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第十六話 秘め事

夏樹達の住む家。その持ち主が夏樹であることが分かり名称も一任された夏樹。

それぞれの意見を聞いて、決めようということになり、さっそくあらわれたのは爛だった。

漠然とした爛の家に対するイメージである「和風」「かっこいい」の二つのキーワードを手に入れることができた。

そして、入れ替わるようにして入ってきたクロ。普段通り「夏樹の好きなように」という言葉を言いつつも、自分なりのこの家に対する思いを語る。「種族なんて関係なく温かい場所」クロがこの場所をそう言う風にとらえていることを夏樹は初めて知った。

 爛さんに引き続きクロと順調に意見が聞けて、後は阿冶さんを残すだけだった。

「阿冶さん」

「阿冶さん?」

「阿冶さ~ん」

 居間、キッチン等といつも阿冶さんがいる場所を探して周るが阿冶さんの姿が見つからない。

 家を一周する際に玄関にも立ち寄って確認したところ、靴はあったから家の中には確実にいるはず。

 そう思いながら、俺が最後にやってきたのは阿冶さんの部屋だった。

「……緊張するな。そう言えば、阿冶さんの部屋に入るのって初めてだ」

 阿冶さんはおろか、爛さんやクロの部屋にも俺は一度も入っったことがなかった。というのも、皆普段は共有スペースである居間や、トレーニング用の道場、景観のいい中庭が見える廊下などにいることが多かったからだ。また、俺が入らなかったのにはもう一つ理由があって、単純に女の子の部屋に入るということへのハードルが高く感じられていたからだ。緊張もするし、何よりもこの家で唯一と言ってもいいプライベート空間だ。例え、いつもべったりなクロやいろいろさらけ出し切っている爛さんであろうとなかなか足を踏み入れようとは思わない。

 まぁ、俺の部屋へは気軽にみんな入ってくるんだけど、そこは意識の違いなんだろうな

 俺は数回ドアの前で深呼吸し勇気を振り絞って、ノックを三回した。

『………」

 しかし、返答はない。

「阿冶さんいますか?」

 思い切って外から声を掛けてみるもやはり返事はない。

 いないのか? そう思いつつ、一応ノブに手を掛けると鍵はかけていないようで開いてしまった。

 悪いことだとは思うけど、一応中をそっと覗いてみる。

 阿冶さんの部屋は俺よりも少し広く、内装は半分畳、半分フローリングと言った少し変わった構造をしていた。ただ、全体的には落ち着いた部屋で派手な色のものがなく、真っ白のドレッサーとクローゼットに真っ黒の姿見とテーブルのように調和のとれた家具が並んでいる。一見して、同じ家の部屋だとは思え無いほど俺の部屋とは違っていた。

 そう言えば、以前部屋の紹介をされた際に、各々の部屋は広さも含めて全てオーダーメイドで作られていると説明された。だから、和室だけでなく洋室にも出来るし、こういった和室と洋室が混じった部屋にもできるようだ。

