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紅い薬:さて、転校をしよう

 定義するということは大切なことである。たとえば、自分とは何か?詳しく述べていくと限りはあるだろうが、果てしなく遠いだろう。

 人によって物事を定義するのはばらばらである。その起こった事象を詳しく定義するのか、はたまた、軽く定義するのかは自由である。

 彼の場合は・・・・


四、

「あ・・・・え?」

 僕を皆が見ている。理由は・・・・・残念ながら寝ていた僕にはわからない。

「あ〜天道時時雨てんどうじしぐれ君だったかな?」

 新米教師と思われる人物が僕を見てすまなさそうにしている。

「そんなにつまらない授業だったかな?」

「いえ・・・・その、引越しが忙しくて寝てなかったんです」

 事実を告げると新米教師である先生はほっと胸をなでおろして僕に確認するように言った。しかし、先生の授業が退屈であるというのも事実であるが、僕はそんな場の空気を読めない人間ではないので口には出さなかった。

「ああ、そうか・・・天道時君は今日で引越しするんだったね・・・」

 他のクラスメートたちは驚いたような視線を僕に向けてくる。しかし、話しかけてくる人たちはそんなにいない。それは・・・・そうだろう、なぜなら、僕がこの高校にいた日数は一か月分にも満たないからである。話しかけてこないのはそこまで仲良くなれなかったからでもある。

「うんうん、それじゃあ・・・疲れていると思うけど、きちんと僕の授業を受けてね」

「はい、すいませんでした」

 そういって僕はよだれのついているノートを先生から隠すようにして退屈な授業を再び受け始めたのだった。


 引越しとなった理由は不明・・・・というわけではなく、これがもう、ついていないとしか言いようがない。さぁ、これから高校生活の華やかな生活が始まるぞ!というときになって僕は最初からやらかしてしまったのである。僕が今日いなくなってしまう高校は非常にレベルの高い高校ではなく、中の上が行く人たちがおおい。しかし、不良だっており、僕は・・・・不良に目をつけられてしまった。

「おい、入学式終わったら面かせや・・・・場所は体育館の裏・・・二度と学校にこれないようにしてやるぜ」

 恐怖の前に

「うわ、本当にこんなことを言う人がいるんだなぁ」と思ってしまった僕なのだが、嫌々ながらもそこに行くと既に三人ほどのリーゼントやオールバックといったいつの時代の人間だろうかと思うような人たちがいたのだ。三人が三人、どの人たちも会話に熱中しているのか僕が近づいてきていることに気がついていないようだった。

 僕はその三人の背後から忍び寄って・・・・・・


 次の日、僕は校長室に呼ばれた。

「君かね?やったのは?」

「ええと、何を?」

「昨日、体育館裏に三年生が三人倒れていたそうだ。目撃情報によると君とのことなのだが・・・・それに、意識を回復した三人も君がやったと口をそろえて言ってるぞ」

 どうにも、誰かが密告したらしい。その後、母親を学校に呼び、僕の処分が決定する前に、僕は転校することに決めたのである。

 噂というものはひろがるためにあるものなのか、知らないが・・・・僕のやったことは非常に悲しいことに全校生徒が知っているようだった。肩身の狭いこと狭いこと・・・やれ

「バットでぼこぼこにしただの」やれ

「鉄の竹刀で頭をかち割っただの」やれ

「三味線の糸で吊るした」だのと・・・・まったく違うことになっていた。僕が実際に行ったことはそんな物騒なことではない、浣腸である。浣腸したら三人が三人、不意打ちに対して予想以上の驚きを見せてそれぞれがそれぞれ、頭を打ち付けてしまったのだ。それをやった僕は非常に気まずくなり、そこから逃亡・・・・しかし、誰かがその光景を見ていたらしい。


 とくに何も思わなかったのだが、僕は校門で自分がこれまで通っていた高校を眺めた。そこに聳え立つコンクリート四階建ての建物は僕に最後の別れを言うこともなく、ただ、立っている。僕にとって今となってはどうでもいい存在となってしまったその建物に僕は別れも言わないままにその場所から立ち去ったのだった。

