木龍顕現 悪魔招来
「命よ今、力に変われ、ウッド・ドラゴンよ 今、雷を統べ地を疾走しろ!」
果てなく鳴り響く雷雲の音と、周囲のモノがもしあったならば吹き飛ばされていただろう雄叫びが無明の空間に響き渡る。俺の呼び声に応え、雷雲を纏った木で出来た角を持つ青色の龍が召喚された。
五行の内、龍の属性を持つ力を具現する。エニグマが召喚できた以上、できるとは思っていたがなんかやけにくっきりしている。
「ほぉ、懐かしい空気を纏ったドラゴンの神か」
ボロボロになった利き手を庇いながらも、余裕の表情で俺が剣に力を纏わせた龍を見ている。俺自身、ここまではっきりと力を借りている存在のパワーイメージが見えるこの状態におっかなびっくりではあるが……
「それでも、驚いている暇はないよっな!!」
無明の世界にさえ光が包み込む、火花は散り音が裂ける。疾走するそれは、余波でさえ目にも止まらぬ速さで動きまわった。
放つは雷、纏い進む速度は雷速。遠距離と超高速の接近戦の二段構え、音をも超える一撃は凡夫であればその放った雷だけで千人は殺せる一撃だった。それでも
「何故その技を選択したかは知らないけど選択自体は見事だよ!!」
賞賛は受け取る。わざわざ言わないがアンタが言った事だ。自分は第四・天魔・統括する『大地』の魔王だと。それならば多分、五行になぞらえれば土に属するはず、なので多分木行の属性が弱点になると踏んでいた。
「そして、本来のこの世界の七属性からも雷・聖・魔は他、四属性を上回ります」
テレザも未だタイミングを見計らい、補助魔術の準備をしている段階だが、きちんとこちらを見て勝機があると判断したが故に、言葉を挟む。
事実、現在の父さんは、ボロボロに加えて自身の弱点の属性の攻撃を受ける為か、余裕がないように思える。何とか片手をこちらに出すだけで精一杯のように見えた。
この時点では
ボロボロになった右手をかざす。それだけなら、ただ右手を犠牲にして何らかの手段で助かろうとしているように見える。当然そんなものは俺の都合のいい楽観視な訳で、
「天意よ・奇跡を我に・今かざし塞ぐ物として・紡ぎ守れ」
その瞬間、まるで別世界でも手をかざされた所と自分の間に出来たような錯覚が起る。
いや、錯覚じゃないこれは!!
自分と相手との間に急にできた分厚い壁、それは壊せるようなものと言うよりは、もし突破できても延々と距離と言うモノが詰められない異空間である事が直感で理解できる。
「往生際が悪い!」
それでも、光速に近い雷速で動く自分には踏破出来るものであると思い、直進する。
「まだ私の退場時期じゃあないだろう?」
確かに相手側の攻撃手段を一切見せていないのだから、これが娯楽ものの作品内だったら確かに、退場時期では無いのかも知れない。
だが、六歳くらいの方との戦いで本格的にアクセル入らせると一方的に押される戦いになる事は痛いほど知っている訳で、そんなセオリーは正直、現実に持ち込まないでほしいと節に願ってしまう。
雷の如き速度で結界を突破しても、無限につづくとさえ思える異界の広さに疲労がたまる。視界に映る距離感だとすぐ目の前なのに、進めど、進めど近づけないこれには脳が歪に動き出してしまいそうにさえなっている。
「無限につづく至近距離だ。楽しんでもらおう」
「レイ!!」
父さんはそう言いながら、自分の回復に努めるかのようにあいてる方の手で、怪我の回復に努めていく。本来なら自分の例や、そして魔族が高速で回復する事から考えて回復はもうすんでいるべきであった。
実際、他の部位はある程度回復してきたが、流石に、利き手で庇っていた為、一番原型を留めていなかった。その為、ぐしゃぐしゃだった右手は回復に時間が掛かるようである。
当たれば必殺、であるのに、身近にいるのに、無限に距離が広がって行く感覚。閉ざされた空間はまるで自分が本の一ページになってしまったかのように綴じ込まれていく。
不用意に動けば俺と同じ目に合う、そして光速に匹敵する速度に動ける現在の俺とは違い、そんな空間に綴じ込まれたならば、一部の可能性も無く脱出する事が出来ない。俺の状況を観察するしかない周囲は、それでもどうにかするように各々の最善を尽そうとする。そんな中、玖珂が俺の状況を見てポツリとつぶやく。
「……思考実験・テルの矢は林檎に届かない。いや、アルキメデスのウサギとカメの法則? いや、法則はどうでも良い、要は空間さえどうにかできれば、エニグマ、私を救った時の!!」
その言葉に、未だ回復しきれていないエニグマは横たわりながらも、ズボンの収納スペースからカードを出す。
まだ上手く体が動かせないらしく、何度もカードの収納スペースの縁を触り、つっかえさせながらもなんとか
「やれるかどうかわかんないけど……どうすればいい?」
エニグマは何とか取り出したカードを見ながら、玖珂にどのようにすれば良いのか尋ねている。
「多分、経過を歪ませて無限に何かが差し込まれている空間なんだと思う。それを正すか、飛ばせば!」
「分かったやってみよう! 領界を渡り、光を逃れしものよ……」
話はある程度こちらの耳に入っている。その様子であると、どうやら俺はこのままだと何とか助かるようで有り、当然それは父さんだってわかっている。しかしそれでも、父さんには攻性魔法は使えない為、身体もボロボロの現在、遠距離を攻撃する手段も無い。
故に、ある程度余裕を持って俺達は戦えていたわけなのだが
「そろそろ……」
「へ?」
無限にページが差し込まれていく世界の中で、俺ついついマヌケな言葉を漏らしてしまう。
周囲の魔力が桁違いに膨張して、羽のような閃光となって目の前の男を包み込んでいる。それは柔らかな魔力により編まれた慈光。それにして敵対者には拒絶の意を示す頑強な壁である。
(それ、反則だと思うよ?)
のんびりとしているが、強く詰問する口調で父さんを見るアルヴァ、そして
「……源世神化」
父さんは光の繭となり天へと昇って行く。この様な状況下でもこちらの結界は途切れない。
「噂には聞いた事があります。戦争が多かったが故に起こった。ただ二人のみのチキュウ人に降り注いだ忌まわしき奇跡。当代の人間がチキュウ人を忌避し、神聖視する最大の理由」
玖珂が震えながらつぶやいた言葉、補足するように語りだしたテレザ。何も言わず、カードに力を込めて行動するエニグマ、各々行動こそ違うものの、多分、根底にあるものは一緒だろう。
俺だってそうだ。
それは恐怖
「本気で戦った方が良さそうだ!!」
喋った途端に世界がめくれ上がった感覚が生まれる。光が父さんを中心から隅々まで波及し、先ほどまで違い、白一色の世界に塗り替わっている。
このままだと不味い!!
「させないよ!! ルクスフォグレ! 過程を飛ばし彼の者を敵対者の前に!!」
上空の父の元へ行く前に、色々確認しておきたいのだが目の前に、禍々しい漆黒と赤の入り混じる手が俺の前に現れる。中央の指に目にベルトをしてある顔がとてもホラーだがそれでも信じて無抵抗であるしかない。
指が身体を握りこんでくる。するとまるで、車でアスファルトの地面を引きずられたように身体が削られていくような感覚に陥るもののジット耐えて、目の前を向き続ける。
瞬間、俺は光の繭の前に飛ばされた。




