蒼き創剣の担い手・黎
「戦の作法だ、改めて名乗ろう。魔王軍旗下、五冥将筆頭補佐。いや」
空気が変わる。
その中で、つい首を押さえてしまった。威圧感が増し、まるで抜身の刃が首筋に向けられているような感覚を覚える。
それだけ『真剣』という事なのだろう。それなのに途中で父さんの言葉は詰まる。ミスかと思ったが、それは途方もない覚悟の為に詰まったのだという事を次の言葉が教えてくれた。
「いや、魔王。そう、第四・天魔・統括する大地の魔王リクドウ=N=ナナセだ」
「……そうか」
言いなおした言葉に何の意味があるのかは分からない。ただ、その言葉を聞いた時、エニグマの表情が何処か思いつめたようなものに、変わった気がした。
「いや、そうだな。僕はエニグマ。今は、守護者・エニグマ」
その中で俺の視線に気づいたのか、こちらを振り向いた。その時何があったのか? すぐ、父さんに振り返りそう応える。その態度の変化に父さんも何かに気付いたのか、エニグマとこちらを見比べて微笑んでいる。なんというかやり難いものを感じる。
「……理合の探究者テレザ・キャスタニエです」
テレザもまた二つ名の様な物を名乗り始めた。かっこつけ? 中二病? そうではない事はこの空気で分かる。今までの時とは違う意味で流れる緊張は、大切な行事に赴くときの緊張だ。
となると、テレザ達がどの様な法則で名前の前に何らかのものを名乗っているのかが分からない。だが、この戦いでは名乗らねばならない空気だし、そうでなくても、名乗らなくてはいけないような気もする。
「多分、私は界の眼・玖珂・ユミってとこだね。ヨロシク!」
悩んでいる俺を後目に玖珂は何かに気付いたのか言葉を発する。ふざけた物言いではあるものの不思議と間違いではないように思う。とうとう俺の番となったわけで。
なんと答えればいいのか分からない。悩む、身に生き方に名乗るべきものがない。ただ、その悩みさえ一瞬だった。
なんだ?
何時の間にか握っていた腰に佩いている剣から、力と意思を感じる。
その剣の意思の方に向き直るとこちらを見ていた。蒼い瞳でこちらをじーっと見ている。何時もなら感情は読み取れないハズのその瞳は、まるで、私を忘れるなと告げるかのようなである。
そんな珍しい執着と感情の発露に不思議と口がほころぶ。余分にかかっていた力が抜ける。息をすい、息を吐く。
皆がじっと、敵対すべきモノから目をそらさずにいる中で、最後の名乗りを俺は上げる。
「俺の名前はリクドウ・レイ。いや、蒼き創剣の担い手・黎だ!」
ここに改めて、俺は生まれ直したような感覚がある。そして強く剣と繋がる感覚、認められたのか、あるいは魅入られてしまったのか。ただ、名乗りを上げた時の皆の顔は、特徴的なものがあったように思う。
特に、驚いたような父さんと何か満足げなアルヴァは特徴的な顔をしていた。苦虫でも噛み潰したように何か言いたげなエニグマも特徴的だったが……
「それでは」
名乗りも終わり、玖珂が力強く始まりの言葉をあげる。その瞬間、皆、急にどうしたという顔もしたが意図を察し、相手に向けていた視線に力を込める。
「いざ!」
それに続くかのようにエニグマが声をあげ、互いに意識を戦いに向け、高めていく。
「尋常に」
テレザも習う様に続ける。その中で戦闘の為に位置取りをする。
「勝負」
そして何処か面白いと笑みをあげながら父さんが声をあげ、皆が戦いの構えをする。
場、心、体、ここにすべての準備が終わる。今や欠けたるものは無く、全てが満ち足りている。敵は未知数。俺達にとっては過去最大の敵である。
それでも、失うものは何もないそれならば、挑む事も恐怖は無く、ならば必然戦いへの忌避感も又なくなる。
接続
最初は魂の奥底から力引き出す。
霊器機関起動
右の剣に意識を込めて繋がる。
