『また会えたなら』
なんだこれ
「魔力光器・武相燈籠」
それは漆塗りの渋い燈籠、上は四角い傘でミニチュアの灯台のような物であった。何処か年季の入っていて、今までの新品の様に見える物とは違い何処か古ぼけた物だった。
だが、決して悪い物でもない。
(似た様なのなら『魔刃創書』渡せよ。ケチクセー)
棒読みながら、不満げに口にするアルヴァ、なんだ魔刃書って?
「あれは条件が色々メンドーで使いづらいんだよ」
とりあえずこれ以上に凄いモノが有るらしいが今は渡す事が出来ないらしい。当人を無視し、別方向でその事に対して話し合っているアルヴァと父さん。魔刃創書、要は色々な魔力の宿った刃を生み出し方を記した本らしい。
確かに今の俺にはその方がいいのかもしれない。アルヴァがぶーたれる様に、使い方の解らない物よりはそっちの方がいい物だろう。しかし、これ以上のモノと言うのも興味がある。
まぁこれも、尊い思いの込められた一級品である事は受け取った当初から解っていた。父さんが渡した物だし、きっとこれこそ自分の役に立つのだろう。
確かにこれは、ボロボロでガラクタの様にも見える代物だ。そして、何処か傷跡も多い。だがそれは大切に使われてきた痕跡でもある。無粋な一言さえなければ十全に素晴らしい一品であると俺も知っている。
「はぁ、あんたら少しは……うぉわぁ!」
だから外野で起こっている口論を止めようと口を開いて数秒経った後、燈籠が急に光に分解されて俺の身体に染み込んできた。どういう事だ?
「こほん、それはまぁ、説明省略するけどそうやって体の中に入るのが正しいもなんだ。無限に影の武器を作り出す代物でね、技の応用にコレは使える筈だよ。それに、これで作った武器は切れ味も耐久性もそこそこいいしな」
らしい。用は今回の戦いで父さんが作っていた武器を創れるようになる代物だったようで、燈籠を介して、俺も創れる様になったという事らしい。身体に溶けた理由はあれ自体、物質ではなく知識と使用条件のイメージ映像だったかとの事。用は物体ではなく魔導書をプレゼントされたという事なのだろうか?
必要最低限未満の事しか説明されず、ちんぷんかんぷんな訳なのだが、どういう事か?
「まぁ、それは必要な時にそれが知識を与えてくれるさ」
「そう言うものなのか」
ああ、そうだ父は頷いて何か言おうと口にしたのだがまた途中で茶々が入る。
(『魔刃書』なら普通に魔導書として使えるし、耐久率そこそこに破格の切れ味の物創れるようになるけどなー)
何がそこまでさせるのか、またインターセプトしてくる。アルヴァと父の口ケンカに仕方ないから俺は先回りして口に出す。
「まぁ、ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
何とか、口論も抑える事が出来た。どうもアルヴァは父さんと、と言うか魔族関係者とアルヴァの仲は相当悪い。歴史上対立する事が多かったからだろうか? ついでに周囲を観察しているとエニグマがさっきからイライラしているようでテレザに抑えられてた。
「最後にチームとしての総評は」
(時間おしてる。まけ)
イラッ、その様な感覚が後方と前方から感じる。誰が感じているのかは言わなくても分かるだろう。一応、前方の方はそれでも感情を抑えて続けようとしているが…… おお、手が火の粉やそよ風、小重力変化、水滴に微光、五行が乱れながらプルプルと言う手の振動に連動してる。一巡りした数瞬の段階で、若干声が低くなっているが続きが言われている。頑張ったなー
「君らはもっと話し合え、距離を測り合ってたら、いつまでもそこそこどまりだ」
「う、」
「身に刻ませていただきます」
「自覚はある」
「まぁ、頑張ってみるさ」
言われると思っていた事なのでそんなに威力は無い。けどやっぱり、それが一番の課題だよな。とりあえず、俺、テレザ、玖珂、エニグマの順に反応していく。
原因はどこまで言っても他者の縁で集まった烏合の集である事、そして追われている事から余裕が常に無く満足の行くコミュニケーションが取れていない事が理由だ。
故に、未だに無駄な会話をする事は少なく、きっかけが無ければ話し合う事は少なく、仲こそ悪くないが表面上の信頼しかできていない。この事は本当に解決しなければならない事だ。
それに関しては玖珂とテレザも同感な事が理由か、テンションがやたら低いのが気にかかるが今は気にしている余裕がない。
(時間か。これ以上は君たちを保護できないから送り返す)
身体が足から時間経過で光となって天に昇って行く。父さんが怪我していた時の現象と似ている。けど、多分これはアルヴァの状態から考えて覚醒とこの世界への維持が出来なくなっただけだろう。何故、今回の帰還は暗転し、身体が薄くなって行く状態ではないのか知らないけれども問題は無いと思う。
「それでは元気でな」
だから、時間が許す限り俺達は冷静に父さんと相対する事とした。
「ありがとうございました」
「お義父さん。ありがとう!」
この時点で下半身の半分は消えていく、テレザと玖珂は特に父さんと関わりが薄いので純粋にお礼を述べるのみ。ぺこりと頭を下げて早めに身体が消えて行った。ただ、父さんへの呼称が可笑しい人いたけどね。
後で分かった事だが、テレザと玖珂の消滅が早かった理由は、元々アルヴァとの関わりが薄いことが理由で、維持が難しくこの世界で消滅する速度が速かったらしい?
「ハハ、久しぶりに話せて良かったよ」
多分、もう会えないから。エニグマもその自覚があるのか、顔を見せない様に最初は俯きながら、しかし、それではいけないと思ったのか、何とも言えない顔を上げ、今はきちんと相手を見てそう応える。
上半身も消えかけてきた。そろそろ、俺もこの世界から消えるだろう。
何処までもぎこちなくてもエニグマの顔は確かに笑顔だった。そして父も、ならば俺も見習おう。父さん達に対して弱気を見せない様に、顔を向ける。
「父さん。『さようなら』」
俺なりに『視た』結果もうこの父さんは持たないから、覚悟を持って別れを告げた。そうして覚悟を持って向けた言葉なのに、父さんは吹き出しながら破顔してくれた。
「ふ、ははは」
その反応に流石に癪に障るものがある。その為、文句の一つでも言おうとした時に続けて父の口が開いた。その言葉は、
「まだまだ視るのが浅い『またな』だ」
荒唐無稽としか今は言えない言葉だった。父さんを構成する魂はもはや残りっカスとなっている。その残りでは、どんなに意思が強くともこの世界に抗う事などできずに消え果てしまうだろうに。
「わかった。まt」
それは強がりかも知れない。もしくは父にしかできない裏技があるのかも知れない。メンドクサイ考えてもどうにもならないなら理由などいるまい。どうせ、時間も無いのだ。
今はただ、父を信じて応えよう。そう思い、言葉に出そうとしたのに、届かない。
消えていく、言葉も身体も、長考は全てを無意味にする。後悔は無意味で全部自分の責任だけど、それでも伝えたかった。ならばせめて、父親を見届けよう。顔を背けず、意識を向ける。この身体が消える瞬間に父は
「ああ、『またな』」
手を振ってそう応えている気がしたから。これでいい、そう、後悔せずに行けたんだ。目も何もかも光の粒子となって消え果る。