 基本的に僕は今、一人暮らしなのだが・・・・今度から行く学校には僕の妹がおり・・・・この妹とは血がつながっていないのだが、優秀な妹でよく母に比べられてしまう・・・・・久しぶりに実家に帰ることとなっている僕にとってはまぁ、いい機会だろう・・・・実際のところは一ヶ月ぶりなのだが・・・・

 母が僕を迎えに来る時間にはまだ余裕があるので僕はあまりうろつくことが出来なかった街中をうろつくことにした。時間に余裕はあるのだがあまりうろつくことは出来ないので前々から気になっていた裏路地のほうに歩を進める。

「平和だなぁ・・・」

 この街が平和なので裏路地には目つきの悪い人物などおらず、猫が歩いているぐらいだった。さびれているのか、あまり店はなく人通りも少なかった。店があったとしてもどうやら夜から営業を開始するようなところである。

 ひとしきり歩くと、一人の男性にあった。その男性は白衣を着ていて細身で、四角い眼鏡を掛けている。挨拶して通り過ぎると・・・

「おっと、君・・・もしかして天道時さんの息子さん?ええと、名前は?」

「え?」

 突然たずねられたので反応できないでいると相手は僕が目の前の人物を不審者であると感じたらしい・・・・にこりと笑って白衣に手をつっこむ。

「ああ、こんな不審者には名乗れないか・・・申し遅れたね、私の名前は白野羽翼だ」

 そういって名刺を差し出す。少々汚れている・・・・コーヒーのしみだろうか?・・・・名詞に刻まれている文字をまじまじと眺めるとどうやら有名な薬品メーカーのここの支部長さんらしい。僕の父さんと同じ会社の人のようだった。

「ああ、なるほど・・・・父さんと同じ会社の人ですか?」

「よかった、人違いじゃなくて・・・・・悪いけど、この薬を君のお父さんに渡しておいてくれないかな?」

 そういって手渡されたのは一つの箱だった。しかし、薬が入っているとは思えないような・・・どちらかというと、指輪が入っていそうな箱だった。

「何の薬なんですか?」

「それ?ああ、そういえば・・・・子どもに飲ませるんだって言ってたなぁ・・・・最近、何かあったそうじゃないか?」

 学校のことを話したのだろうか?確かに、僕は最近ストレスのせいなのか気分がさえない。

「飲んでも大丈夫ですよね?」

「ううん、どうだろう・・・・まぁ、君のために作ったと思うよ?」

 じゃ、よろしくねといってその人はいなくなったのだった。


 一人暮らしをしていたアパートに戻ってくる。僕が高校に入学するにあたって持ち込んだものは既に何もなく、引越しムード全開だった。学校のことを考えると気分が悪くなってきた。

