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龍と書いてドラゴンと呼ぶ?:固い決意(後編)

六、

 空には暗雲が垂れ込み、遠くでは雷雲が鳴り響いている………ううん、山の天気は変わりやすいってよく言うけど本当なんだな………俺はそんなことを思いながら神妙な面持ちの二人の顔を見た。

しばしば、二人の表情を見てから紙に書かれていることについて、俺たちは話し合った。一ヶ月前のカレンダーは変な絵が描かれている。

「………ええっと、生贄か………」

 今回の会議について俺は真剣に考えているつもりだ。

「そうね、生贄になって隙を突いて主を倒せってことなんでしょうね?」

 加奈も真剣に考えているのだろう………

「生贄………っすか………」

 そして、南海も一緒に考えてくれている………

「「「じゃ、生贄役はじゃんけんで決めよう!!!」」」

 こうして『第一回生贄決定選手権』が開催された。



 白い棺の中に入っているのは加奈である。

「ちょっと!なんで!」

「いや、じゃんけんに負けたのは加奈だからな〜」

「いやぁ、ま、生贄っていうのは加奈さんみたいなぴちぴちの人が良くやるもんっす」

 俺たち二人は棺に納まっている加奈に手を振った。顔の部分は一応空けておくが、黙っておくように指示をしたところ素直に従ってくれた。

「………お話のところすいませんが………」

 そこへ、あの老人がやってきた。

「何です?」

「ええっと、生贄にはもう一人必要なのですが………」

 そして、どこから出したのか知らないが………白い棺を出してきた。

「え!それなら仕切り直しね!」

 がばりと起き上がって加奈はそんなことを言う。

「ちっ、その着物姿似合ってたのにな………じゃ、しょうがねぇ………ここは正々堂々じゃんけんだ。それでもう一度決定しよう!」

「「おー!!」」

 こうして、『第二回生贄選手権』が決定されたのだった。

「じゃ、俺、グー出すから」

「え!せ、正々堂々とやるんじゃなかったの?」

「いや、これ戦略」

「………じゃ、私もグーをだすっす!」



 白い棺の中に入っているのは加奈である。

「ちょっと!輝!今のは反則よ!!」

「………輝君が律儀な人とはわかったっすけどね……………」

 そして、もう一つの棺に入っているのは南海である。ちなみに、俺はきちんとグーを出した。他の二人はチョキを出した。

「さぁてと、じゃ、いってらっしゃい………」

「生きて帰ってきたらみてなさいよ〜」

「………ああ、神様………加奈さんのほうがおいしいっす!」

「ははは、負け惜しみ的なことを言うんじゃないよ………じゃ、ばいばい」

 白い棺の上に石を置いて俺はその場を後にした。とりあえず、主が現れるといわれている夕方まで待っておくとするか………

 奥のほうにある巨大な岩が神とあがめられているのだろう………お供え物はその付近に置かれているが、結構前のもののようだった。

 俺は空を見上げた…………と、雨粒が俺の頬を叩く。

「………師匠、これからどうすればいいんですか?」

「ほぉ、いたの気がついてたのか?少しは腕を上げたようだな」

 先ほどのおじいさんが本当の姿を現した。

「ええ、まぁ………で、これから俺はどうしたらいいんですか?その前に、この村の話をしてもらいたいんですけど?他に人いませんよね?」

「………ふふっ」

 師匠の顔が怖い。まぁ、もとから怖いのだからさしも変わりはないか………

「一ヶ月前ほどから姿を消しているような気がするんですけど?」

「ほぉ、そこまでわかったのか?なぜだ?」

「ええ、社のカレンダーが一ヶ月前のものでしたからね………」

「ま、確かに一ヶ月前にここの村の住民はすべて旅立った」

「え………どこにですか?」

 ま、まさか………あの世に?

「世界一周の旅だ。私がプレゼントしておいた」

「………そうっすか………ところで、この村の主って………」

 何ですかと聞こうとして俺は口を閉ざすことになった。それは何故か…………二人の叫び声が聞こえてきたからだ。

「ま、しゃべりながら話すとするか………」

 師匠は走り出した。俺も当然、その隣に並ぶようにして走る。

「………ここの村の主は龍だ。近隣の村に昔、大暴れをしていた一匹の狼がいたんだが、それを封印したのがこの村の主となったらしい。もっとも、その狼と龍が戦った後のこの場所が綺麗に平坦になったから村になったんだがな………」

 そんなに大きかったのだろうか?その狼と龍は………

「それで、どうなったんです?」

「その後、村ではその龍を信仰する形になってな………まぁ、生贄なんてしていなかった。だが、ある日………別の輩が忍び込んだそうだ…………」

 気がつけば師匠は俺をおんぶして跳躍。う〜ん、これは見られたらちょっと恥ずかしいな…………

「………私の調べによると………あいつらだ!」

 あっという間に二人が捕まっているところへとやってきた。

 その光景に俺は驚いた。

「………な、なんですか、あれ?」

「あれか?見ての通りだ…………」

 そこにいたのは黒い衣装を着ている(目だし帽にサングラス、黒いマスクに黒いロングコート)人物たちだった。加奈と南海は気絶しているのか倒れている。一人は男、もう一人は女だ。

