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異世界にてチキュウの魂たち

 腕を組んだ時、ちょうど胸を下から支える様に組み直してこちらちらりと見た事と、食うのを止めて考え込んだのが、そもそも器に煎餅がなくなった後、なんどもこげ茶の木の器を漁った後である事は忘れてやろう。


  「、別に、使いこなせている訳ではないからそれらが万全に出来る訳じゃない」

 考え事が終わり、口からポツリとつぶやいたのがまず、眼の事と言うのがこいつらしいというか。


  「ーーそんなに言いたくないのか?」


 眼をつぶり、口元に人差し指を近づけ、顎に親指をあてる。言い渋っているのかその姿は何処か今までとは違う。


 触れぬ方がよかったか?


 「んー別にそうじゃーない」


 間延びした言葉、だが言葉に詰まっている。それはどう反応すればいいか。こいつは些細な事は態度に出やすいけど、深奥が掴み辛いんだよなぁ。


 飯が食いたい―とか、休みたーいとかしょうもない事は分かりやすいんだが、それ以上は踏み込ませない。まぁ、昨日の会話から解ってたけどな。と、まぁ悩んでた訳だが、まるで狙いを済ませたように奴の口が開かれる。


  「いや、どっちも別に好きじゃないから答え辛いってだけなんだけどね?」


 その言葉を聞き、何故言わない様にとしていたことも分かる。思っていた以上に言葉を詰まらせていた理由は酷かった。

 詳しい理由はこれから話してくれるっぽいがどちらも好きではないなら確かに答えは出し辛い。


 窓の外を見ながら、玖珂はハァーと小さく薄く、息を吐く。それに何の感情が込められているのかは知らない。まぁ今までの情報を統合すれば決して良い事ではないだろうな。


  「まぁ察しの通り、実家帰っても窮屈だろうし、この世界でも結構トラブル続きだし」


  「ああ、来てそうそう命狙われればなぁ……」


 命を狙われたが故の反応だと思ったのだが、俺の言葉に眼を押え首を振る。どういうこった?


  「それもあるけどね? このまま残っても面白い事に巻き込まれそうだからねー」


手をお化けの様に構え、左右に振る。見ようによってはしっしと俺を払っている手つきだな。そんな事より、含みながらとても素敵な事を言っていたような?


  「面白そうな事?」


  「うん、眼が言ってる。そして君の父さんも危惧してただろう」


 父さんが危惧していた事? 何かあったけ


  「浄化か」


  「そーだよ。どうやらこれから起こる事、それを未然に防ぐために浄化が必要らしいね」


  あー、俺は、浄化そのものに対して言ったのだが、どうやらそれ以上の事が起こるようだ。それを防ぐために父さんは浄化を起こそうとしている?


  「待てよ。それだと父さんは未だに」


 悪人じゃないみたいとか、敵じゃないとか言おうと思ったが言葉に詰まる。元々、そのようには俺は思って等いない。


 ハズだったのだが、どうやら俺は、少しだけ、信じ切れてなかったようでそこが少し、切ない。


  「仕方ないんじゃない? 未来を見る故に、他人と行動がすれ違う。いや、摩耗して擦り切れるっぽいからねー純粋で真面目だと」


 一体、仕方ないはどこに掛かった言葉なのか、棚から鞄から昨日買ってたらしい新しい菓子をこちらにケツを向けながら漁っている玖珂。


 いつも通りふざけた調子だが、言葉は何処か冷たい。いや、何か悲しそう? 


  「お前はそうでもないのか?」


  「うーん、前にも言ったけど気に入っている人間以外は全力で煩わしいからなー」


 ナナセさんみたいに目に見えない人、ロクに知らない人、血が繋がってる家族程度のしか繋がりがなさそうな人間相手に情はうつせないよー


 と笑いながら引っ張ってきた酒のつまみに最適そうな干し肉をざばーと皿にうつし一つずつ手に取り齧っている。その言葉はどこまでもテキトーで、それ故に喋っている言葉に嘘は無いんだと理解できる。


 その言葉に少し考えさせられるものがある。


 と思索にふけろうとするとすかさず、玖珂から言葉が継がれる。


  「ーだけど、君たちの事は嫌いじゃないよ。多分、眼が無くても嫌いじゃなかったと思う」


  「理由聞かせてくれるか?」


 何かシリアスになってきた。このテンションの変わり具合について行けない。好かれる事した記憶がない。


 マジでない。


 エニグマに一緒に謝ったり、玖珂が寝てる所を回収したくらい?


