『彼』のしたかった事、自分が知らねばならぬ事
「何かあったかー……、すまん」
「ちょっとユミさん、レイさんもやめー!」
俺の言葉に、テレザの声が被るがもう遅い。見えたよ黒だな。と言うかロングスカートだったんだ。ずっとローブだと思ってた。
裾を先と奥で引っ張り合い、上を見る為につい手を持ちあげてしまったせいで、ギリギリ中身が覗ける位置にスカートを捲くり上げてしまっていたようだ。この位置からはテレザの顏は見えないが多分、赤いんだろうなぁ。
とりあえず、降ろすか
「あーすまんそういう事か 殴りたければ殴っていいぞ」
「ッはぁ。良いですよもう」
まぁ、 唆されたとはいえ、見てしまったし捲ってしまった。離せばいいのに離さなかったので間違いなく俺が悪い。だと言うのに、溜息を吐き、許してくれたテレザは良い子だと思う。
まぁ、俺よりも真犯人の方をじーっと見てたのだが
「優しいなテレザはレイ君を許すなんて」
口数へらずにお菓子を取りだし、お茶を次たし、座布団を枕にしながらこちらに興味無くしているくせにさも気遣っているかのようなセリフを口に出す玖珂に、テレザは流石に優しく離れなかったようだ。
「ええ、ですが、諸悪の根源は許さなくてもいいですよね」
目を爛々と輝かせて玖珂を見つめるテレザ。その瞳は、玖珂のみを燃やし尽くす業火を纏っているかのようだった。
「暴力イクナイ!」
だというのに、玖珂は言葉のみ震わせて、別に気にしてないと言外に告げる様な行動をする。
二人の少女の取っ組み合いの喧嘩が今、始まる。
「終わったら言ってくれ」
そんな見た目、高校生と中学生くらいの少女の地味な殴りあいの傍らで何もせず、じーっとその行動を見守る人影が一人。
真面目に誰も聞いてくれなくなったが故か、若干拗ねてるんだろうな。
「止めないのか?」
「勝手にやってればいいと思うよ」
とは言うものの完全に見限った訳でもなく、玖珂とテレザのケンカを黙って見ている俺達、日差しもそろそろ下がってきたように感じる時間帯。そう言えば、今日の昼飯は一時位から運ばれるのだったな。
そろそろ飯が来ると思ったら止めるとしよう。
「昼で思い出したけど、そう言えばこの世界二十四時間なんだっけ?」
今まで別に、特に困ってもいなかったので聞いていなかった事を終わるまで暇出し聞いてみる。
「んーん、微妙に違う二十六時間」
その反応にエニグマはポテトチップスみたいなお菓子である揚げ菓子、じょうじょう君を摘まみながら答える。
「月や日は?」
「十二か月、基本三十だね」
「そこは一緒なのか」
観戦モードにお互い移行してしまったせいか、妙に反応が薄い気もするが、俺も人の事を言えないので仕方ない。とはいえアレだやっぱりそこまでの違い犯かった。
「違いもあるけど、結構似てる所もあるんだな」
「一日、二時間違えば十分な差だとは思うけどね。当然と言えば当然だよ。基本的に、この環境に適応できる生物呼ばなきゃ転移や召喚させる意味ない訳だし」
あーそう言えば、図書館の本にも書いてあったな。意図的に似た文化、似た種族の類似性がありながらその中で差異のある世界から召喚をまず行うだっけ。
本を探している時は何度も目にしたのであの当時は記憶の縁から忘却していた。
「そもそも、全く別の環境から召喚された生物なんて、お互いに怖くて扱えたものじゃないだろう?」
例え奴隷や悪くて道具やおもちゃとして扱うにしてもそうだ。別の環境から、この環境に移してどういう変化が起こるのか。
ある程度、想像しやすい生物でなければ『良くて』呼び出しただけで死んでしまうという事もあるのだと言う。
だから、この世界は結構チキュウと似ている事が多いのだという。
燃え盛る紅蓮の槍よ。際限なく貫け! I・フレイムジャベリンズ ぐッ! 遠距離はやっぱり当たらない!
短縮詠唱っぎゃ、ちょ、魔術は反則だと思う!
まぁ、普通にそうだよな。ここで一定以上過ごさせる場合においては特に生存できる衣食住が違えば話にならない。 ああ、とうとう魔術使い出したなー
「あー後、思い出したけど、異世界から来た奴を駆逐する事を専門にしてる神様もいるから守護星神っていうの気をつけてね。会う機会は僕達なら絶対ないけど、いやあるか?」
魔術の火の粉は何故かここまで届かない。エニグマは、今までの話と、眼下の光景から何かを思い出したかのように唐突に話題を転換してきた。白いカードを指でいじりながら、目に映るのは俺ではなく先ほどの魔法と、銀の腕輪。つまり一応は俺達に関わる事なのだろう。
「なにそれ?」
異世界から来た奴専門に駆逐する神様って怖いというレベルではないのだが。
「んー実際には全然違う神性群なのだけど、基本的に悪意ある異世界からの存在と戦ってたからそう言うカテゴライズされた」
手を横に左右に二回振りながら、話し
えーっとつまり本来の所属は各々違うけど行動が似てるからグループ扱いされてるって事か?
