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紅い薬:さて、約束を果たそう

 アマヤドリは紅いものが大嫌い。世界を捨ててでも逃げる。それを持っているものはアマヤドリの天敵となる。アマヤドリは臆病。

 しかし、彼がどうなるかはわからない・・・・・この物語は不思議に終わる。


七、

「み、美奈さん・・・・ぼ、僕もう駄目・・・・」

「ふふっ、時雨様ったら・・・・お早いのですね・・・・」

 それから二秒後、僕の右腕はテーブルに着いたのだった。

「み、美奈さんって腕相撲強いんですね?」

「ええ、まぁ・・・」

 腕相撲でここまで体力を消費するとは思わなかったのだが・・・・まさか、美奈さんに負けるとは思っていなかった。

「時雨様・・・・今宵は良い、お月様が出ています。散歩など、どうでしょうか?」

「え、でも・・・・そろそろ寝る時間じゃないんですか?」

「ええ、無理にとは申しません。どうでしょうか?」

 何か話したいことでもあるのだろう・・・・彼女は僕を見て目で訴えかけている。

「わかりました。一緒に散歩に行きましょう」

「ありがとうございます♪」


 月は輝き、僕らは月光の元を歩いていた。散歩といっても近所の公園に来たぐらいである。

 美奈さんは月を眺めながら僕に話しかけた。

「・・・・・時雨様にちょっとお話したいことがあります」

「何です?」

 彼女はそういって僕の目の前に立つ。

「・・・・時雨さま・・・・・」

「え、えええっ?」

 美奈さんは僕を抱きしめた。長身の彼女なので僕の顔はちょうど美奈さんの胸の部分に当たっている。

「え、えと?どうしたんですか?」

「不安なんです」

「何がでしょうか?」

 美奈さんの目には何が映っているのだろうか?

「・・・・以前、私が仕えていた・・・・人は時雨様と同じように紅い薬を飲んでしまった方なのです」

「あれ?美奈さんに薬の話しましたっけ?」

「いえ、時雨様の口からは直接は聞いていません・・・・・」

 恥ずかしくなってきたのでそろそろ放してくれないかなと思ったのだが彼女は許してくれなかった。

「紅い薬はどのような成分が入っているのかまったく知りませんが、別人格を形成し、圧倒的な力を授け、朝のお通じも良くするという薬です」

「いや、最後のは別にどうでもいいことなんですが・・・それより、あれって風邪薬じゃないんですか?」

 僕がそう尋ねるのだが、彼女は答えてくれない。僕はそろそろ頭から煙が出てきそうである。

「いえ、違いますが・・・・・その薬が何のためにあるのかはわかっています」

「ど、どういうことですか?うっ!」

 そろそろ鼻のほうも限界を突破しそうである。

「その薬は・・・・アマヤドリという化け物を倒すために存在するためにあるんです」

「あ、アマヤドリ?それって雨宿りですか?」

 雨宿りのことなんてどうでもいい。今はこの・・・・その、むかむか?いや、むらむら?を押さえ込みたい。頭がおかしくなってきそうだ。

「アマヤドリ・・・・・正確に言うなら雨矢鳥ですね。そのアマヤドリがどのような姿をしているかはわかりませんが・・・・私の昔の主人を倒したのは間違いありません。紅い薬を飲んだものが死んでしまったとき、その薬は再び紅い薬となるのです・・・・基本的に世界に一つしかないものですからね・・・・」

 つまり、あの時飲んだものは美奈さんのもとご主人様みたいなものなのか・・・・・

「ついてないなぁ・・・」

「それを飲んでしまったのなら別に構いません。その事実は今日知りました」

 そういって美奈さんは笑ったのだろうか?

「え?今日?」

「ええ、時雨様のお父さんがやってきたんです。何でも、今日から行方不明になるからよろしく息子に伝えておいてくれって言ってました」

「・・・・・」

 どこの世界に息子に行方不明になると告げる父親がいるのだろうか?いるなら連絡ください。

「でも、そのアマヤドリってものを倒せば僕は別に大丈夫なんですよね?」

「いえ、わかりません・・・・今、絶大な力を持っているというだけの理由でアマヤドリは倒されようとしているのです。今まで、戦ってかった人なんて一人もいませんけどね・・・・けど、もしもアマヤドリを誰かが倒せばアマヤドリをしのぐほどの実力を持つもの・・・つまり、第二のアマヤドリといわれても過言ではありません。そして、その人物もアマヤドリと同じように倒されてしまうでしょうね・・・・」

 つまり、どっちに転んでもいいことはないということなのである。これはまた、困ったことになった。アマヤドリか・・・なんともまぁ、おかしな話である。このときになってようやく美奈さんが放してくれたのだが・・・今となってはなんとなく、名残惜しい。

