召喚できるもの
「ほぉ」
そんな攻防の中、父さんの武器は粉々に砕け散り消えてなくなる。相手は完全なピンチである。にもかかわらず、言葉は感嘆の様相しか表していなかった。
「来い、忌まわしき聖神の槍」
こうまでしても、父さんは余裕だ。そんな事、百も承知とエニグマは武器の無くなった父さんにも油断はせずに更に槍を召喚して投げつける。
(アレ、あったんだ)
アルヴァと父さんが何やら奇妙な表情で槍を見つめている。そんな様子の中召喚された槍がエニグマの指示も待たず勝手に動き出した。
「行け、お前が求め焦がれるモノの胸へ」
それは殺意と怨嗟のこもった一撃。槍は一筋の流星となって目の前の者に対して突き進む。それは光速に匹敵する速度、無手でなくても本来なら父さんは倒されているし、そうでなくても致命傷のはず。そう思わせる一撃だった。
しかし、
「光輝収斂、刀剣構成!」
身を引いた父さんはボロボロになった刀剣を分解して光に変換して別の武器に作り直していた。その間二・三秒、それは短剣なので多分、スピード重視の戦い方になるだろう。槍が最高速になる前に作られたそれで、父さんは迷わず迎撃をする。
「これで倒せるとは思っていなかったけどね」
「これまで引っ張り出してくるとはな」
そう低い声で言った父さんは左手の短剣で槍を弾き、縦回転して真上に登って行く槍を右手でキャッチする。
なんだ? やけにじーっと槍を見ている。それは間違いなく隙だ。であるはずなのに俺達は動けない。静かにだけど確固たる何かが立ち上る父さんの気配に俺達が動けずにいるのだ。その瞬間だけ、俺達ではなく別の何かに怒りと悲しみを向けているような気さえする。
俺達が動けなくても動けるモノがいた。それは、今まで地面に散らばっていた英霊の墓標たちである。歴戦の英雄の忘れ形見は、意思を持っているというにも関わらず、流石というべきか。父さんの気迫に呑まれずに皆一斉に隊列を組んで襲い掛かる。
剣が牽制、体勢を崩した所に槍が一斉に襲い掛かり、仕舞にと斧が降り注ぐ。
それは完璧な布陣だった。剣で視界を封じ、点の攻撃になるため他の連携の邪魔にならない槍が隙間から攻撃する。そして最後に最大の威力をのせ易い斧がとどめの一撃を加える。ある事さえ考慮に入れなければ……
「邪魔だ」
短剣ではなく、握っていた聖愴で薙ぎ払う。顔を伏せ、ただの一薙ぎで迫りくる一騎当千の武器群を全て残骸にかえる。その威力は俺達にとって驚くべきことだったが、その後の行動もまた意外と言えば意外だった。
その後、槍を見ると同時に握りつぶす。それには、どんな思いを込められていたのだろうか? 俺には分からない。今言える事は槍が敵の手に渡らなかった事と、どうやって手に武器出しているかわかった事だ。
魔力を何かに変換した後、それを武器の形に再構成しているらしい。
最初は槍と共に駆けて追撃をする予定で戦況を見守っていた。しかし、短剣を握り直して、こちらの様子を伺い始めた父さんを前に、その目論見も音を立てて崩れ去って行くようだった。
今、攻撃しても間違いなく反撃される。その為、現在は様子見をするしかない。のだが、急に父さんは手に持った武器を見てその後、空中をまさぐっている。
手が消えたり、現れたりしているのはどういう事なのだろうか? 疑問に思えども答えは出ない。今がチャンスっぽく見えるが正直一切短剣を握っている方の手はぶれてすらいないのでカウンターでこちらがきつくなる事は確定事項と言えるだろう。
しかし、先ほどからの奇妙な行動には疑問が尽きず、事情を知ってそうなアルヴァとエニグマは何か目を細め、ああ……とでも言いたげな表情をしている。エニグマは特に、なるほど好機か? とぼそりと呟いている。
「アルヴァ、さっきから気になっているんだけど」
(何、ナナセ?)
