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エピローグ hold a conference

 昼飯の時期、それは日が高くなる周囲の温度も上昇する。彼らにとってこの地は北の地方とは違いこの時間帯だといくら森の中と言えど暑い。


 魔族は別にこの暑さで死になどは断じてないし、行動も抑制されることも無い。とはいえ、どうせなら快適な方がいい訳で、男女含めて、十人くらいはいる面子は快適な木造船の中に避難していた。


 大きなサーフボードの様な楕円形の机で皆がいつの間にか用意されていた食事を取っている。これらは招かれたとともにこの船の、未だ姿の見えない彼らの主上が用意したモノである。


 料理名は冷やし中華と呼ばれるもの、先遣してしまった主上が北の地の麺料理の聖地にて特上の麺と氷をついでに購入していたのでつくった様である。夏の暑さを乗り切るのに最適な料理であるので皆、喜んで食べていた。


 が、この暑さの中、こらえ性の利かないモノ居る訳で、左側の奥にいる影がジタバタしながら机を叩く。


  「あっつーい!! ナフェちゃんはこういうの嫌ーい へいか、へいか! 海行きましょう。うみ、うみ、うみぃい!!」


 ウサギ耳のフードを被ったナフェと名乗る少女の声が船内に響き渡る。それは正に、子供の癇癪と言えるものであった。


 その為、へいかと呼ばれた少年が座るであろう席の左隣りにある席に座る。白い騎士服を纏った銀髪の大人びた十八位の少女、実年齢を考えると逆に若々しすぎる女性に、ごみを見る目で一瞬だけ睨み付けられる。その後、最初から無視していたように、冷やし中華を食べる事に専念し始められもしているが。


  「あ、何よ。ウェル! 元人間風情が私に睨む権利があるとでも思ってるの」


 なれどウサギフードの少女は自身に向けられる悪意に酷く敏感であったが故に、そのこちらに向けた悪感情に気付く。飛び跳ねる様に起き上がり、先ほどまでとは違い美しい姿勢で席に着いたというのに先ほどのある意味愛らしい行動は形をひそめる。


 あくまで軽く、愛らしくと努めてはいるものの、その言葉に宿る感情は敵意と傲慢を煮詰めてヘドロにした様な感情であった。元の種族と、自身がこの中では最高齢である自負、そして人類種への嫌悪が元からある感情を加速させている。


  「申し訳ありません、ナフェ様。またお年寄りが年甲斐も無く子供っぽかったもので、とうとう自分の歳も正確に認知できなくなったと思い心配してしまいました」


  「消えるか、若造」


 ウェルと呼ばれた女性もあくまで冷静にナフェと呼ばれた少女の言葉に対応するが、言葉の角が丸くなる事は有り得ない。


 そもこの女性は元より、ナフェと呼ばれる少女の所業が大の苦手であり、それに加えて悪意を向けられたり、食事中の妨害さえされているのだ。


 下っ端時代はパワハラも当たり前のようにされていたこともあり、同格以上となった現代でもその遺恨は消え去らない。故に、忘れぬように『ナフェ様』と慇懃無礼も超越したなにかで語りかける。


 階級が上になった今でも様と付ける理由は、曰く、呼び捨てやさん付けする程の親近感は一生涯持てないからだそうだ。


 当然そう言う感情はナフェも感じている上に、元人間風情が自身より実権の無しの階級だけとはいえ目上の立場になっている現状が許せない一つでも悪意をぶつけられればこういう事になる。


  「はいはーい、ストップ、ストップ!! ここはすーぱーアイドルである私、ゼフィリアの顔に免じてね、ね! ナフェちゃんもウェルちゃんも落ち着いて!」


 その声の主は元々、彼女たちの中間に座る色は淡い桜色、型は中央の部分だけ編み込んだ独特な髪型をした長髪の女性である。


 彼女たちが互いの席に着いた時から胃をきりきりさせながら静かに目立たない様に麺を啜っていた。


 美しい容姿にそれを栄えさせる陽光の如き白を基調としたドレス、ヘリオ・リリウムは本来なら彼女を誰よりも美しく、目立つ存在へと押し上げるモノで、彼女たちがいない時一人で先に飯を食っていた時でも絵になる美しさを身に纏っていた。