 言われたときは、実感が湧かなかったけど俺も要望すれば短時間で手入れしてもらえるらしいから、俺も自分の部屋の内装を考えてみようかな

 俺は、初めて入る同い年くらいの女の子の部屋を興味本位で見回し、最後に、畳に敷かれた布団で眠っている阿冶さんに気がついた。

 起こしては悪いし、無許可で入るのもどうかと思ったけど、俺はそっと物音を立てずに部屋の中へと足を進めた。

 というのも、最近阿冶さんの様子がおかしいように見えていたから、実は本当に体調が悪いのではと思ったのだ。

 布団の傍で腰を下ろし阿冶さんの顔を覗く。

 顔に赤みなどもないし、汗を掻いているようでもない。どうやら熱を出したわけではないと俺は一安心すると、心配が緩和され途端に今の状態を理解した。

 静かな寝息を立てて眠る阿冶さん。真っ白の肌はビスクドールのように白く透き通り、細く艶やかな濡羽色の髪は今まで見たことがない程の美しさを誇っている。

 はっと息をのんだ。

 ここに居てはいけない。俺は慌てて立ち去ろうとした。

 すると、その静かな空間を断ち切る、小さくもはっきりとした声が聞こえた。

「夏樹……さん?」

 心臓が大きく躍動した。

 そっと視線を戻すと、阿冶さんは布団に横になったまま気だるそうに目をこちらに向けていた。

 俺は、一気に冷や汗をかき、どう言い訳をしようかと思考を巡らす。

 偶々部屋が開いていて、爛さんにそそのかされてい、いやいやそれじゃぁ、すぐばれるし……そう言えば、言い訳しなくていいじゃん

 変な罪悪感でつい言い訳しようとしてしまったが、別に言い訳する必要はなかった。

「阿冶さん最近疲れているみたいでしたから、少し心配で」

「すいません心配かけて」

「いえ、阿冶さんが謝ることじゃないですよ。俺が勝手に心配しただけですから、本当に体調は悪くないんですか?」

 そう言うと、阿冶さんは少しだけ迷ったような顔をして閉口する。

 意外と頑固というか、意固地というか、なかなか弱い自分を見せてくれない。

 しかし、ここまで来たら俺も後には引けない。頑なに布団の傍から離れず、阿冶さんが話してくれるのをじっと待つ。

 どれくらいたっただろうか。寝息すら聞こえなくなった部屋は静けさを通り越して無音。実際には一分も経っていないのだろうが、もう数分もこうしているように感じる。

 そして、遂に折れたのか少しだけ息を吐きだした阿冶さんがやっと話し始めた。

「少しだけ寝不足なんです。だから、少し眠くってついお昼寝を」

「大丈夫なんですか? 何か心配事でも」

「いえ、唯少しだけ寝苦しくって。……もしかしたら、怪物界との環境差かも」

「それは大変なんことなんじゃ!」

「大丈夫です。大丈夫。もう上の方に報告済み何ですぐ対処できますから。すいません心配させて」

「そうですか? なら良かったです。でも、あまり無理はしないでくださいね」

 もう誰かに相談しているならとりあえず良かった

 俺の心配が逆に重荷になっているのか、体を起こして俺をなだめる阿冶さん。そんな反応をされたのでは体に障ると思って、俺はそれ以上の詮索を辞めた。

「それより、夏樹さんは私に意見を聞きくために探してたんじゃないですか?」

「そういえばそうでした。途中で目的が変わってました」

「フフッ、優しい人。私の意見はそうですねぇ――」

 そう言って、阿冶さんは考え始めた。

 口元に手を持っていきうーんと唸る仕草をする。

『無理に考えなくても、また聞きに来ます』と、言おうかと思ったときに阿冶さんは何か思いついたみたいで俺に向きなおった。

「……私からは、一つです。これまでの私達らしいもの、そしてこれからのここを象徴するものが良いです」

「象徴するものですか?」

「はい。これからどうなっていきたいのか。目標ではないですけど、ここがどういう場になってほしいかということを考えてみると、これから困難や迷いがあったときでも皆を繋ぎとめてくれそうな気がするんです」

 そういう阿冶さんの口ぶりが、今後のトラブルを予期しているようで妙に心がざわついた。病人ならではの弱気から出た言葉なのかもしれないが、阿冶さんのその表情が何か確信づいたものを含んでいる気がするのは俺の気のせいだろうか。

「うーん、これからの目標かぁ。これはちょっと大変そうだな」

「難しいですか……」

 心の突っかかりを紛らわそうと柄にもなくおどけてみると、思った以上の阿冶さんの返納にすぐに否定した。

 こんな心苦しいことを爛さんは俺にいつもしていたのか

 いつもの爛さんをお手本にしてみたけど、罪悪感というかこちらの方がどうしていいのか分からなくなりり、普段の爛さんに一瞬尊敬のような念を持った。しかし、その爛さんの様子からして俺になんの罪悪感も抱いていないように見えて、俺はこの感覚が誤認であることを認識した。