「私の武器、何処だい?」
とうとう謎行為の事情が説明された。どうやら武器を多分、呼び出していたらしい。何度呼び出しても来ないらしく、とうとう痺れを切らして、審判アルヴァに苦情を入れた。
(お前の武器はこの世界に存在しない為、再現できません。残念だったね)
「いちいち自分で作って戦うしかないのか……」
とりあえず、何故、自分たちの服や装備がこの世界にあるのかという理屈は理解できた。つまり現実世界の方に現存さえしていればこの世界で再生できるらしい。
「なるほど、つまり私の装備は基本全部Aが全て持っている訳なんだね」
「そうみたいだねぇ」
父さんの嘆息に、にやにやと獲物をいたぶるかのような笑みで返すエニグマ。互いに臨戦態勢だが基本的に軽口のたたき合いをしている。本当に中良いな、おい。
(良いハンデだと思うけど?)
「ああ、仕方ない。武器は自分で作るとしよう」
片手を顔に当てて首を振る。二・三発で砕ける武器を眺め嘆息していたはずの父さんがアルヴァのその一言でこちらを眺め若干生意気そうな笑みを晒す。
「一応、アイツ本来の適正は……アブなっ!」
「それは後でのお楽しみと行こうか!」
その様子を眺め、何か言いたげだったエニグマに軽くジャブでも打つ感覚で高速の二連撃を放たれる。今までの攻撃と比べれば、きっちり姿の輪郭を捉えられる比較的、遅い攻撃。それでも逃げ切れぬその速度は先ほどの感覚と軽く矛盾するが、明確な命を止めるという意思を込められていた。
いや、矛盾しない。要は、この程度の攻撃で死ぬのならば戦う資格などないのだと、言外に告げた攻撃であっただけだ。
「上手いな」
「僕の元へ来い! 白銀の翼バーメイル!!」
父さんは軽く棒読みで称賛の声をあげた。その攻撃は心臓目掛けて放たれる。しかし、エニグマはその連続攻撃を装備の防御力を信頼し、あえて受け止めた。
そしてその時できた隙に召喚術を『自分目掛けて』放つ、現れるは鋼の翼を持つ鳥、ギョエエーと特徴的な泣き声をあげて召喚主ごと敵を討つ。
「インパクトの強い急所をわざと外させ、その隙に長期戦になると不利になる部位を欠損させるのは君の得意技だったろう?」
「くっ、装備の防御頼みの自爆戦術も懐かしいな」
右手自分の背後に迫りくる鋼の鳥に父さんは咄嗟に利き手であろう右手で払おうとする。
「させないよ」
「それでも!!」
父さんの払おうとした右手に、エニグマは抱きしめる事で妨害しようとする。それでももがきながらなんとか右手のみは自由にして鳥を抑える。
「ナイスタイミングで援護かな?」
片手で巨大な鳥の嘴を握り遠くへ投げようとしている所に、玖珂は追尾する方の銃で追撃する。
「ギョエエ!!」
「ちっ!!」
二兎追う事で背負う傷がある事を判断でもしたのか、鳥を適当に投げ捨てて銃弾を払う。
「ギョッ!」
当然、鳥も投げ飛ばされ地面に叩きつけられたものの、その隙を逃すはずもない。主人とその仲間が作った隙を最大限に活かし、空を翔る。
「ギョヨオオ!!」
「なっ、ぐ!!」
エニグマの試作量産型・神衣壱式は、特に魔法への防御が並ぶものが存在しない。そして、物理攻撃への防備も一級品だ。その為、エニグマは攻撃をわざと受け、更に自分目掛けて召喚術を放つという自爆攻撃を行う事が可能だった。
鳥は父さんとエニグマを貫くと、それで役目を終えたという様に光り輝き消滅する。それでも大分ボロボロだがそれでも、ようやく決定打を与える事が出来た。
「っッ防具も持ってこれないと案外キツイものだな」
「すまないが父さん! 畳み掛けさせてもらう!」
父さんの右手から血の代わりに光が漏れだし天へと昇って行く、手を押さえてそう呟いている父さんに、今が好機と判断し、俺は父さんのすぐ近くへと縮地で駆けた。




