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終わってすぐ日常へ

  (正真正銘のピンチかな? ナナセ(クソ野郎)


 異音を立てて、父さんの身体から何かが落ちる。


 アルヴァの声の後、腕と違って肥大化などしていない。ただ、純粋な魔力量だけで硬化していた下半身がとうとう消滅し、切り離される。血の代わりに流れ出る白色の光さえ、紅と蒼のかき消されて消えてゆく。


そして、その様な光にさらされ続けられれば、当然、右腕も人外の域で強大になっていても無事に済むわけがない。


  「ああ、そうかもしれぬな」


 右腕もまた、今まで以上にされど緩慢に内側から消滅していく。すでに薄くなった肉癖ではより薄くなった部分に、残光が触れてボコボコと丸い穴が増え続けていく。


 ()は、そんな絶体絶命の中、それでも何処か面白そうに玖珂たちの蒼き光と俺の紅い極光に相対していた。


  「それでもあがくさ。勝利の為にな! 六導流・基本の型ァ!! (ダァン)! くぅう!!!」


 蒼き光に振り上げた左拳を拮抗させているのだろう。空間さえも蝕み、その反動を自分の力に変える拳も、肉体が内側から焼かれ、最早下半身は血に落ちた状態では最高の威力は期待できない。それでも父さんは決して諦めたりはしなかった。


 蒼は左腕を、紅は上半身をその決意と意思さえも徐々二色の光は塗りつぶし、消し飛ばす。


 時間が経つごとに左腕は無くなり、上半身ももう左胸と首位しか残っていない。


 それでもまだ勝つのだ。と諦めずに足掻く父に何処か負けたような思いが溢れてくる。今は力も、心も、一人で勝てないけれど、いつか必ず……


 そう、心に秘めて、全霊の敬意ゆえに最後に全力全開の最大出力で止めを刺す。


  「虚空陣・号」


 首と鎖骨分しか残っていない父が口を大きく開き残された魔力を空気の振動に変えて放つ。どうやら神にとって言葉を話すという行為は別に肺とかが無くてもできるらしい。


 本当に諦めが悪い。それは多分生に真摯であるという事なのだろう。


 ただ、その一撃(思い)もこの一撃の前には無に等しいのだが。


   「P・Fメルトダウン・オーバーライザー!!」


 その言葉と共に光はまるで小さな星でも作る様に球形に広がり、上の蒼い光の大きな残光と混じり合って父さんの上半身の余りを消し飛ばす。


 当然、爆心地にいた事や攻撃が混じり合った影響か、足場としていた『元右腕』が完全に消失した為、盛大に空に投げ飛ばされた。


 蒼い直光と紅い球光の影響か、それとも縦回転しながら吹き飛ばされているせいか、傍から見るとビリヤードの玉のように見えているだろう。


 あーやばい、ついつい調子にのって空飛ぶための魔力とかを残すの忘れてた。


 後悔と共に、お空を航海する事となった。


 湧き出た力が、まるで冷気を入れられた部屋の温度のように段々と低下していった。それは力と、そして思考力にも影響を与えていた。


 命の危機であるというのに、考える事さえ億劫になり始めた居た時、


  「レイさん。危ない!」


 仲間の声が響く。炉の火のように力を与えてくれる。それは消えればまた寒くなるものかもしれない。それでも


  「ああ、ありがとうテレザ」


 握りしめた時は、確かな力になるものでもある。 


 空から杖にまたがってこちらに向かってきた手を握りしめて俺は一息ついた。


 その過程で、後ろ髪が引かれる感覚を覚え、生き残る為に無情に消し飛ばした父のいる方向覗く。怨嗟にも似たそれは、勝手に視た影法師。自分勝手な罪悪感が産んだ錯覚だ。


 そんな感情を抱いたというのに、実際に見た光に飲み込まれていく父の顔は何処かそれでいいんだよと言っている気がしたんだ。


 (よくぞ、ナナセを倒した。ぶっちゃけできないと思ってたから誉めてやる)  