 それだというのに、おちゃらけながらも強い感情を言葉に乗せてくる。そして、無駄な動きが無い。戦闘の時も見て思ってたが玖珂は本当に真剣になった時、動きから雑味が消える。つまり今こちらを見て喋っているだけという事はそれだけ真剣という事だろう。


  「だって君、くれたじゃない」


  「食い物か」


 そう言えば食い物やったなー、死に掛けてた時にくれてやったし、懐くのも分からなくもない。何故か、食べてすぐ復調したけど身体が痩せさらばえた犬とかめじゃなかったもんな。あの時の玖珂。 


 ……内心は五十の確率で違うと分かってるんだが、それ以外思いつかんぞ。


  「へ、それもあるけど違う」


 それでも五十は正解だと思ったのだが、珍しく女の子らしいふくれっ面と吐き捨てる様な口調で鼻で笑い否定してくれる。こうまで表情が変わると流石にあからさまに不服と分かる。


 すげー小さい声で、


 「これは視ててもきっついな―、自業自得だから仕方ないけどキッツいわー」


 とか、聞いて欲しいのか欲しくないのか。可聴域ギリギリの音声でぶつぶつ喋りながらこちらをチラチラ見たり、窓見たりしているKさん。うん、何がしたいんだよと突っ込んで差し上げたくなるがここはぐっと我慢すべきだろう。


 それでもこちらにため息をつきながら珍しく真摯に、だけどどこかふざけて告げる


  「私に都合のいい距離感で一緒にいてくれた。からかな?」


 独特な口調、解り辛い感情。余分な一句。だけど、だからこそ心から言ってる事だと理解する。


 こそばゆくて、照れくさくて、自己でも制御できない。


 そんな、決してまっすぐ言えない本心と言うモノなのだろうから。


 まぁ、だからこそ湧き上がる物もある。


  「なんつーか」


 こいつなりの理由と言う奴か、要約すると付き合いやすい。居て心地よくて邪魔にならないから好きになったと言っているのがね。


 なんというか付き合いづらいめんどくさい奴だなーとも思ってしまう。


 でもそれ以上に


  「そんな碌でもない性格だとさぞ現代社会は辛かろう、な」


 特にこいつは一応、お嬢様校の女子社会で輝く一等賞だった的な事を聞かされている。

 なんだかんだで付き合いも良かったので、内心はともかく外面ではとても面倒見がいい人と取られていただろう。名家っぽさそうなので、家名を傷つけない様にしてる節がある。


 であるならば当然、周りには人が集まっていたわけで、煩わしかったのだろうな。そう思う。


  「そ、君は碌でもない女の子に好かれてしまったわけですよ? 事案だしねー二十三歳、無職! 高三女子と異世界に逃避行!」


 言葉の奥にある感情も読み取れているだろうに、この冗談で返すこの姿勢には感服する。表に出ていないのならば努めて踏み込まず、流す。それも処世術の一つなのだろう。ならばこそ


  「ハァ、色々突っ込みたいが俺がこの世界に連れてきた訳ではないだろうが」


 漏れたのは溜息か、笑いか。


 ただ、何時も通りに返してやろうと思ったのだ。そしてそれはどうやら


  「ま、ソイウトコアイシテルヨ?」


 正解ではあった、ようだ。だからこそなおさら


 とてつもなくメンドクサイ。


 本当にこいつに何とも言えぬものを感じる。だが、それでも


 そんな面倒くさい本性を隠してでもつながりを求め、自分らしく生きたいからつながりを否定した。そんな女が、本性のまま付き合いたいと思ってくれて、今その心の内を語ってくれている。


 まぎれもない。確かな好意を抱かれてるのもまた本当な訳で


  「悪くは無いな」


 まれに煩わしい時もあるけど、こいつのテンションには偶に助けられる。だからこそ言っておきたかった。


  「うん、ありがとう。これからもよろしくお願いします」


 特にあからさまに迷惑をかけている部分で自己の肯定はされると嬉しい物、ナのだろうか。


 俺にはまだ分からない。


 ただ今は、心地よい風が俺達の頬を撫でるのだ。少しずつなれど感情の共有が行われている。


 だから矮小でも理解をしていけばいいのだろうと思う。


 果してこの旅がどのくらい続くのか分からない、もうすぐに終わる可能性もある。その道程で理解や絆が深まるとは限らないだろう。だけどさ。


 こうやって話し合って思うんだよ。


 この道のりは、いい物になると信じさせてほしい、ってさ。

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