それぞれへのプレゼント
「ああは言ったが、欠点克服は難しいからな。長所を伸ばすべきと思ってね」
先ほどの言葉から渡された物とは思えないが、どんな選択をするにしても必要な物なのだろう。
「ありがとうございます」
貰ったテレザはぺこりとお辞儀をして改めてこちらに戻ってくる。左手嵌めた少々大きめの銀の腕輪を大事そうに握って改めて俺と玖珂を癒しに来たようだ。
「んじゃ、エニグマ」
「おざなりだな」
そんな俺達をよそに、先ほどまでの空気とはなんだったのか。気楽に話し始める。古くからの知り合い。
「お前とは長付き合いだしな」
「で?」
正直、見てるものも驚くほどのトントン拍子に話が進む。口所か思考さえ挟む暇も無い恐るべきほどのツーカーだった。
「お前はもうチョイ、本当の意味で周囲に心開け。気難しそうな子の引率だとしても、目上のお前がしっかりしろよ」
「ん?」
多分、俺達の事なのだろうけど、微妙によくわからん。馬鹿にされてる事と扱いづらい奴ばかりと言うのは理解できるのだが、何か。
そう、何か他にも言い含められているような?
しかし、改めて、目の前の男は彼の主観時間では絶対にこちらの方が年上だろうに、何処か優しげな瞳と立ち居振る舞いからかどうしても保護者目線の物言いが違和感がない。
「いつもながらにめんどくさい奴だな」
「君に言われたくないんだけど?」
言わなくてはならない事も終わったようで、後は、軽口を数回叩き合うだけだ。本来ならもっと話したい事があるだろうにそれだけで済ませてしまう。
悲しそうな表情で、それでも満足そうな表情。まるで悲しい事が嬉しいとでも言うように二人は曇らせながらも快なりと薄く笑い、本題に入って行った。
「分かるけど……まぁいいや。お前にはこれ以外ないよな」
手から差し出されたのは黒いカード。
いや
暗い、暗い冥色とでも言うべきカード。暗く、土に似たそれはまるで冥界を彷彿させる色、見た目だけで恐怖を喚起する特殊な物だ。なのに、
俺達はそのカードの見た目だけで一瞬驚いた。しかし、時間がたつごとに何か、何か違うような気もする。暖かい?
そう、包まれている、守られている。見た目の恐ろしさとは違う、何処か矛盾をはらんだカード。
なんだ、あれは?
「このカードは……いいのかい?」
「ああ、上手く使え。最後」
エニグマはそれ以上何も聞かず、父さんもそれ以上何も言わず、ただ俺を呼ぶ。そのカードに何があるのかは知らない。ただ、分かるのはそれはこいつらにとってとてもとても重い意味のあるカードだっていう事だけだ。
「俺か」
「ああ、ほら立ちなさい」
こちらに来て手を差し出してくる父さん。身体が動かせない状態でそれは止めて言いたいところだが、生まれた時から親に対する服従思考みたいなものが、不快ながら、身についてしまっている。その為、回復してきた体力を使って手を握り返していた。
「いや、身体に力が……あれ、力が……?」
本来、それで使い果たしている筈の力が、握り返した手から湧きあがる。
「ぬ、残念」
「え、あれはそう簡単に回復しないはずなのに……」
活力が身体に満ち、立ち上がる。その際に、玖珂や、テレザから様々な感想が漏れだす。俺は、身体が動く事とは別の感想を抱いている訳だが……
そう、これで言い訳無用に、俺の番。
喉に変な感覚がある。腹部辺りがザラザラする。体の不調を言い訳に出来ず、刑を執行する裁断所に一歩、一歩と進まされる。欠点なんていくらでもある、いったいどれを突かれる事やら。
胃の痛みを堪えながら、目の前の少し変わった父さんと相対す。
「そうだなー」
家から離れて何日経過したかは知らないけれど、懐かしいこの感覚にべとべとしたモノが溢れてくる。どうも父さんの前に立つのはキツイモノを感じるのだが、目の前の人物はお構いなしと、話し始める。
「力の使い時を過つな」
一番、突かれたくない点を突かれてしまった。自覚はある。使っていく中で自身を切り売りしていく感覚と、何か別の存在を注ぎ込まれていく感覚。だが、仕方ないだろう生きていくには力に縋るしかないだろう!
