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決死の覚悟と不本意な結末

  その瞬間炎を纏った銃弾が片手で握られていた剣へとぶつかりさらに威力を落とす。グラついた剣は一時期的に標的への締め付けが弱まった。その瞬間、すかさずエニグマは近づきこちらの身体に触れて上空に転移をする。


  「今だ振りぬけ!」


正直、俺が集約できる火気でこの金気に克ことは不可能だと感じた。弱点で攻めても真正面からでは絶対に勝てないだろう。


 それでも手段ならある!!


 記憶をたどる際、手に入れた他の四つの情報とエニグマに教えて貰っていた召喚術これを合わせれば、


 剣に意思を集中させる。呼び出すのは相手に打ち勝つ力ではなくて!!


 四神の中央に座る五神、土気司る龍の皇の力を借りて放つ召喚剣を父さんの剣に向けて放つ。


  「相生、土生金を逆巻け龍黄撃(オーバー・グラビティ)!」


 刀身を中心に逆巻き乱れる重力の渦に気分が悪くなる。それを制御し、ただ一方に父の元に降り注ぐように制御する。


  「この程度!!」 


 上と下が逆転する。本来ならこちらの一撃が通って終わりの振り降ろしだったはずだが、タイミングを合わせる際に事前に振り降ろせとエニグマが言っていた事、締め付けが緩んだことと片手であった事が災いした。

 こちらが振り降ろすであろう角度に、もう片方の手を使い、緩んだ反動を使い斬り上げる。超常的なタイミングと反応速度そして技術だった。


  「あらゆる意味で超人的だな!!」


  「すまない。離れる」


 短距離転移でくっ付いていたエニグマが体勢も気にせずすぐさま離れる。近くにいても邪魔なので仕方ないのだが反応がいいな。


  「愚かな、金気を生み出す土気では何も影響を与えない!」


  「それはどうかな」


 そう、本来なら土気はむしろ金気を生み出すが故に相手を助けることになってしまう。


  「なッツ!」


 だが、それは本来ならだ。ここまで集約されてしまった金気はもはや周囲には残っていない。いや、金気を生み出す土気ですらこの一撃分くらいしか残っていないだろう。しかしそれでいい。火気で減らした金気は土気を呼び水として更に周囲から金気を取ろうとして『集約を解き、四方に散ろう』としてしまう。



  「土より金属を取りすぎれば土は涸れ金属も生じないある意味酸欠状態って訳だよ!!」


  「事前に火気で金気を削いでたのもこの為か!!」


 その為、どうしても魔力の結合が弱まり威力の低下が起こる。


 「堕ちろォ!!」


 「消し飛べぇ!!」


 剣同士の威力がぶつかり周囲に力が響き渡る。上と下の入れ替わった剣戟、勝者は光と衝撃の果てに決まった。


  「まさか、ハぁハぁ、ここまで追い詰められるとは……」


 事前予定通り、ナナセだった。


 腕から流れる血はとは別に焼け焦げた跡が目立つ左腕。痛々しいとしか言えないその腕はただ彼ナナセのみ見れば敗北したのは彼だと判断してしまうだろう。


 そう、この惨状さえ目をつぶれば


 大地まるで隕石でも降ったかのように抉れている。当然雪などこの周辺に残ってなどいない。本来なら周辺の建物も無くなっているべきではあるのだがその辺は『元々張っておいた五行結界』で守られていた。


 少年は周囲を見る。そこにはボロボロになって動けない三人の人間がそれでも戦うのだという視線を自分に向けている。一番爆心地の近くにいた年上の息子は明らかに意識も曖昧で身体は炭素生命と言うかほとんだ炭にしか見えないにもかかわらず剣を杖にしようとして立ち上がろうとしていた。


 身体からボロボロとで聞こえるかのような状況だ。正直、見ているだけでも痛々しい。


  「動かない方が良いよ黎。君の身体、ボロボロこぼれてるし色んなものが」


  正直、私服に近い服装での戦闘だったというのも災いしている。そのせいで本来、三人の中で一番遠くにいたはずの玖珂も二番目にダメージが多い。


  「フム、剣が無事ってのもなんだかんだで凄いけどね」


 息子の調子を見る過程で何故か目が彼の持っていた弐本剣に向かった。肉体がボロボロなのに全然、刃こぼれしていない『弐本の剣』に対してどうしても目が行く。特にこの戦いで一切抜かなかった腰に佩いた剣については気になった。調べようとレイに近づいた時、それより少し後方の人間が動いたので思わずそちらに目が向く。


