A:ある日の夢の終わり
女の子のプロローグ 〜He picked it up.〜
女の子の家の隣に住む男の子は弱かった。
女の子が叩けば泣くわけではないが、とても困った顔をしていた。それが楽しくて女の子は男の子をよく叩いていたのだった。他人が女の子を叩けばその男の子が後で女の子の報復を行っていたりするのだが女の子はそれを知らなかった。ある日、隣の家に濡れた布団が干されていたので女の子は小学校でそれを皆に言いふらした。男の子はからかわれ、
「やーい、ねしょんべんおとこ!」とののしられていたのだった。男の子は女の子に助けを求めようとはしなかったのだが、それ以後、女の子を避けるようになった。女の子が話しかけてもあいまいな返事をしたり、気がついているのにあからさまに避けたりもした。女の子は強情な性格だったのだが、自分が今まで彼にどんな仕打ちをしてきたのかようやく知り、以前、女の子をいじめた男子からは男の子が女の子を助けたという話も聞いたのだった。
だから、女の子は担任から男の子が
「転校した」という事実を聞いて驚いたのだった。嘘だと信じたくて女の子は携帯に電話をしたのだが決して繋がることは無かった。
三、〜Think only themselves.〜
「お兄ちゃん、今日の晩御飯は何?」
「今日?残念ながら今日の晩御飯はうま○棒だよ。春乃にはあんちゃんが好きなサラダ味を譲ってあげよう」
「え〜そんな晩御飯いやだよ!大体、お兄ちゃんこの前『サラダ味なんて嫌いじゃあ!滅亡してしまえばいいんだよ!』って叫んでなかった?」
「残念ながら、覚えてないなぁ・・・・」
「ほら、おとといだよ・・・」
「知らない。春乃、僕は晩御飯の材料を買ってくるから春乃は戸締りをして六時から始まるアニメを録画しておいてね」
こうして、兄は晩御飯を作るために必要な材料を買いにいくことになったのだった。
基本的には胃の中に何かを入れておけばいいと思っている時雨は本当にうま○棒を主食氏にしかねないような男である。一人生活をしているといずれ、ビタミンなどが欠乏して栄養失調で死んでしまうかもしれないような男なので彼の母親は監視役として春乃を彼のアパートに入れることを決意したのだった。
「あ〜今日は何を作ろうかなぁ?」
夕食時の時間帯・・・・普段だったら学生さんは未だに学校にいるような時間なのだが、本日転校してきた五月雨時雨は早退をして妹とパフェを食べた後にアパートへといってから晩御飯を作るために材料を買うことになったのだった。
「・・・・春乃の好物ってなんだっけ?」
成り行き上(実は彼の栄養面上)とはいえ妹がやってきてしまったので好物を振舞ってあげるのも悪くは無いだろうと時雨は思っていたのだが・・・・財布の中身を確認してうめいた。
「いや、別にいいか・・・・目玉焼きと・・・ゆでたブロッコリーでも充分なんだけど・・・ああ、プリンをかってこようかな?久しぶりに食べても大丈夫だろうし・・・」
妹の好物を考えるようないいおにいちゃんはどこかに去っていき、代わりに出てきたのは自分の好物を考えているようなおにいちゃんだった。幼少の頃にこのような態度を兄貴が取っていると下のものは兄貴になついてくれないのである。
「オムレツと・・・ゆでたブロッコリーでいいだろうなぁ・・・」
手抜き料理はさすがに妹がいい顔をしないだろうと思って時雨は再び歩き始めたのだった。
まだおばちゃんたちの人工密集度が低い商店街にやってきた時雨だったのだが・・・・・
「ん?」
視界の隅にどこかで見たような人影を見つけたのだった。別に隠れる必要も無いのに彼は電柱に隠れたのだった。
「あれは・・・・律火ちゃんか・・・」
彼が視線を送る先には白い紙を持ってなにやらきょろきょろとしている律火・・・本名、炎道律火がいたのだった。
「何だってこんなところに?」
トラブルメーカーでわがまま、傲慢、自己中心という似たり寄ったりのオンパレードな性格の彼女のことを時雨はよく知っている・・・・というより、幼馴染であった。
小さい頃から散々苛め抜かれ快楽に変わってしまうような危ない趣味を持つ前に時雨はいやになった。
彼が引越しした理由の一つにも入っている。
小さい頃は大きくなれば可愛くなるだろうと思った時雨だったのだが・・・・いや、確かに彼の予想は外見上はとても当たっているのだが内部は彼のよそうに大きく反して傲慢ちきちきの私は偉いお姫様!おほほほ・・・みたいな感じになってしまったので彼としては非常に苦手としているような部類に入る。彼女の評判のおかげで金魚の糞と思われている時雨は一度もラブレターをもらっていない・・・・・実際のところはもらっているのだが時雨がそれに気がつく前に律火がすべて燃やし、差出人を脅迫・・・・ということで彼としては律火とかかわりをもう持ちたくないのである。
「なんでこんなところにいるんだよ!僕には気がつきませんように!僕には気がつきませんように!」
彼女がツンデレだったらまだよかったのになぁ・・・彼女の場合はツンツンだ!とがった部分しか僕には見えないと時雨は思いながら律火が通り過ぎるのを待っていたのだが・・・律火の進路方向に不良グループが現れたのだった。このままいけば間違いなく、律火が何かやらかして不良グループに囲まれて結局は時雨が出なくてはいけない場面になるだろう。