「まぁ、絶対会わないと思うけどね……イレギュラーセブン以外の正規と言うのもアレだけど六柱は全員封印されてるし」
懐かしむような、苦渋を噛み絞める様な、清々しているような。顔が思い出す順番でコロコロとサイコロの様に切り替わっているようだ。このまま話を続けさせても思い出話にしかならない様に感じる。
「会わないのならばその前に質問、改めて封印されてるとか聞くと本当に思うんだけどさ、神様本当にどこ行ったの?」
ここに来た際も力の残滓や伝承目の前の亜神そして多分、夢の中の変神。
類似するものや確かにいたんだなーという名残りは確かに感じるのだが、本来の古代神やかつてこの世界の一大宗教であった神の姿が見受けられない。
「あー、そう言うのは基本忌々しいアイツと陛下達が封印してたり、歴代の勇者たちに倒されたりしてるね。特に、上から順に、アイツ、陛下、そして君のお父さんが神の封印数の頂点記録保持者だよ」
まーた、父さん伝説が始まったよ。一体全体あの人何してんだろうね?
「本当に、あの人は何がしたかったんだろう」
思わず漏れるその言葉、親衛隊結成、大会出場、文明力の発明、敗者側の戦争英雄、姪っ子の救助と統治の依頼、神の打倒、やってる事が多すぎる癖に、自分はそそくさと元の世界に逃げ帰ってる。
過去の残影《肉体を得て蘇る魔力残滓》だけをこの世界において父さんは何がしたかったんだ。どうして生き返りが出来たのにチキュウにとどまっている?
明らかにこの世界にこそ、求めるモノも多いのに。頭が痛くなる。他愛も無い、話題さえも移り気なテキトーな質問群だったはずなのに、いつの間にか自身にとって重要な話題にすり替わっている。
悪鬼の能力を我に! オーガ・ポゼッション!!
おい馬鹿、にゃめ ぐげー
父さんの情報を知れば知るほど、あの人の考えが理解できなくなる。どうしてああなってしまったのだろうか。 後、どうでもいいが、眼下では遠距離から取っ組み合いの喧嘩に移行していた。しれっと、何時の間にかエニグマがテレザと玖珂の周囲に小規模の結界を張っていた様で、白い、文字しか書かれていないカードが四枚、四角を形成するように張られていた。手際良いな。
ついでにカードにはこう書かれている。
『ここより外、土足厳禁、被害厳禁、内部からの悪干渉の遮断』
まぁ流石に、あの戦いを普通にやらせる訳ないか……
「ま、当然備えはしとくさ」
魔術の打ち合いの時から結界を張ってたようで、白いカードの端を口元にもっていきながら、語る。どんなもんだいと胸を張り、そしてどんどん声が小さく厳かになって行く。
「そしてアイツのナナセのしたかった事は単純だよ。アイツは、み」
俺の疑問に対する答え。これを聞けば何かが解決するわけでもないけど、聞かなければ始まらない物。それは、
「くッ!! たとえ私が滅びても!! 第二、第三の私が」
「二人も三人も貴女に会えないと思いますよ」
ズタボロになりピクピク痙攣しながら横に倒れている玖珂の負け惜しみが部屋に響く。それに冷たい目線で玖珂を見下ろしながら突っ込むテレザ。
銀の腕輪は予想外なまでにテレザに力を与えているようだ。大きな声張り上げてたから周りに迷惑かかってるかなとも思ったが、結界に近い所だけ聞こえているようで二メートル位結界の外側から離れたら聞こえなくなったな。
そして、改めて玖珂が口パクパクさせているので近づいてみると、
とても面白い事を言っていた。
「所がどっこい! そこのレイ君のお父さんは二人くらい会ってるけどね!」
とこちらに指を指す玖珂その過程で二人とも結界が張られている事に気付いたようで何か、わーわー言ってるみたいだが、それは華麗に無視した。 というか、玖珂は薄々気づいてたくせに今、気づいたみたいな面してるし。
「あー、確かになー」
いの一番にその台詞に反応したのはエニグマ。俺はと言うと頭を抱えさせてほしい所だよ。
本当にね。
俺はなんつー、不可思議な現象に巻き込まれているんだろうな? 父さんが複数に分裂するという珍事に、見舞われているのか。そう考えていると外から足音が聞こえる。
「エニグマ」
「ああ、わかってる」
エニグマは俺の言葉にうなずくと、めんどくさいのか四つん這いで這いずりながら白いカードを順番に取り外していく。一枚取り外して三角の結界になったあたりで一悶着あったがそれも良い思い出だろう。とりあえず話はここで一段落。
初めての時間的余裕に、話題があっちこっち跳ぶのを自覚しながら昼飯食い終ったら今度はきちんと遺跡遺産関連から聞いてみたいと思う。
今はただ、
「北方漫遊者一行様。昼餉の用意が出来ております」
お腹空いたのでご飯としよう。
尺が足りなくなったので三章ナナセと戦うだけにしたらダイナミック尺余りになった為、ブレイクタイム。 反省してる。