 今は見る影もないが。


 彼女たちが揃い始めるとそーっと、椅子を気づかれない様に左右の均等に保ち、目に映らぬように頭を僅かに下げ、食事以外は手を膝の上へ置くように腕を組む。


 そしてドレスはそんな所有者の目立ちませんように、巻き込まれませんようにと言う願、呪詛ともいえる様になってしまっている望みを、叶える様に、淡く儚い存在へと変えているように見える。


 

 ここの長であり、今、この場にいるすべての魔人の長たる少年が戻り、場を収めるまではそうでありたい、そう在らせてくれ。と、さっきまで思っていた。


 天に輝く光の渦と、腰から抜き放たれかけている鈍銀からの反射光がそれを許さない。


 もはやスパークすら放たれぬ、静かな睨み合い。威嚇ではなく思いっきり相手の隙を伺っているそれは


 本格的にきつそうであった。男性陣は我関せずみたいに気にしてない。ここで喧嘩をされては本当に困るのは自分だけなのか。そう彼女の頭の中に過ぎりだし、それと同時に重要な事も思い出す。


 そもそも、この喧嘩の場、ここは再誕せし王の作りだした神殿、の様な物。


 それを汚すことをお隠れになった後、威と意と遺を拝命し、ようやくこの度、再拝謁の栄誉を賜った尊き日に、我らがしていいのだろうか? 

 そう思ったら彼女の中に勇気が湧いて来て握り拳を天に掲げながら先ほどの言葉が溢れ出た。 


 元々、会話のついでにやり合おうとしていただけのようで、彼女の鶴の一言で何とかその場は今日が削がれ収まった。


  「ウェルフェ、ナフィルが相性悪いのも、ここが暑くて気が立ってるのも分かるのだが、あんな喧嘩を売るのが早い性分であったか? 特にウェルフェ?」


 右側中央の椅子に腰をかける黒き甲冑を身に纏った白き狼の顔をした大柄の男性が厳かに告げる。先ほどの争いでも無かったかのようなその風情は本当に争いは起っていなかったように気楽だ。


  「ああ、うちの所のベルセリカが死んでしまったのが原因でしょうね」


  「すまんな。セィルベイン。そうか、ベルセリカとウェルフェは仲が良かったものな」


  「まぁ、当人たちが聞いたら殴りかかられるか、鼻で笑われるでしょうけどもね」


 仲間の死を軽く語るセィルベイン、セルベンの言葉に誰も怒らないのはその感情の奥にある当人も気づいていない悲しみを皆が知っているからである。それ故にあえて気づかないふりをして、死者に思いを馳せる。


 そんな漸く静かになった雰囲気の中、五人の足音が部屋の外から響き渡る。


  「いやはやまったく、蘇っていらっしゃるならそう言ってくれませんと人が悪い」


 軽い、だけれども何処か優しげで強い思いのある男性の声が木の船の中で静かに響き渡る。しかし、五人、特に二人には、その声が果てしなく憎らしい物に聞こえる。


  「彼、いないと思ってたらそこにいたわけですか……」


 セルベンの言葉を皮切りに、鳴り響く何か


  「「……」」


 無言だが、その拳はどうやら誰よりも雄弁なようだ、拳より発生した風が皆の髪の毛を撫でるとかのレベルではない様に、拳圧


 左右の女性人二人が思わず机を思いっきり叩き、机が揺れる。


  「ひっ!!」 


 その行動に込められた怨嗟に自身も感じていた嫉妬も吹き飛び、恐怖で染まる。力や権力こそほぼ対等ではあるものの、所持しているその他の影響力が違うのだから仕方ない。


 元々攻撃的ではない性格をしていて、ほとんどの競い合いや争いを好まないという性格が同格相手には臆病な性格にさせているのだろうか。


  「どうやら机は、壊れ無いようだ」


 三つ編みを棚引かせた白き毛皮の人狼は、我関せずと机の方の出来を賞賛している。セィルベインもそれに関しては気にせずに、冷やし中華とは別に各々に配られた好みの飲み物を飲んでいた。