「割と助かりました。爛さんもクロもそこまで具体的に言ってくれなかったから」

「そうなんですか? 二人はどんなこと言ってましたか」

「そうですねぇ。まず爛さんは――」

 二人の話をしばらくした後、阿冶さんは夕食を作りに布団から出た。

 元気になった。そうは言っているものの、やはり少し心配で俺も夕食づくりを手伝った。

 そうこうしている間に時が過ぎ、夕食後になって居間で会談をしていると、何気なく爛さんが聞いてきた。

「そう言えば夏樹。家の名前は決まったのか?」

「いえ、まだ何も。色々考えてみているんですが。結構悩んじゃて」

 阿冶さんに気を取られていたって言うのもあるが、名前を決めるということ自体が単純難しかった。

 とりあえず、阿冶さんが言ってくれた自分達らしさとこの場が今後どうあって欲しいのかをベースに、クロと爛さんの要望に沿うように考えている。

「そうだろうと思ってさ。これを買って来たんだ」

 そう言って、爛さんが差し出したのは数冊の本だった。

 とりあえず表紙を見てみると、日本文化である茶道や華道の本に木造建築の本、昔ながらのお菓子の本に刀の本と様々だったが、一つ共通しているのが和風であるということだった。

「和風って漠然と言っちまったからな。参考になりそうな本を出先で買って来たんだ」

「出先って冥界ですよね」

「そうだけど」

「何でこんな本が」

「あっておかしくはないだろう。なんてったって、こちら側の死者が行きつく場所なんだからよ。人間界で発行されているものよりも、実際にそれらが教養であった時代の奴や流行っていた時に著名だった奴らが執筆してたりするから情報はたしかだぜ」

 確かにそうかもしれないけど。冥界ってどんなところなんだろう。

 冥界の印象が段々と分からなくなりつつ、とりあえず参考にしようと、俺は貰った本を手に自室で一人考えてみることにした。


 やってしまった。

 言わなければ夏樹さんは引き下がりそうになかった。だから、ついつい嘘をついてしまった。

『上に報告』なんてしていない。『少し寝苦しい』なんてものじゃない。

 夏樹さんに心配を掛けたくなくて。なにより、幼狐様に報告されたくなくて。

 嘘をついた。

 そして、今夜もこの体の異変を私は一人で抱えている。

 あの時、正直に言っていれば今夏樹さんが寄り添ってくれていたのかな

 夏樹さんがそっと肩を抱いてくれる姿を想像し、架空の夏樹さんの腕に手を持っていくとあっけなくもするとすり抜けてしまう。

「寒い」

 体は熱いはずなのに、心はとてつもない寒さを感じている。

 寂しい。辛い。

 でも、言えない。言ってはいけない。

 そう、()()()に言われたから。

 私は、夏樹さんを信じるしかなかった。

こんにちは、学校が始まりそうで憂鬱な五月憂です。

今回は、一度やってみたかった他作品のパロディーを出してみました。

良いですよね。自分の作品に自分の好きな作品を少し出す。何だか嬉しくなります。

今作で決定した「とばり荘」という名前。実は、最近決定した名前なんです。

当初はもっといろいろ案を出していたんですが、全却下して話しが進むにつれて思い付いた「とばり荘」にしてみました。

今後も「とばり荘」の住人達を見守っていただけると嬉しいです。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。



【改稿後】

第十六話は、完全に一新して阿冶の意見と体の異変について書きました。

ちょっとずつ見え隠れしていた阿冶の症状が遂に夏樹の目の届くところにまで現れ、阿冶も限界を感じていく。

今後の阿冶の話に繋がる部分なので一話分使って書きました。

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