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第十三話 結局こういうオチですか

爛は己自身と戦った。己の中の恐怖心を振り払うために。

拮抗する力、決定打を見いだせないまま加速し、激しさを増していく闘いを遂に爛は制した。

やっと、心の準備ができた。

激しい戦いはあくまで前哨戦。夏樹と再び打ち合い自分について語っていく。

拒絶。裏切り。それらに対する、恐怖心を。自分の中の弱い自分を吐き出しさらけ出す。

そして、夏樹はその言葉の全てを受け止めたのだった。

「夏樹しゃーん、仲良くしようぜー」

「ちょっと、爛さん。冗談はやめてください」

 爛さんは、俺を押し倒すと馬乗りになってグッと顔を近づけてきた。

 入浴後ということもあって、蒸気した美しい肌からは、玉のしずくが伝って落ちていく。

 着崩された和服は、押し倒した時に一層乱れて肩口までずり落ちてしまい、あと数センチずれればその豊満な双丘が露わとなってしまいそうなほどだ。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。せっかくいい雰囲気で和解できたはずだったのに

 あの後、浴場で汗を流した俺は、普通に居間に戻ってきたところ、急にキッチンから現れた爛さんに押し倒されて――

 パニック状態になりながら、少しずつ今の状況にいたった過程を整理するが、やはり今の状態になった理由が見えてこない。

 そんな俺をよそに、さらに爛さんは顔を近づけてきて、もう鼻先がすれそうなほどになっていた。このまま、進むとキスは免れない。

「ちょっと、爛さん。ほんといい加減にしてください!」

 俺は、グッと爛さんの肩を持って体を引き離す。

「さすがに悪ふざけがすぎますよ!」

「えー、そうからー」

「爛さん、大丈夫ですか。様子がおかしいですよ」

 何だか陽気な爛さん。

 呂律が回っていないような

 よく見ると、鼻周りがほのかに赤い。

「……もしかして、酔ってます?」

「らいじょうぶ、らいじょうぶ、酔ってないよ~。ただ、幼狐が買ってきたジュースを飲んだら何か気分が良くなって~」

「ジュースって?」

「さぁ~? でも、なんかシュワシュワしてらよ~」

 それだよ! あのバカ狐一体何てことしてくれたんだ!

「それよりさ~、仲良くしようぜ~」

 そう言って、また爛さんが顔を近づけてくるが、今度は未然にそれを防ぐ。

「だから、ちょっと待ってください。何で急にそうなるんですか」

「なんらよ~。いいじゃんか~。なんか~、夏樹を見たらそういう気分になっらんだよ~」

 意味が分からん。さっきのシリアスな雰囲気がぶち壊しだよ

「それで、何で馬乗りになっているんですか?」

「好きだろ? 男は」

「誰がだ!」

 偏見だろ!