 ついでにセルベンはお茶。


  「まぁ、あの人はいつも通りですしね」


 そう言いながら呑気にお茶を飲んでいる同僚に、イルミナは冷たい目を向ける。正、直助けてほしいのだろうが彼にとっては至極どうでも良いのできっとその嘆願も届かない。

 よって、冷血漢を軽蔑する視線がセルベンに送られるのだが、そもそも、


  「すまない、色々遅くなった」


 届く必要もまた、ない。



 まるで結晶に閉じ込められた炎の如き、透明感のある紅い長髪を靡かせて、少年は片手で勢いよく扉を開ける。開け放たれた扉は全てを吹き飛ばした。


 先ほどまでの不和も


          用意されてた食事も、一名の軽くなってるのが吹き飛ばした。


  「私、何かしましたーッ!!」


 踏んだり蹴ったりの大陸のすーぱーアイドル。


 今、頂点軌道に乗っているアイドル業をわざわざ休止してまで舞い戻ってきた本業で、同僚の喧嘩に巻き込まれるわ、一人だけ多く食ってたせいで皿が扉を開けられた時の強風で吹き飛ばされるわ、散々としか言えない状況である。


 ひっくり返った皿は、ただひっくり返っただけなので、そこまで不幸という訳でもない。


 今までの積み重ねが無ければ。


  「なんと、運の悪い」


 顔に手を当て、白狼は嘆いてくれた


  「フム、面白いですね」


 当然、蛇のような男は淡泊に返事をする。一応この人なりに心配してくれてるようだ。彼女を見つめる目線がいつになく優しい。


  「……大丈夫か?」


 根は善良で仲間思いの騎士の女性は流石に不憫に思い声をかけてくれる。


  「あは、あははは傑作だよ。傑作!! ゼッフィ最高に面白い」


 この人だけ、絶対ゆるさねェ、と短気であれば思えるのだが、流石に黙っててくれとしか心の中で思うだけだったという。


  「ああーゼフィー、すまん」


 わざとじゃないのは知っているうえ尊敬する上司に生意気な口は叩けません……


 開けた少年と既に部屋にいた住人は思い思いの行動と言葉を投げかける。起きた不幸が絶妙にしょぼいのもあってどこに何をぶつければいいのか少女は分からない。


  「気にしても仕方ないですしのぅ 話を進ませた方が良いですぞ」


  「あはは、どんまいです」


  「失礼します」


  「やぁ、同志諸君! なにかあっったかねッ!!」


 他の人もぞろぞろ部屋に集まりだした。ゼスト、トーア、そして先ほどの若干軽い声の男ローティス、そして


  「ああ、やっぱり君も呼ばれましたかゼティル・ウィウス君」


  「いつも通り、ゼリウスでいいですよ。セルベン様」


 男二人、因縁ががあるかのように視線が交差する。当然と言うべきか、『例の件』はばれているようである。


 「は、ははは例の件ならぬレイの件の話で、どうやら一悶着あったようだな」


 ……


 空気が凍る。


 レイを知っている者は特にそうなのか、とてつもない白眼視を少年ナナセに向けている。崇拝している偉大な王とはいえ、そこは流石に許せないのだろう。


 その視線にさらされては、人差し指を天へ向けてにこやかに言い放った少年の顔がみるみる自嘲と悲しみで染まり横に俯く。


  「はいはい、イーですよ。さて集まって貰ったのは他でもない。今後の件なのだがゼリウスが『面白い本』を見つけてな……」


が気にしても仕方ないのか、生来の気質故か、さらっと流す。


 ゼリウスが見つけた『面白い本』少年が他者にそういう時は決まって特別な物だというのを濃い三年間を過ごした彼らは知っている。


  皆が、つまらないギャグで思考停止した後に、そーっと真剣な話を繰り出し始める。


 その事によって前後間の諍いを無かった事にする話術。


 終始感情があっちに行ったりこっちに行ったりした会議の中で、この後に話された議題は、レイ達の未来をも決める、重要な話し合いだったという。

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