  「ナナセ……まだ負け……わけじ あ」


 息も途切れ途切れ、さっきから立って倒れてを繰り返しているのは彼にとってかつての旧友だった存在だ。


  「エニグマ、君も休め。私は左腕がボロボロになった程度だが君たちはそもそも立っているのもやっとだろう」


  「本気……なっ 君……どん 非道でも行うだろう」


  「かもな、でも君の所も仲間が一人無事だろう?」


 先ほどからこちらに向けて何か魔法を放とうとしている気配を感じる。多分こちらが攻撃した時にあちらも攻撃してくるだろう。さっきから彼に敵意がチリチリ肌に刺さっている。


  「それに厄介な物もあるみたいだしな」


 彼はレイの方向を向き、明滅を繰り返す物体に目を向ける。自身に匹敵ないし凌駕する魔力量を誇るその物体は武器であるはずなのに意思を持っているように思える。


  「エニグマ」


  「な だよっ」


 彼は神妙な顔でエニグマに向き直る。それは静かな威圧感を伴って周囲に伝播した。その威圧感はこの言葉を聞き逃してはならぬとでも言うかの如く、この場の誰しもがその言葉を聞いていただろう。


  「息子に伝えておいてくれ。自分より強大な物に安易に縋るなって、きっと色んなものを失う」


  「おぃ、そ……はど い 意mだ」


その目は本当に心配そうにレイを見ていた。そして不審気味な目で蒼い剣を見ていた。


  「それは自分で見つけろ。威力偵察も終わったし私は帰る。……その前に」


  「何 す……気だ?」


 帰ろうとした時ふと何かを思い出したようにレイ達の方に振り向き手を向ける。エニグマ達はそれを攻撃と取ったのかすぐさま反撃に映ろうとしたのだが。


 動けない、あらゆる部分が物理的に削られた身体がその様な機能を持ってはいない。何とか機能を有しているエニグマと玖珂は立ち上がろうとしても相手の行動には間に合わない。当然それは後方にいるテレザもそもそも人間的な生命活動をしている事奇跡的なレイも当然間に合わなかった。それが攻撃であったなら。


  「大地の活力よ我が魔力を捧ぐ、願わくばこの場に生きとし生けるものに祝福を」


 本来、ナナセの『魔法技能』は呪文を必要としないレベルで極まっている。それをわざわざ唱えるという事がどういう事かこの場にいる全ての生き物が知る事となる。


  『世界の祈りガイア・プレイヤー』


その瞬間、抵抗の隙も無くナナセの手のひらから放たれた緑光の輝きに満たされる。


 『世界の祈り』は星に魔力を捧げその代償として周囲に力の補強をして貰う最高位の『強化魔法』それは、身体のみならず周囲の環境にさえも作用し最適な形に整え大地の活力で魔力や身体能力を向上させる。


 その為、副次的に回復魔法の様な効果も得られる魔法な訳なのだが、本来それは副次的な回復であり、見えなくなった目を見える様にしたり、腕の怪我を治したりするものである。流石に無くなった腕を生やしたり、顔から消えた物体αを元の有るべき位置に戻したりするものではない。


  「これは……どういう事だ。父さん!!」


  「アレ? レイ、ナナセ!!」


 そう、本来なら肉体を失った者や抉れた地面を『復元』するものではないのだ。


  「とりま、私自身のケツふきだけど?それではさようなら」



 なのに、彼のその魔法は全てに作用してこの周辺の人間や環境を戦う前よりも良い状態で『修復』してしまった。先ほどまで人間とは言えなかったレイの身体は完全な形で戻っている。より可笑しいのはその衣服でさえ完璧に『治す』その魔法の干渉力だろう。その魔法へ驚愕しているうちに隙を突かれナナセには転移で遥か彼方に逃げられてしまう。


  「いや、撤退してもらったというべきかな?」


 二番目にダメージの大きかった少女はそう口に出す。悔しそうな、悲しそうな複雑な感情を秘めた表情は誰にも見せない。次、顔を他の人に合わせた時は何時もの表情で笑いあえるように、せめて口調だけでも整えて一人ごちる。この魔法を元々自分にのみかける様にしていただけでも結果は違っていたのだから。ほとんど全てが修復されまっ平らな地面に雪がポツポツと降り注ぐ。


  「……くそ。ちくしょおお!!!」


 響く少年の怒号はふがいない自分に対してか、それとも敵対した父親に対してか? その奥でどちらにも属せぬ精霊が何も言わずに友が転移したであろう方向に目を向けている。


 今もなお降る雪は、まるで彼らのどうしようもならない感情を映しているかのようだった。

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