「しよぉかぁあッ!」
そして最後、俺の掛け声とともに、戦いの幕は上がった
何もない暗闇の中でまるで恒星の如く光は瞬く。虚数空間に近いこの世界では確かなものなどなく、足場は概念である為、周囲の共通認識で作られる。故に、基本的には相手との距離には障害物や坂などなく、まっ平らだ。
だからこそ、速度の速い方が勝つのだが、
「どうした? まだまだギア上げていくぞ!」
「レイさんこちらも大規模強化術式まで時間をかけます! 頼みました!」
「出来る限り、早めに、頼む!」
「そっちが面白い事したらこっちも面白いことするよ」
「真面目にやれ」
ツッコミができない状態だった為。とある人の素敵台詞にツッコミがあるのは大変助かった。
あちらの速度は百を上限として最低九十八、それに比べてこの中で一番早い状態になっている俺でも八十二くらいであると考えられ、こちら以上ときている。俺と父さんの間には、少しでも油断をしていると死ぬ状態の攻防が先ほどから行われている。
というかさっきまで無手だったよな? 俺の剣に硬い刃物のようなものが触れたわけだが……
「これだとやっぱり俺の行動について来れないな……」
そう言いながら父さんはボロボロになった光り輝く刀を見る。たった二・三発の攻撃でもこの攻防について行けないのか、刀剣は見る影もない姿となっている。
なんであれ、武器は無くなった状態に近い。今が、攻撃のチャンスだ! そう思い、俺は父さんに接近する。現在、先ほどまで接近戦をしていた為、後ろに退いたとはいえ、それほど距離を遠くない。
「攻めさせてもらう! 縮地・縁が崩し、剣翼炎鳥!」
縮地を使い距離を詰め、剣を羽に見立ててツバサで打つように相手に叩きつける。剣に炎を一瞬で纏わせる。当然、相手もまた、その一撃をボロボロとなった剣を振りかぶり防ぐ。
刹那、剣と剣が交差した。その瞬間炎は爆炎へと変わり、敵対者の身を包みこむ。それは、本来なら敵を焼き尽くす地獄の業火にさえ思えるほどの一撃だった。しかし
「私に炎は聞かないよ」
当然、この父さんも炎への絶対耐性を持っている。この爆炎でさえ視界を防ぎ、剣を壊す、程度の役にしかたっていない。
「まぁ後は私の一撃と」
「僕の一撃でね?」
剣がボロボロになった段階で俺はある程度、距離を更に縮地と爆炎の衝撃を使い、放す。そして元々予定していたエニグマと玖珂の援護をする。
「黙っていたと思ったら……やるな」
「静かな方が好きだったろ? 君は」
エニグマは、空に上がり手をかざす。今までの戦闘では接近戦をしている俺を巻き込むためできなかった中位召喚術を使い、剣や槍などを召喚する。
「これは……英霊の墓標か」
意思を持つかのように、違う。確実に意思があり、魂が込められた武器が悪意や敵意、挑戦心のままに動き回り父さんを襲っている。それはまるで、実際に剣を振り回している者がいるかのような動きで、視界が炎に包まれたままの父さんでは、防ぎ辛いような技の応酬である。
(なるほど、この世界の残滓を利用しょうかんしたのか)
アルヴァの感想に無言だが、父さんの反応などからその様である。詳細は分からないが英霊の墓標と言う名前からして魂を使う何某かの技の様だ。
剣や槍そして斧などが舞いながら戦い、意思が存在する事から、エニグマ自身も完全にはコントロールはできない技のようだ。
しかしそれでも、その攻撃は激しく綺麗だった。
「わぁお! 派手だねー……こっちも大きいの行くかな!」
そう言って玖珂は後方から右手の銃に合わせる様に左手の銃も発射する。武器の合間を縫って小回りの利く弾丸が急所を、威力の高い銃弾が武器の威力をあげる様に爆発する。それさえも余裕と言ったようで防ぎきる。しかし、武器にはどんどん疲労が蓄積しているようである。