「・・・・美奈さん、アマヤドリってどこにいるんですか?」

「アマヤドリですか・・・・?」

 雨がいきなり降り出した。

「・・・・このように唐突に雨が降ってきて・・・・」

 降り注いだ雨は光の線となり・・・地面に突き刺さっている。

「どうぞ、傘にお入りください」

 傘の中に入れてもらうと傘に突き刺さって僕らにはなんともなかった。

「・・・・まぁ、こんな感じの時に現れると言われています」

「なるほど、それが今のときか・・・・」

「ええ、噂なんですけどアマヤドリを見たものがいないのは見ると記憶を消されてしまうそうです。アマヤドリ自体を見てはいけないのか、その目を見てはいけないのかのどちらかなのですが・・・・」

 なんともまぁ、めちゃくちゃな存在である。そう思っていると僕の目の前に七色に光る一つの扉が形成された。さて、これからどうしたものだろうか?今すぐ傘を飛び出して・・・・僕がするべきこと。公園の近くに人影はないし、アマヤドリを倒すのは今しかないということなのだろう!

「シグマ!力!力が欲しい!」

 僕は傘を飛び出した。そして、紅い力を持つシグマに話しかける。

「力か?力・・・いいだろう、この力、お前に貸そう!」

 僕は七色に光る扉を通り抜けた。


 そこにひろがるものは永遠の闇だった。

 そして、目の前にいるものは卵だった。

「・・・・これは?」

『ん?おやまぁ、またもや私を卵焼きにしようというやからがやってきたのかい?』

 卵がしゃべった。そして、とても全うなことをしゃべった。

「・・・・・いえ、あの、あなたはアマヤドリですか?」

『ああ、そうといえばそうだけど、違うといえば違う』

「・・・・」

 どっちなんだろ?

 闇は光を生み出したのか知らないのだが、だんだんと七色に光る何かが僕の周りを過ぎていく。

『お前はここに何をしに来た?』

「え、えっと・・・生きるため、敵を討つためです!」

『敵を討つって・・・・何をいまさらって話だね・・・』

 卵がかすかにわれ・・・一つの目玉が僕を捉える。

『よくもまぁ、何も知らないガキがふざけた口を・・・・』

 卵は割れていき・・・・ツバサが現れる。

『この世界は誰のものか・・・・あんた、知っているかい?ここは私の世界。私が手に入れた世界さ・・・・』

 ツバサが卵から生えただけで卵自体はそこまでである。

「・・・・あなたの色は何ですか?」

『色?そりゃ、卵だから白いだろ?』

「僕には紅に見えます。ええ、真っ赤です」

『へぇ、あいつらはとうとうこんなガキでも試そうとしたのかい?これじゃ、私は退くしかないねぇ・・・・・』

 アマヤドリは僕の目の前から姿を消した。

「・・・・・あっさりとしすぎている」

 目の前からさった相手に対して僕は疑念を抱くしかなかった。

「・・・・・アマヤドリは紅いものを嫌います」

「・・・・美奈さん?」

 後ろにはいつの間にか美奈さんが立っていた。

「ここは・・・・私が逃げてきた場所です。ご主人様をおいて・・・」

 光はさらに加速していき、僕らは幻想的な世界にいた。

「・・・・時雨様、とても短い間でしたが・・・・私はあなたのお世話を出来てよかったと思っています」

 目の前には今にも壊れそうな扉があった。

「・・・どうぞ、急いでここを通り抜けてください」

「え?」

「早く!」

「わ、わかりました・・・・すいません・・・」

 ものすごい剣幕でそういわれては僕も頷くしかない。

「・・・・あ、あの・・・最後に・・・最後に美奈さんを抱きしめてもいいですか?」

「・・・・ええ、構いません」

 僕は最後に美奈さんを抱きしめた。

「・・・すいません、美奈さん・・・僕は、僕は残念ながら人見知りをする質なんです」

「え?」

 僕は黙って美奈さんを突き飛ばした。

「・・・・他人を巻き込むほど、まだわがままじゃありません。残念ながら・・・」

 光の窓を通って彼女の姿が消え、僕の目の前から人は完全に消えてしまった。


「やれやれ、やっと思い出したよ・・・・」

「・・・・久しぶり、時雨・・・・・」

「ども、美羽さん・・・・」

 目の前に現れる予定だったのだろう、いつかの彼女がいた。

「・・・・アマヤドリに憑かれた世界は消えるだけ・・・・これで私はあなたに頼んだ仕事を見届けることができた・・・この世界はあなたのもの・・・」

「・・・・ありがとうって言いたいけど、夢を果たした今・・・・なんだかとても寂しい気がするんだ」

「それはそう・・・あなたは人類の敵になったのだから・・・・」

「そうだろうね、だけど、この世界ではさまざまな人がいるんだ。だからさ、僕も悪いけど、アマヤドリと同じでこの世界を去るよ。じゃあね」

「・・・・ばいばい・・・・また、どこかで会えることを私は祈るよ」

 時雨は携帯を取り出してどこかに連絡を取った。

「ああ、うん・・・そう、僕。今日、君はたぶん、変わった世界を見ることになるよ。覚悟があろうと無かろうと・・・・じゃあ・・・ね」

 そして、携帯をどこかに投げて彼は一つの窓へと飛び込み・・・・


 この物語は終わった。


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