

「阿冶さん。おはようございます。いつもこんな早い時間から朝食を作っていたんですね」

「おはようございます。朝早いと言っても、ついさっき起きてきたばかりですから。大したことないですよ。爛さんの方がいつも早くに起きて出かけていくぐらいです」

「あの人は、元気すぎるんですけどね」

そういって、俺はキッチンのイスに座る。

すると、そっと阿冶さんは温かいお茶を出してくれた。

どうやら徹夜したのを察しているようだ。

眠気覚ましに少し舌をやけどする程度の温度のお茶を一口飲む。

「どうですか。名前は思いつきましたか?」

「ええ、一応は、決まりました。後は皆が喜んでくれるか次第って感じですね」

「大丈夫ですよ。夏樹さんが一生懸命考えてくれたんですから。自信を持ってください」

「だと、良いんですけど……そうだ。折角だから、表札も自作してみましょうか」

「それは、良いですね。物置部屋の奥の方には、家の修繕や補強用に色々なものが置いてあるので探してきてはどうですか?」

不意な思い付きだったけど、阿冶さんを手伝えることもないしと思い、残っていたお茶を飲み干してから俺は物置部屋に向かった。

物置部屋に入るのは二度目だが、久々に入ると以前よりものが増えているように思えた。

「確か、奥の方にあるって言ってたよな」

俺は、阿冶さんが言っていたようにとりあえず辺りを見渡しながら奥へと歩みを進める。

入ってみると、ものが溢れている割には整理されているようだった。

運んだのは爛さんだろうけど、阿冶さんの口ぶりや部屋の様子からして管理しているのは阿冶さんなんだろう。

入り口には消耗品のストックが置かれ、奥に行くにしたがって何に使うのか用途不明のものに変わっていった。骨董品のような壺なんかはわりとましな方で、おびただしい程の御札が貼られた木箱や物々しい刀などの武具なんかも置いてある辺り、あまりここに近寄ろうという気がなくなってくる。

明らかに、人間界のものじゃなさそうなものだってあるし

そんなもののさらに奥に補修用の道具類が置いてあった。

木材にペンキ類、道具は十分だったが一つ疑問が生まれた。

「何でこんな奥地に? そして、この箱」

お札こそ張られていないが、木箱には持ち出し厳禁と書かれておりいくつもの金具で箱を閉じている。

見なかったことにしよう。そう思いつつ木材に手を掛けると、驚く程木材が軽かった。俺の身長と同じぐらいの高さの木材が片手で楽々に持ち上がる。

そして、ふと思い出した。この家は、空間拡張と言った異世界の技術が使われている。そんな家に使う補修道具が果たしてまともなものだろうかと。

何の変哲もないただの木材だが、人間界には存在しないものかもしれないと思うと、阿冶さんが教えてくれたから安全だとは思うけども、少しだけ異様なものに見えた。

「……材料の確認良し!」

後は爛さんに頼もう

俺は、何も持たずに踵を返した。



「では、この家の名称を発表します」

皆が朝食を取り終えてから俺はそう切り出した。

『期待してるぜ』なんて、爛さんがハードルを上げてくるも、俺は事前に用意しておいたフリップを皆に見えるように出した。

俺が考えた名前それは――

『とばり荘』

「とばり?」

 最初に反応したのは爛さんだった。

「とばりっていやぁ、たれぎぬとかのあのとばりか?」

 さすがは爛さんだ。『とばり』と聞いて『帳』を想像したようだ。

「はい。あのとばりです」

「……とばりってなに?」

 クロが不思議そうに聞いてくる。阿冶さんも口には出していないが同様に知らないようだ。

 当たり前って言えば当たり前か。いくら現代の人間界について勉強していたとはいえ、今はあんまり使わない言葉だと思うし

この反応もあらかじめ予想しておいた通りで、俺は落ち着いて説明を続けた。

「とばりって言うのは、室内と外を隔てるたれぎぬとかの事だよ。重要なのは、空間を隔てるってこと」

「隔てる?」

 阿冶さんは、不思議そうに聞いた。

「クロが言ってたでしょ『種族関係なく温かい場所にしてほしい』って。この家は、人間界(こっち)と異世界を隔てる場所だと思うんです。でも、隔てるってことは同時に中継するってことでもある。ここは、妖界の人も怪物界の人も冥界の人も天界の人も、もちろん人間も。いろいろな人たちが出会い交流する場であって欲しいと思うんです。だから、とばり。阿冶さんに『ここがどういう場所になって欲しいかを考えてみて』って言われて、今の俺達がここで出会って仲良くなったみたいに、その輪を広げていけたらいいなと思ったんです。そこから、世界を隔て世界を繋ぐ憩いの場っていう意味でこう名付けてみたんだけど。どうですか?」

 クロはしっくりきていないって顔をしていたが、俺の話を聞いて表情が明るくなり尻尾を忙しなく左右に振り始めた。

上機嫌になるクロ。よく分かってはいないのかもしれないけど、俺がどういう未来を描いているのかは大体伝わったみたいだ。

そして、俺は思いだしたように加えた。

「ちなみに爛さんからもらった本から『とばり』って言う言葉を見つけたので、和風も入ってますよね」

「そうだけど。何だかあたしの意見はおまけみたいな言い方だな」

そうはいいつつも、爛さんも納得した表情をしている。

そして、その様子を静かに見ていた阿冶さんが取りまとめる。

「では、この家の名前は『とばり荘』に決定ですね』

 それからは、あっという間だった。

 木板を爛さんが刀で斬って、クロが可愛い文字で『とばり』、阿冶さんが達筆で『荘』の文字を書いた。そして俺が最後に門の横に取り付ける。

 全てが完成してから四人で門の前に立った。

 なんというべきなのか、ただz表札を作っただけなのにすごい充実感を感じる。

 それは、俺だけが感じていることではなかったようだ。

 阿冶さんも爛さんもクロもみんな同じ顔をしている。

 思えば、分担こそしても同じものを全員で協力するのは初めてだったかもしれない。

 とにかく、今日からこの家は『とばり荘』となった。



 夜。もう大分遅い時間だったけど、日中が充実していたせいか一向に眠れなかった。

 俺は、気分転換に何か飲み物がないかなと思って一人真っ暗の廊下を歩いていく。

 部屋がある区画を折り曲がり居間へと続く廊下を歩いていると、不意にビタッと足を止めた。

 止められたというのが正しいかもしれない。

 中庭から人の気配を感じたのだ。

 俺は、その場から視線だけを中庭に向ける。

そこには確かに人の後ろ姿があった。

 この家には何人も人が住んでいる。別にそこまで不思議なことではない。ただ、それは阿冶さんでも爛さんでもクロでもなかった。

 真っ白い肌に腰まである艶やかな銀髪の女性。

 誰だ?

 泥棒。そんな風には感じなかった。

 どこかこの世のものとは思えない雰囲気。自然と異種人だと感じた。

 女性は、スッと流れるように半分だけ振り返る。

 鋭利な赤い目――爛さんの鋭さとは違うもっと冷え切った冷たい赤い目をしていた。

 そして、

「消えた」

 瞬きをした瞬間に女性は目の前から消えた。

 ……夢だったのか。或いは――

 この夜、ますます俺は眠れなくなった。

こんにちは、五月憂です。

改稿の都合により差し込み投稿二話目となります。

今回で、とばり荘の名前が決まるところまでは終了しました。

次回からは、阿冶編のメインの話に移っていきます。阿冶編が終わると改稿は一時中断となりますので、ラストスパート頑張っていきます。

最後になりますが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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