 戦いが終わり、静けさのみが残る。蒼く靡く髪を適当に払いのけて口にするアルヴァのその言葉に釈然としないものを感じ、皆、憮然とした顔になる。


  「ハァ、ハァ、色々突っ込みたいけど……まぁ、良い経験だったよ」


 戦いが終わって疲労が出たのか、俺達は基本、立っているだけでキツイ状態であった。

 そもそも、まともに立っていられているのは後方支援だったテレザくらいなもので、あの玖珂でさえフラフラしている。


  「大丈夫ですか、レイさん」


 そう言ってテレザは味方で最もダメージが大きい俺に近づき、回復術式をかける。影でアルヴァが別に朝になれば問題なく動ける。とか言ってたけど本当にそうかは分からない。テレザもきっとそう思ったのだろう。俺を中心に回復の術式をかけて行った。


 しかし、大丈夫じゃない事は見てわかるだろうに、何故人ってこういう時に大丈夫って聞くのか永遠の謎だよな。そうぼーっとした頭で考えてしまう。口に出さないのは余裕がない状態での最低限の気遣いなのかな? と、心配してくれていたテレザに悪態をついてしまった。


  「ちょこっと動くのさえメンドクサイ状態だけ、ど時間さえもらえるなら大丈夫」


  緑の燐光に包まれて、身体の回帰が始まった。自前の回復能力と、父さんの魔法を見て自分なりにアレンジしたテレザの術式の影響か、ある一部分を除き、物体としては原型に近づいて行ってる。


 それでも、身体を別の物質に変換した影響と、魔力()体力()を使い尽くした影響で、感情の働きも、肉体の働きも上手くいかず、仰向けに横たわっているしかできない訳だが。


  「まぁ、右腕が黒ひげ危機一髪になっている事は問題だけどな」


 身体はテレザの回復魔法でなんとなく動ける様にはなってきたが、右腕はそもそも腕の原型が無かった。まぁ、この程度で済んでいるのがラッキーという程度には色々あった故、仕方なし。止血してるけど穴がボコボコ空いてて具合悪し、掻き毟りたいし、じくじくする。


  「よし、短剣を刺そう!」


  「や め ろ!」


 どこから短剣を取り出した玖珂が、俺の腕をぶっ刺そうとするのを左腕で殴って止める。左腕もそこそこ感覚がないのだが、正直それでも刺されるよりはマシなので殴る。


  「女の子の頭を殴る男子ってサイテー」


 口をへの字口にして、いつも以上に棒読みでその様な事を口にする玖珂。それに周囲は、なんというか呆れた顔をしていた。こちらは洒落でも止めて欲しい訳だが。


  「ぬかせ、病人に短剣ぶっ刺そうとする方が可笑しいだろ」


 しかもそれ、なんか強い魔術かかってる奴だから危ないんだよ。そんな状態でも、何時の間にかギャーすかぴーすか言いあっていられるのが自分たちの強みかな。


 「レイも、身体も動かないレベルで消耗してるのに元気そうだね?」


 これ以上、回復術式をかけても無意味という程度には肉体は右腕を除き回復している。

 その右腕も自然治癒を待った方が良さそうだったので、テレザは俺と玖珂の茶番が終わるまでエニグマの方に行っていた。


  「そうですね。でも、いいのではないでしょうか。ユミさんも、レイさんも楽しそうですし」


 身体が動かせない為、確認はし辛いが、とても朗らかな声でテレザはエニグマと素敵な会話をしていた。


 俺は絶賛、右腕が黒ひげになりそうな所なので全然面白くない訳なのだが、どうやらアイツラの目は節穴みたいなので突っ込みたい。


 そう思っても上がらぬ身体、動かせない四肢に煩わしいものを感じながらも、落ち着いて考えるしかない状態に陥っている。


 確かに、このくだらない馬鹿騒ぎにはこの心に注がれる心地よい何かを感じてるのも事実なんだろうな。


  「空薬莢を投げて弾入れー」


 おっと弾入れになったようだ。コイツ!


  「動けるようになったら、散らす!!」


 そう思って、口争いに没頭する。願うなら、もう少しこのくだらない会話に耽溺していたかったのだけれどね?


 響く拍手と見覚えのある影が現れるまでは本当にそう思っていた。

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