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それでも、それでも

 膨大な量の風と雷が剣へと満ちる。音と光が荒振り、身体を傷つけさえしている。皮膚がただれ、裂ける。しかし、それさえ手に極大の台風以上の質量を圧縮し保持している状態である現在の自傷としては軽い方であるといえよう。


 これでさえ本当に、この身体を貫き父さんの身体に到達する威力を誇っているかは分からない。それでも描いた技に、この威を乗せる・


  「五行が木、奔れ・雷霆! 六導流・芯突が崩し、絶剣の蒼撃ブルーインパクト!!」


 風と雷に後押しされた最大力の芯突は、蒼き稲妻と暴風となりて万象を砕く神威と化した。


 頭に知識が流れ込む、半神とはいえ神に抗うには自身もまた神の力を借りるだけではなく、神の土俵に上がらなくてはならない。しかし、俺には謎の声をはねつけた現在は、神になる手段を失っている。


 故に裏道、なれば雷になればよい。雷それは即ち、神成それは歩がそのゲームの最中のみと金となるが如く、一時的に神の力を授けてくれる。今まで、何故か俺が雷に縋っていた理由はこれであった事が今、手に入れた知識が教えてくれた。


  「それに神話において雷は親族殺しの特性を持っている!!」


 それは、クロノスを殺したゼウス・殺されたイズモが悪神になった時に纏っていたいかづち・父に疎まれたインドラと親族との叛骨の層を持ち、王権を授ける神に威と魔を払う特性もまた持っている。魔であり王である土行の父に対して、これ以上の攻撃は無かったはずであった。


  「われ、相手に雷霆か……ふははは!! 面白い、面白いわ!!」


 貫く力は皮膚を削り、肉を貫く。確かに相手に致命傷を与えている筈である。なのに、こちらが勝っている気がしない。いや、むしろ何故か……


 身体が熱くなる。触熱の如き大気が手から、肉体から発生しているからだ。魔炎、物理法則を焼き尽くす。例えるならば、魔力による分子運動が起こっている。この様な現象が起こっている理由は……


  「感情で力が引き上がっているのか!!」


 さっきから打ち倒そうとする度に、実力が上がっている。それと、こちらが実力を見せるたびに歓喜で力が喚起されている。



  (昔っから、あいつはテンションが激しく変化する度に実力が引き上がっている。私に縋るか?) 


 どこの主人公だよ。そう突っ込みたくなるのも歯を噛み絞めて貫く力を強く強く、振り絞る。これ以上、時間はかけられない、これ以上時間を与えれば、間違いなく絶対力の及ばない領域の存在に成り果ててしまうからだ。そして同時にアルヴァの力をレイス・ユニット以外の使い方をするのも魂から忌避感がある。


  「いや、いいッぃい!?」


 光の位置が変わる。いや、右手が動いているのだ。当然その中にいる俺も動くことを余儀なくされる。何が起こった!!


  「しかし、我が息子以外もそろそろ構ってやらなければな」


  「そんなことしてる暇かい?」


 父さんの言葉に、エニグマが皮肉を言っている声が聞こえる。つまりこの手の外ではとうとう父が、他のメンツに攻撃を仕掛けようとしている事を意味している。


  「何、息子ばかり贔屓もそろそろいけないと思ってな。お前たちにも一撃をくれてやろう」


 その言葉から察するに、きっと左手が大きく振りかぶっているのだろう。右手も合わせて動きだす。それに合わせて貫いた傷口から腕の部分まで俺はめり込んでいる。


  「テレザぁああ!!」


  「えっ」


  「先達からの忠告だ。頬って置かれたからと言って、油断してはいけないよ」

  「六導流・拳術 基本の型壱式・発暴風」


 外観の把握は俺の得意科目ではない。故に、テレザが受けている技がどの様な技かは分からない。

 しかし、ここからでも分かるほどの身体の動きは、拳の動きを読みやすくし、ぶぉんぶぉんとなる音は見てなくても拳の位置が把握できる。

 あからさまなテレフォンパンチ。一瞬、これならば、仮にテレザが動けなくても他の二人がフォローできる。そう考えてしまい。改めて肉採掘に専念してしまう。


 何故、そんなフォームで攻撃しているのかなども考えず。

 

  「なんで今更テレフォンパンチ?」


 当たり前の疑問。今までは遊んでこそいたが、隙の少ない早い攻撃を好んで使っていたように思う。攻撃の手を休めこそしなかったがついつい疑問に思う。このままでは意識が分散して、倒しきれない。


 それこそ、エニグマ達を不利にすると考えてしまった俺は、振り払う様に剣を見て攻撃に集中する。そう雷霆と『嵐』を纏った剣を。


  「そうか、違う! 正しくは回避の難しい技かッ!」


  「テレザが危ない!!」


 ここからでは様子が見えないが、つまりは、多分、そういう事。

 身体を大きく動かすのは、風、そして大気に干渉するため、音が大きくなっているのは、それだけ周囲の風を制御下に置いて束ねて動かすことによる余波の可能性がある。

 

 ならばこの一撃は、この人が住める程度には大きい手以上の風を支配下に置いている!!


 それは間違いなく、最低でも家一軒は吹き飛ばせる程度の威力を誇っている事であろう。


  「エニグマ・クガぁあ!! そっちの風はどうなっている!?」


 もはや腕の肉に埋まっている俺には外の状態は分かり辛いし、本来なら声も届き辛いだろう。


 それでも人間以上の身体能力を持ち、精神的な要素も強いエニグマと、高次元の『目』を備えている玖珂ならば届くはず、故に声を張り上げ、確認する。


  「君の想像通り、面白い事になっているよ」


 雑音混じりの張り上げた声、そこから吐き出される嘆息は、今とてつもない状況に外がなっている事を知らせている。


  「お義父さんの拳に暴風を纏っている。余波だけで吹き飛ばされそう!!」


 声が途切れ途切れだが、多分そう言っているのだろう。予測通りの展開になっている。


 どうする。ここから何ができる?