「師匠、あの二人は大丈夫なんですかね?」

「さぁな、そんなことより………お前ら、ここに何のようだ?」

 なんとなく、そう、なんとなくだが…………俺は師匠がこの二人組みを知っているような気がした。

「いや、これはお久しぶりで………まぁ、いろいろと用事があるんです」

 あれ?普通に知ってたぞ…………なんだかシリアスな雰囲気だったんだが?これから何か非日常的なことが始まるって感じだったんだけどな…………

「で、用事は済んだのか?」

 男のほうがこちらに対応するのか、女のほうは男の後ろのほうにたたずんでいる。いや、付き従っているような雰囲気がある。

「ええ、まぁ…………そちらの少年は?」

「私の奴隷(弟子)だ」

「あれ?師匠………何か変なのが混じってなかったですか?」

「なるほど………まぁ、既にここでの仕事は終わっていたはずなんですが………そういうあなたこそ何をしに?」

「不穏な空気を感じたからな………ま、詳しく言うならここの龍がそろそろ起きるって感じた。もっとも、こいつがいないとどうにも出来ないからな………」

 俺を見てそんなことを言う。そして、男のほうは俺のほうに視線を向ける。

「………まぁ、そこの人にはわかってるって思いますけど………実は、家出をしたいといっていた少女たちのお手伝いをさせていただいているのですよ」

「お手伝い?」

 生贄って食われるってことだよな?はて、それが何故家出のお手伝いに?

「ここの神様である龍はずっと寝ています。ですから、たまにいびきをするのです………そして、いびきが聞こえた次の夜に二人の生贄を決定させる…………このことを知っているのは生贄になった二人と生贄になる二人です……そこで、私たちがその二人の家に白羽の矢を立てるのです。それから………」

「?」

 俺が頭の中でからまってしまった話の糸を解くのをあきらめたのを悟ったのか………相手はため息をついて呟いた。

「要するに、この生贄は家出をしたい者たちのためにあるものです」

「………ああ、そうなんですか………じゃ、今回の旅って結局意味がないようなもんでしたね?」

 既に事情を師匠が知っていたのなら意味がないだろう。それなら何故、この人は俺たちをこの場所に連れてきたのだろうか?

「じゃ、そろそろお前たちは帰るんだろ?」

「ええ、そうさせていただきたいと思いますが………お手伝いをしなくてよろしいのでしょうか?」

「結構だ。私の犬(弟子)はここの程度の主に負けはしない」

「あれ?またなんだかおかしな単語が含まれていませんでした?」

「そうですか、それなら今回は見物客としてこの場にいさせてもらいますよ」

 そういって男は奥にある岩をかち割った。

「うわ!なんてことを!」

「さて、お力拝見ですよ?」

 岩をかち割るとすぐさまその場所を離れていつの間にか引いていたブルーシートの上にのってお茶を飲んでいる。

「じゃ、輝………私も観客席にいるからな」

「うえぇぇえ!?」

 師匠も同じようにその場所に座ってこちらを見ている。

「ええ!!な、何か武器は?」

「お前、体術があるだろ?」


ぐおおおおおおおお!!


 俺の目の前に現れたのは俺が三人ほど集まってできるほどの巨体の龍だった。翡翠色に輝いている。

「こ、こんな奴無理でしょ!」

「ちっ、しょうがねぇ………加奈、南海………輝を手伝ってやれ!」

「ふにゃ?」

「ありぇ?

 気絶していたはずの二人は目を覚まして俺と俺の目の前にいる龍を見る。

「「うわ、でかっ!!」」

「まぁ、そうなるだろうな………」

 しかし、二人とも立ち上がって俺の隣に素直に来てくれた。

「とりあえず、素手じゃ無理だ………手が届かん!」

「何言ってるの!それなら………」

 呟いた俺の腕を加奈が掴む………そして、南海も反対側の腕を掴んだ。

「こうすればいいっすよ!!」

「うえぇえぇぇぇぇ!!」

 俺を掴んで二人は投げ飛ばしたのである!!な、なんて薄情な野郎だ!



 あいたた………っと、気がついてみればここは龍の頭だ。

「輝〜そいつの頭をお前が叩いてやれば今日はそこで終わりだ」

 そして、横には師匠が座っている。

「え?そんなのでいいんですか?」

「ああ、いずれ………私の知り合いが来てどうにかするだろ………正直、嫌いな奴だがたまには手を貸したいやつだからな………ま、お前みたいな素人が」

「………わかりました………だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 俺は雄たけびをあげながら右腕を振り下ろしたのだった。



「やれやれ、なんだかあっけなかったな………」

 家に帰りついた俺は特にすることもなく寝転がっていた。既にお風呂上りで体を冷やしているつもりでもある。

「あ〜きらっ!」

 そんな俺のもとへ嬉しそうな声をした加奈がやってきた。顔だけ出してこちらを見ている。

「ん?どうした?」

「あの師匠って人……いい人じゃない?私に綿菓子を買ってくれたわ!」

 そんなことを言って喜んでいる。そりゃ、良かったな………あれ?師匠ってお金持ってたっけ?あ、お、俺の財布が姿を消している!?ま、まさか………師匠………


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