 何でそんなこと言ってるのか分からないって顔で、爛さんはキョトンとしている。

「はぁー……分かりました。分かりましたから。仲良くするのはいいですから、とりあえずどいてください」

「え~っ」

「どいて!」

 爛さんは、しぶしぶ返事をして立ち上がろうとした。

 すると――

「あれ?」

「どうしたんですか?」

「アハハ、何か立てないや」

 いったい何をしてるんだ。この人は

「はぁー、じゃぁ、もう少しだけですよ」

 俺は二度目のため息を漏らす。

 どかそうと思えば、どかせる。そうしなかったのは、たぶん爛さんの顔が安心したように緩み切っていたからだ。

「えへへ、やっぱり夏樹は優しいな」

 まったく、何て笑顔だ。普段、にへらっといやらしい笑みばかり浮かべているから、こういう屈託のない笑顔をされるとどう接していいか分からない。

 そんなことを思っていると、今度はそのいつものいやらしい笑みを爛さんは浮かべる。

 そして、何の前触れもなく和服を持ち上げた。

「そうら~。約束通り見てくれろ~。あらしの下着」

 そう言って見せてきたのは、真黒の下着。その布面積は、普通の下着の布面積の二割ほどしかなく、あってないようなものだった。

「ちょっと爛さん。それは、まじでやばいですって」

 本当に予想外。誰も助けてくれる人はいない。身動きも取れない。そして、爛さんは眼前に。

 あんな約束するんじゃなかった

「これいいよら~。邪魔ららいし~、胸が固定されて動きらすいし~」

 そう言って、わざわざ胸を揺らす。

 頭上を行ったり来たりするその大質量の物体。

 もう頭に血が上ってクラクラし始めていた。

「で、どうらよ。夏樹。あらしの下着は」

 こんなに魅力的で、逆に襲われることなんて微塵も思っていないのか

「……外では、そんな恰好しないでくださいね」

「ん?」

「だから、他の人にそういう格好とかそういう挑発的な事はするなって言ってるんです!」

 どんな感想を言っていいのかも分からないので、そう言って話をすり替えたが、爛さんは、一瞬驚いたような顔をしたのちニシシっと、いやらしい笑みを向けて来た。

「なんですか!」

「わかっらよ。独り占めしたいほど魅力的ってことらろ」

 爛さんは自分の口元に手を当てて、クロちゃんとは違ういやらしいジト目で言う。

「なっ、俺は爛さんの身を案じて」

「分かっら分かっら、夏樹以外には見せないよ~」

 そう言って、爛さんは再び和服を着直した。

 この人は、ほんとに。……酔っ払いってめんどくさい

 はぁーっと、俺がまたため息をつくと、爛さんは再び俺の方向に倒れ掛かってきた。

 またか!

 そう思ったが、爛さんの顔は俺の顔ではなく、胸にポスッと落ちて来た。

 そして――

「好きだよ。夏樹」

 そっと、爛さんは囁いた。小さい声だったのに、耳元でささやかれたみたいにはっきりと聞こえた。

 その爛さんの切れ長の目は、どこか艶めかしく熱いものが宿っていた。

「なっ」

 どうして急に。それに、LIKEって意味か、LOVEって意味か。はたまた、いつもの冗談か。

 問いかけようと爛さんに再び意識を向けると、爛さんは鼻息をスースーと言わせながら、既に夢の中へと逃げた後だった。

 可愛らしくギュっと服を握られているのに気付いて、ドッと力が抜ける。

「まったく、酔っ払いのいうことなんて真に受けても仕方ないか。それより、この後どうすればいいんだよ」

 熱を帯びた頬を掻いて俺は呟く。



「フフッ、こういう形の自分の出し方もあるのかな」

 私は、居間の前の廊下の影にもたれかかってそうつぶやく。

 昨日の夜にあんなことを言ってしまいましたから、少しだけ心配してみてましたけど、いらない心配だったみたいですね

「それにしても、夏樹さんはすごいですね。クロちゃんに続き爛さんとも無事仲良くなれました。幼狐様が言っていた通り、夏樹さんは選ばれた人なのかもしれません」

 前で軽く組んだ指先を眺めて私は思いました。

 もしかしたら、私も彼によって救われる日が来るのかもしれませんね

「……爛さんが寝てしまいましたか。昨夜は徹夜してたみたいですから仕方ないですね。フフッ、夏樹さんの慌てた表情とても可愛らしい」

 少し意地悪かもしれませんがもう少しだけここから眺めさせてもらいましょうか



 あっという間に、夜になった。

 後から来てくれた阿冶さんの助けを借りて、爛さんを寝室に運んだきり爛さんの姿は見ていない。

 それにしても、阿冶さんが来た時には正直焦った。やましいことは何もなかったとは言え、状態が状態だったし、変な目で見られてもおかしくはなかった。

 しかし、阿冶さんは――

『大丈夫ですよ。分かってますから。爛さんも仕方のない人ですね』

 っと言って、何事もないようにいつも通りの対応をしてくれた。

 信用されてるってことなのか、爛さんの悪ふざけと思ったのかは分からないけどとにかく助かった。

 俺は、何だか眠れなくて、部屋を抜け出してなんとなく道場へと足を運んだ。

 木戸を開けると、道場はシーンと静まり返っていた。

 つい今朝がた。ここで爛さんと打ち合っていたのかと思いながら、自分の手のひらに視線を落とす。木刀越しに伝わってきた重さ、それは唯の重さではなく爛さんの思いの重さ。受ければ受けるほど重みは増していくが、俺はそれに必死に食いついて受け止めた。重みを共に背負えているそんな気がしたから。

 そう言えば、素振りをすることでリフレッシュしているって爛さんは言ってたけど、もしかしたら俺という存在が少しストレスになっていたのかもしれない。ストレスとまではいかなくても多少の不安を抱えていたのは確かだろう。

 日課と言えばそれまでだけど、毎日欠かさずここに来てたのを俺は知っている。

「少しは安心してくれたもらえたのかな」

 傍らで眠りこけるぐらいには

「夏樹」

 そんなことを考えていると、不意に声を掛けられた。

「爛さん。起きてたんですか?」

 その声は、爛さんのものだった。

 振り返ると薄暗い廊下の先に爛さんが立っていた。いつもハネ放題の髪が阿冶さんにとかされてサラサラになっているからか、僅かな月明かりに照らせれてその印象的な紅の髪が艶やかに光を帯びているからか。いつもとはまた違った美しさを纏っていた。