 掘り続けていなければ何れは囚われてしまう肉の壁、何故かここまで体内を削っているというのに、悲鳴を漏らしていないというのも気になる。それどころか一切気にしていない。


  「痛覚を消しているのか?」


 ならばここから何ができるというのか。今にも俺を吸収しようと接近する肉壁を前に、俺は内側から必死に心臓部に目掛けて骨を避けて掘り進んでいく。


  「どうする。決めるまでは、掘り進むけどッ!」


 焦燥が手をぶれさせる。いらん事まで口走り始めた気がする。自分の行動、敵対者の処遇には冷静であれるが、どうも身内にはそうはいかないようだ。


 仲間の危機に、鳴動する肉壁に押し流されの現状は、ただ、ただ、自身の心の動きが目の前に現れているようにも思えてしまう。


 煩わしいな 本当に


 ドロドロとしたマグマの様に、感情が身を焦がす。だが同時に、そのマグマのような熱は体内に魔力の熱を呼び起こす。まるで火山が噴火を起こすように、身体から魔力が感情に合わせて吹き出してくる。

 焼ける様なこの感覚は、先ほど見た父親の感情の魔力上昇と同一にして真逆の性質を持っていると理解できる。


 正の歓喜に反する負の怒り、しかし、同じ血故か感情により力が喚起される所は一緒らしい。だから、今はその血の繋がりに感謝しよう。それと同時に、ある案が自分の頭に閃いてくる。


 この力を解放し、腕を消し飛ばせばあるいは……


 魔力の供給は、知識も共に供給したように感じる。


 今までの感覚とは違い霞がかかりおぼろげなヴィジョンだった。錯覚の可能性も高いが、それでもいい。縋れるのならば今は、仲間を助けられる可能性に縋りたい。


 ここで一気に力を解き放ち、腕を消し飛ばす! その際、もしかしたら腕を修復され、危機に陥るかも知れない。それでも仲間を死なすよりはマシだ!!


 激しい感情で魔力を高める。ここ一帯を消し飛ばッ


  「信じてください!!」


  「ッす?」


 膨張した魔力を大嵐に換えて放とうとした瞬間に、大きな声を張り上げたテレザの声に制止させられる。大分マヌケな格好になっているので、肉の壁に阻まれていて本当に助かった。


 「ユミさんから、何をしようとしているのか教わりました! その魔力は敵の打倒の為に使ってください! 私たちは自力で切り抜けます!!」


  「だがッしかし!!」


 荒ぶる魔力と、風はここからでも感じ取れる。極大に膨れ上がったそれは、今の膨大に力を増大させた俺でさえ対抗できるか分からないほどの破滅的な力の塊だった。それをエニグマ一人ならともかく、テレザ達が?


 出来るとは思えない。そう思い、更に声をかけようとする。しかし


  「大丈夫ですよ、それに心外です」


 静かに強く声が届く。思いの強さが伝播したのか、人為的に発生し強化された嵐の中でさえ、その声は確かに届いた。


  「私は、もう!! 足手まといじゃありません。信じていてください」


 魔術の知識や、仕える魔術だけなら最初っから一線級であった事はカードで知っている。今までは実戦経験が欠けていただけで。


  「だ、そうだ」


 父さんもそう言ってわざわざ俺に言葉を送る。それはまるで俺に言い聞かせるように。


 そうだ、成長してきたのは俺だけではないはずだ。確かに、RPGみたいに特に多く戦ってきたわけでもない。修行とやらも今回が初めてだ。それでも色々な事を試してきた。強くなったのは自分だけではないのかもしれない。


 薄い明りに縋るような出来事かもしれない。


それでも、


 それでも、

 

 それを燈したのが仲間であるならば信じてみたい。


  「分かった。俺は右腕から心臓に」


 仲間を信じ、決意を胸に肉壁の脈動に邪魔されぬように、大きく確かな意思を込めて語る。


  「ええ、私達は左腕を打倒します」


 テレザもまた強く、皆の意見を纏めて話しているようだ。きっと彼女の言葉はエニグマや玖珂の意思も含めているのだろう。


  「ははは、面白い! 俺の身体の内と外で面白い会話をする」


 そんな俺達の言葉を、出来るのならばしてみろと。その烈威を魔力に換えて更に敵は吼える。莫大であった魔力の総量は更に膨大し、魔炎によって周囲はもちろん、体内の温度もまた更に上昇していた。

 ただでさえマグマの上を突っ走っているような感覚であったのに本当に肌を焦がすほどの熱故にマグマの中に突っ込まれた気さえしてくる状態だ。なにもされていないのに消耗が激しくなる。それでも!


  「所詮アンタは俺達の練習相手だ!!」


 そう、所詮はアンタは過去の映像で、吹けば飛ばせる蜃気楼、アルヴァが用意した噛ませ犬。そう言い捨てる。そうではないのは自分たちがよく知っているのだが、それでも相手ではないのだと強く吼える。


  「くくく、ならば私を、凌駕して見せろ!!」


 そうか、そうかと笑いながら俺の言葉に笑いながらも負けはしないのだと確固たる意志を持っていた。ただ強く、まるで山と相対しているかのように錯覚させる声で言い放つ、本当に本気だな。


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