こんな世界に送り込んだ人の、当面の敵勢力のボスである人の、何より父である人からの一理はある忠言に、苛立たしいものを感じる。
「君は自覚していないだろうけど、自分を切り売りしている自覚を持て」
そんな俺の苛立ちも、解っていて押し切ろうとしている。いや、それ以上に心の中では心配が占めているから押しだしてしまっているのだろう。
心配そうに見えない様に声音を出さない様にしているのだろう。声はまるでロボットが喋った様に先ほど変わらずに言葉が出ている。
「分かってる。分かってるよ」
それでも分かる。いや、今まで共に生きて、家族を失った事を聞けば誰でもわかる。節に、ただ節に俺の無事を祈る父の祈りが。
先ほどまではただ、ただ、父親に叱られるのが怖かった。ただ、戦闘として相対するなら怖くは無い。
『煩わしいモノは喰えばいいだけ。集る蟲は、払えば良いだけ』
そう思い、敵に相対はできる。だが、この人は家族だから、倒せば解決はしないし、逃げられもしないから。ドウシテモ緊張してしまう。
そして言いたい事も空まわる。昔っからこうだ。覚醒の使い所も自分なりに納得して出した答えだと、胸を張って答えられない。見透かされているようで、怖くて口に出せないのだ。
「それでも……俺は後悔していないし、あの時出すべきはずだったと思ってる。結果も、見せたはずだ」
それでもと、最低限の勇気を出して口にする。向き合っていずれ迷惑をかけぬように、未来には対等でありたいから。
「ああ、私も分かっている。それでも心配なんだよ」
俺の言葉を否定するのではなく受け入れる。その上で心配だと重ねて言う。その言葉がただ、ただ、嬉しくて重い。
「君の肉親だから、家族だから」
失いたくないのだと、消えて欲しくないのだと言葉を平淡に偽りながら言ってきた。
「……ナナセ」
「家族っか」
「こんな父親だったら、家出しなかったのかなぁ」
周囲も黙って聞いている。現在の状況と性格を考えれば玖珂辺りは茶々入れそうな気もしたがどうやら流石にそこまで無粋でもないらしい。
いや、家族関係で思い当る事の多いこのメンツだとこうなるのも必定か。
空気が重い。コンクリートほどではないが動き辛いまるでゼラチンの中に入れられてゼリーの具にでもなった気分だ。なんというか動けない訳ではないが払いづらい。暖簾に腕押しと言うほどではないが奇妙に具合がよろしくない。
「……変な空気になったな。まぁ剣技に関して身体に馴染ませろ。魔力はー、頭で使うのは難しそうだな」
父さんもこの言い知れぬ空気が変わったことに少々辛いものを感じながら、話しを変えてきた。とても失礼な一言付きで、言ってくれたのが癪に障る。
「ほっとけ☆」
会心の出来だ
実に良威笑顔で父の言葉に反応できたと思う。
だというのに
「古代の魔法を中心に鍛えておけ原初魔法の中には感覚で使うものが多い」
我関せず、口頭で説明しながらゆっくりと手を差し出してきた。無視なのか、それとも気にしていないのか。
いや、丁寧ながらも口調は早くなっている。……そういう事か、ならば俺も言葉をけがすまい。
「そうかよ」
「ああ、お前に渡すのは、これかな」
ぶっきらぼうに言い返し、差し出された手に手を差し出し受け取った。集光は先ほどまでと違って大人しく、今までと違って……?