「だが、そんなツンデレとの第一種未確認生命体との邂逅なんて僕がさせない!」
時雨は悪いと思いながらも不良近くのマンホールから激流を出し、彼女が違う方向を向いている隙に東の彼方に不良を吹き飛ばしたのだった。音に驚いて律火がそちらの方向を見るがそこには誰もいなかった。
「よっし!成功!」
律火は右方向からなにやら音がしたのでそちらのほうを見たのだが誰もいなかった。
「・・・何かしら?」
だが、探しても何もないということは幽霊か透明人間の仕業だろう。彼女が関与することは無いと思われるということで彼女は再び先生に頼んで渡してもらった元同じ高校の男子生徒が住んでいる住所を見たのだった。
「・・・ここら辺りなんだけど・・・」
彼女の内心はめらめらに燃え上がっている。会ったらぶったたいて・・・・
「・・・それじゃ、変わんないわね・・・」
拳を握り締めていた自分を恥じて彼女は着々と時雨がいる方向と時雨がすんでいるアパートへと向かったのだった。
「や、やばい!別に何もやばいことしていないのになぜだろう、ものすごくやばいと感じてしまうこの心は壊れているのだろうか?」
こっちに向かってくる幼馴染に彼はてんぱった挙句にぎょっとしていたのだった。
「く・・・こうなったら・・・・」
彼女はぎょっとした。電柱の隣に良く見知った幼馴染にそっくりの噴水があったからだ。天に両手を突き出してそこからどういった原理なのかわからないが水が出ている。
「・・・・・へぇ、珍しいわね?」
律火はそういって鉛筆を取り出して、目の前の噴水の像の鼻の穴につっこんでやった。
「ふが!?」
「ふふっ、まさか像がしゃべったりするわけないわよねぇ♪」
「・・・・・」
「さ、次は・・・・・どうしてくれようかしら?」
目の前でにこにことしながら何かを取り出そうとしている相手に時雨は
「もう駄目だ。自分はこのままやられてしまうに違いない!」と叫んでいたのだった。
「・・・・」
「あ!兄さん!」
声がしたのでそちらのほうを見ると春乃がこっちに走ってきていた。律火の姿を捉えるとさらに加速しやってきた。
「律火さん、また兄さんを・・・・兄さんに近づかないでください!」
そういって時雨の鼻の中につめられている鉛筆を引き抜く。時雨は涙を溜めながらちょっと
「変になりそう・・・」と呟いている。
「へぇ、ブラコンが出てきてどうしたの?こんな弱い男のどこがいいんだか?」
「あなたには関係ありません・・・行きましょ、兄さん」
時雨の手をとるとあっさりと歩き出す春乃。時雨は何も言わずにつれられてその場を後にしたのだった。
春乃はちょっと呟いた。
「・・・・なんであの人が・・・・」
「さぁ?」
時雨はそう呟くしかなかった。
彼らが消えた後で律火は電柱に頭をつけてぼーっとしていた。
「・・・・馬鹿だ」
時雨を見ると非常にいじめたくなる性格がここでも出てしまった。その結果は最悪なものを生んでしまう。やはり、あの妹が出てきたかとも彼女は思った。
「・・・・よ、よし!この私に出来ないことなんてないんだから、こ、今度は謝ることにするわ!あ、あんな奴に頭を下げるぐらい私には出来るわ!」
彼女はそうやって拳を握り締めたのだった。
「よし、今日の晩御飯はチョコ○ットにしよう!」
「兄さん、あんまり変わってないよ?」
一緒にお菓子コーナーに立ちながらそんなことを言っている。
「じゃ、春乃は何食べたいの?」
「そうだなぁ〜・・・お肉かな?」
「わかった、お肉だね?」
そういってお菓子コーナーからようやく離れてまじめに動き始める。
「じゃ、今日は豚のしょうが焼きにしよう」
「・・・・ねぇ、兄さん、何であそこに律火さんがいたの?」
突然そう切り返されたのだが、時雨は冷静に答えた。
「知らない。たまたまあった」
自分が間抜けな行為に出てしまったのは口に出さないでおいた。
「・・・・・ねぇ、何でやめて欲しいって言わないの?」
「ん〜それはね〜・・・僕には出来ないからさ・・・それに、もう会わないよ」
「それもそうかぁ・・・」
育ちで似てしまったのか、二人とも脳内にはきっとお花畑があるに違いない。とても幸せそうにあははと笑っている。
アパートに帰って晩御飯を用意し始める時雨の耳におかしな声が聞こえてきた。
「起きろ!さっきから何を言っているんだ?」
「はぁ?」
突然、そんなことが聞こえているのに対して時雨は冷静に答える。
「僕は起きてるよ?これから晩御飯を用意するんだ」
「おいおい、とうとう頭の中までやられたか?さっさと、起きるんだ!」
その答えに対しても時雨は答える。
「起きてるって!」
「起きている人間は目を瞑って答えたりはしないぞ?」
時雨はなんだかいらいらしながらも、再び答える。律儀に答えずに無視していればいいのに・・・・
「僕は起きてる!そうじゃないというのなら起こせばいいじゃないか!」
「わかった、それなら力づくで起こさせてもらおう!」
時雨のほっぺを誰かが思い切り叩いた。
「うがっ!!」
時雨はようやく目を覚ましたのだった。
そこに広がっているのはクラス全員のおかしそうな顔だったのである。
ここに、ようやく時雨の本当の物語が動き始める・・・・




