幕間 parental love [lose]
(贈り物は届け終わったみたいだな)
白かった世界がレイの達が居なくなった途端にアルヴァを中心に陰が出来、元の暗闇に戻って行く。
「ああ、十分に」
異物は全て、天へと帰り、ここには掠れた紅と鮮明な蒼《女》のみで満ちていた。陽炎となった存在に女はポツリポツリと馬鹿にしながら話しかける。そうでもしないと別の感情に塗り替えられるとでも言うように。
(魂を削り、分配するとは無茶をする)
つまりはそういう事、闇が濃くなったという事はそれはつまりもたらさぬ者の影響力に陰りが見えてきたという事で、男を中心にほんのわずかに白を残すのみとなっている。
「ボスを倒したらレベルアップは基本だろ?」
何とマヌケな事を。
アルヴァは馬鹿にする様に、無茶苦茶な事を言うナナセに足して目を細めて睨みこむ。
だが、感情が人と近似値でしかないアルヴァにしてはその行為は珍しい。レイ辺りがいたならばきっと何らかの反応をしたと考えられる行動を見せる。
(お前は自分の意思を切り分けているようなものなのだぞ。理解できていない訳でもないよな?)
この世界では魂こそが自身を構成する重要な要素、それを他者に切り分けるという事はつまり……
「しかし、こうでもしなきゃ多分、最後の最後でレイ達は終わる」
レイ達の敵がかつての友である事は、ここからでも『視えている』故に、力量は何と無く分かる。当然それは、レイ達との実力差も分かっている。
百年の戦闘経験の差と、その年月で培われているであろう連携能力差は、才能だけでは埋まらない。
「俺とアイツラには、魂の設計図と遺産があるからな……」
魂の設計図
それは命を次へ導く物、魔族や天使を生み出した古の帝国が生み出した対神技術の、魂の技術体系の究極
あれがある以上、最後の最後で勝つのは絶対にあちら。それだけ、ただの人間とアレには絶対的に差がある。断片的にその力を手に入れた|彼らが素人であるのにこの世界五指に入る戦闘部隊に勝てる様に
だから、下駄を履かせる必要がある。
「俺が蘇ったという事は、破棄した『真人計画』も再開される可能性もある」
それ以外にも、敵が過去の彼とその友『も』居るのだから半ばケツを拭いてもらっているという事もあるのだとナナセは遠く、レイ達が去った天をもう二度と戻れぬ生者の世界を覗き見る様に言った。
(そうだな)
どんな理由があろうとも、個を優先する女にとって目の前の男の言葉は馬鹿げたものでしかない。それでも、目の前の男は止まらないならば、頷いてやるしかないだろう。そう、アルヴァは思いその言葉を口にした。
(いつも通りくだらない)
身体は微動だにせず、けれども女の口からは、人知れずため息が零れ落ちる。どうも昔から目の前の男と会話すると怒り、呆れ、そして悲しみ……嫌な意味で人間的な感情が喚起される。
(しかしそれも)
故に昔っからナナセの事は嫌いだった。いや、嫌いと言う感情すらこいつの前で初めて手に入れたな。と、はっきり見える自身の手のひらと、最早薄くなって距離さえ把握し辛くなった男の姿を比較しながら思い出す。
「もう時間か」
男の身体は霧みたいに薄くなって行く、だからこそ最後にこの薄らトンカチに一言、言っておきたい事を思い出す。
(みたいだな。ねぇ、ナナセ)
「なんだ?」
男にとって、目の前の女が声をかけて来ることは、自分が体験し、『視た』事のある過去にあった未来でも無かった事だ。だからこそ、後ろを振り返り、女の言葉に耳を傾ける。
(所有者を生み出してくれてありがとう)
「ふ、ははは、そうか」
レイは歴代最も適合率がいい所有者だ。だから女にとって男の子供とても有用な存在でそんな人間を産んでくれた男に感謝する。
それはともすれば酷い言葉でしかない。だが、男はその言葉の奥にある。本人すら気づいていない意味も微かにだが感じている。だから笑う。それは本当に面白い事だから。
消えかかっている為、掠れが摩れに響く笑い声。そして、腹の底から湧き上がる喜ぶも、声さえ満足に発せられなくなっている事に気付く。これから戦い続ける子等に、最後残せるものは何か、最後の瞬間まで考え、そして一つだけ思いつく。
(ねぇ、流石にイラついてくるんだけd)
笑い声にいらついて、全力でグーで殴りかかるも、掠る。いや、通り抜ける。もはや、ギリギリで残っているすぎず、殴りかかった手を思わず見てしまう。
ただ、殴られたナナセの方は、それに気付かずに天を見て、口を開く。まるで何事もされなかったかのように。
消えかけているからか、外界への情報を取得が制限されている。何をされたかすら認識すら出き無くなっているのだろう。
今できる事に、集中している。
「行く道は無明ではなく、安らかな暗闇である事を」
身体が光になり、とうとう天へと散って行く。その中で彼は、直接相手に告げるのではなく、ただ、天へと言葉を送り、彼らの未来に祝福の唄で祈るのだった。
居ないのは本当に都合がいい。何故なら、レイがいたならば更に言葉で縛ってしまうからだ。
子は意思を親に縛られてはならない。彼らの意思で選択して、親はそれを自分の経験から支えればいいのだ。
故に、今回は最低限のアドバイスのみ口にした。
もうこれ以上、彼らの自由を狭めたくはなかったからだ。 闇を恐怖とは捉えずに、踏破して欲しいから
(そして彼らの道筋は焼き尽くす光ではなく、暖かい光芒が照らさん事を)
途中までは謳えたのだがとうとうのど元まで顕在化が解かれ魔力によって形成できるのは影のみとなってしまった。祝福の謳う事を中断してしまうとは縁起が悪い。彼はそう思っていると前の少女が言葉をつぐ。
興に乗った。と言うのもあるが、彼女自身、レイ達に思う事がある。そして、目の前の男にも言い知れない感情がある。消えゆく為、言葉を発せないナナセの言葉を継ぎ、祝福を謳う。
示された道を光で殺されない様に、それは多分、自身もそして目の前の残像もレイ達を焼切る極光であると思うから。
(はぁ、昔は捧げられる供物に同情などしなかったのだがなぁー)
この身を剣に貶められてから感情を手に入れて今日に至るまで、人間と価値観を共有することなどなかった。
(これもすべてお前たちのせいだウィル、ベルゼル、ナナセ、そしてレイ)
もはや色のついた背景でしかなくなった虚空を手刀で切り裂き、何がしかの物体がある位置に座り込む。思い出すのは懐かしき二代目と三代目 そして今関わりのある親子。
(く、はははは)
自身に人間の価値観を与えた者たちを思い出しながら、流れぬ何かの代わりに掠れた哄笑を天に地に響かせる。
空しくて、切なくて、だから私は、と自身の呪われた生きざまに輝かしき思いを混ぜて誤魔化していく。まるで酒で心を惑わすように、消えた虚空を眺めながら耽溺していく。
(レイ、頑張りなよ……)
夜の終わりとともに告げられた言葉は闇と共に光の始まりに消えていく。この光とは、誰の祝福となるのだろうか