「薬でも飲もうかな?」

 先ほどもらった薬を手に取り、水と一緒に飲み込む。錠剤タイプの紅い薬だった。

「・・・・?」

 飲み込んだ瞬間、何かがおかしいと思った。目の前が真っ赤になり、僕の目に映るものはすべて真っ赤・・・・となったのだが、瞬きをしたら戻ってしまった。

「・・・・気のせいかな?」

 そういうことにしておいて、僕は立ち上がり・・・・母が来るのを待ったのだった。


 流れ行く景色を助手席で眺めながら僕は母に尋ねた。

「ねぇ、皆元気?」

「ん〜そりゃ、あんたがいなくなってまだ一ヶ月も経ってないからねぇ〜ほとんど何も変わってないよ」

 そりゃそうだ。一ヶ月も経っていないのに変わるものなど、あまりないだろう。

「父さんは?」

「相変わらず、家にはいないよ」

 そうだろう、帰ってくるのは正月とクリスマスぐらいだ。会うことが出来るのは風邪を引いたときか、写真ぐらいだろう。

 車内ではそんな取り留めのない会話が永遠に続くのかなぁと思っていたのだが、ちょっと変わった調子で母が尋ねてくる。

「・・・・ねぇ、時雨・・・」

「どうしたの?」

「家に帰っても驚かないでくれよ?それとね、あんた・・・何かしたのかい?」

「何を?」

 何かがおかしいと思いながらもその後、母は口を閉ざしてしまったのだった。


 なつかしの我が家の目の前(といっても一ヶ月ほど前なのだが)で車は止まり、僕は降りた。母さんは途中で買い物をしたので僕と共に買い物袋を持ちながら家の中に入る。

「ストップ、時雨」

「ん?」

 いきなり静止をかけられたので驚いたのだが、僕は止まった。手は玄関の扉にかけられている。

「・・・・実家に帰らせてなんだけど・・・・あっちの方角にアパートがあるのは知ってるだろ?そこの101号室が今日から時雨の住処だ」

 東の方角を向いて説明をし始める母。

「・・・・え?」

「え・・・って言いたい気持ちもわかるんだけど、これが少々厄介なことになってるんだ。覚えてないだろうけど・・・・とりあえず、わけはあとできちんと話すよ・・・・電話じゃ盗聴される可能性があるからね・・・・さっき車で話したことも盗聴されてないかどうか・・・」

 盗聴って・・・・それほど中身は重要なことなのだろうか?母と息子の間のたわいない会話の中にそれだけの情報でも詰まっているのか?

「わかったよ・・・とりあえず、そっちで生活すればいいんだね?」

「ああ、そうだよ・・・いいかい、知らない人についていったら駄目だからね?」

 僕の妹に言うならまだしも、僕に言うのはどうかなぁと思ったのだが、昔からそういう性格の母にいまさら言っても遅いだろう。

「うん、いい子だ・・・・じゃ、今日は外食しておいで」

 そういってお札を渡されて僕はその場を去ったのだった。


 何らかの事情で家を追い出されてしまった僕なのだが、今まで独り暮らしをしていたのは間違いないので別に困るというわけではない。住む場所さえ用意してくれているのなら文句のない一言に尽きる。その気になれば公園にだって住み着く自身はある!

「おっと、こんなことを言っても意味ないな・・・」

 慣れ親しんだ懐かしい道を歩きながら僕はちょっと急いで戻ることにしていた。既に太陽は眠いのか、その体を地平線のかなたに消そうとしている。

「・・・・?」

 小走り状態となっていた僕の視界の中に大き目のダンボールが姿を現す。ああ、猫か・・・・と思って近づいていく。僕は猫が好きだ。犬も好きだが、猫は勝手にどこかに行くのが非常にいい。

 アパートは犬猫厳禁だろうなぁと思いながらダンボールを覗き込む。

「・・・・ん?」

「あ・・・・・」

 そこにいたのは人だった。黒地のワンピースにと白いエプロンをつけている。そして、頭の上には白い三角巾らしきものがつけられていた。

「・・・・・」

「・・・・・」

 その手に握られているのは猫だった。ああ、なるほど・・・・きっと、この人は猫を見つけて自分もそのダンボールの中に入って猫と一緒に遊んでいるのだ・・・と。

「・・・」

 僕は何も見ていないことにしてその場を後にした。しかし、相手はそうは行かなかったらしく、動かない猫・・・・実は単なるぬいぐるみだった・・・・・を掴んで立ち上がった。

「・・・・べ、別に捨てられたわけじゃありませんよ!」

 どうしたのだろうか?ちょっと頭を打っているのかもしれない・・・僕はぎょっとして相手を見た。

「雇い主がもう、君はいらない・・・って言って捨てられたわけではないんです!」

 彼女は何かを必死に僕に伝えようとしている。僕だって意味は理解できているし、この人がお仕事を解雇されたのもわかった。だから、だから・・・それだから何なのだろうか?

「はぁ・・・そうなんですか・・・」

 僕はガそういうと相手は何かを期待しているような視線でこちらを見てくる。そして、おなかをならせた。あわてておなかを押さえる女性

「・・・・違います、これはおなかの音ではなく・・・・」

 彼女が言えたのはそこまでだった。その後、目をまわして倒れてしまったのである。とりあえず、僕は女の人を背負ってアパートへと向かったのだった。


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