「あぁ、つい今しがたな。でも、いつ寝たんだっけ」

「何も覚えてないんですか」

「何が?」

 酔ってたことは覚えていないみたいだ

 とりあえず、話しを合わせておこう。

「いえっ、疲れて眠っちゃたみたいですよ」

「そうか」

「爛さんは、もしかして今からトレーニングですか」

「いや、夏樹が部屋を出る音が聞こえたから来ただけだ」

「もしかして、それで起こしちゃいました?」

「そんなことはないよ。随分寝てたみたいだし」

「そうですか」

「「………」」

 爛さんのテンションが落ち着いているからだろうか、なんていうのか話しが続かない。

 普段の爛さんと違って落ち着かないように自分の髪を触っている様子が、いつにも増して女の子らしさを強調している。

 そういえば、酔ってるときに『仲良くなりたい』って言ってたな

 爛さんの表情は良く見えないけど、今もそう思っているんだろうか。

「その……今日はありがとな。夏樹」

「えっ、いや、別に俺は大したことなんて」

 急に口を開いたかと思えば、しおらしい声で爛さんからお礼を言われたことに少し驚いた。

「いやっ、あたしにとっては大したことだよ。あたしは、自分がどうしたらいいのか分からないでいた。人との接し方。距離感。何よりも、失いたくないって言う気持ちが暴走してた」

「だから過度な触れ合いが多かったんですか?」

「それ以外思いつかなかったんだよ。男だったらこういうのが好きだろう。こんな女なら裏切れないだろう。こう言ってしまうと、性格が悪いかもしれないけど、そう言う計算は少なからずあったんだ」

 爛さんの考えていたことを聞いて、やっと今までの彼女の行動に納得がいった。

 通りで、行動と表情にずれが生じていたわけだ

「天然もしくは好きでやっているのかと思ってた」

「ムッ、心外だな。あたしは痴女じゃないぞ――」

 爛さんは、少しだけ怒った声を出して歩み寄ってきた。

 そして、顔を近づけると――

「――本当は、恥かしかったんだぞ。心臓が張り裂けるかと思った」

 耳元でそうささやかれた。

 俺も心臓が張り裂けるかと思うほどドキッとした。今まで、お風呂でも、お店でも、恥かしさを隠していたのかと思うと、急に爛さんが健気な女の子に見えてきた。

 今の爛さんは一体どんな顔をしているんだろう。

 興味があったけど、それを見る前に顔を反らされてしまった。

「まぁ、あれだ。そんな感じだったんだけど、おかげで少しだけ吹っ切れた気がした」

 照れ隠しなのか、急に話題を変えた。さっきの言葉を聞いたからか、急にその様子が可愛く思えてきた。

「そうですか。ならよかった」

「よっ、良ければさ。またトレーニングにも付き合ってくれよ」

「良いですよそれぐらいなら」

「そっか……そか。フフフ」

 爛さんは嬉しそうにそうつぶやいた。

 なんだかこちらとしてはむずがゆい。

「……じゃぁ、そろそろ戻ります。夜は冷えるし、爛さんも早く寝た方がいいですよ」

「あぁ、そうだな。おやすみ」

 爛さんは、優しい声色でそういった。

 しかし、それで終わらないのが爛さんスタイルなのだろう。

 すれ違いざま、茶化したように――

「あっ、お前以外には裸を見せないって言うのはちゃんと覚えてるぞー」

「肌をだろ!」

 覚えてたのか! 

 曲解するな!

 このすぐあと、盛大なツッコミに起きてきた阿冶さんとクロちゃんに説教されたのは言うまでもなく。

 翌日からは、毎日早朝トレーニングに起こされる日々が始まった。

 爛さんらしいと言えば爛さんらしい。そんな彼女の幕の下ろし方だった。

こんにちは。五月憂です。

爛遍最終回どうだったでしょうか。爛がメインなのでシリアスに終わるよりも少しふざけたオチを用意してみました。

そういえば、先週ぐらいに大阪に戻て来ました。一人暮らし再スタートです。

自炊をしながら今後も頑張っていくのでよろしくお願いします。

最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも、「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


【改稿後】

今回は、爛編の最後ということで今までの爛の行動の真意を加筆しました。

後半は話し方、姿を女の子らしくして、爛の内に秘めた女性らしさを全開にした展開にしてみました。

新たな爛の一面を皆様にも見てほしいです。

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