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故郷の地に思い馳せる

 まぁ、とてもいい店だったよ。しかしあの店、どこか懐かしい感じの店だったな。


  「レイ君気づいてる? あの店ラーメンが置いてあったんだよ」


  「それが、なんなんだ……あ、ああ。そうか」


 頭を掻きながら自身が異世界にいる事を忘れていたことを思い出す。


 そうか忘れていた。ラーメンはチキュウの料理だ。似たような料理が多くて忘れがちになるがあれほどそっくりな物を忘れていたとは……


  「まぁ、料理が私達レイ・ユミとまれにエニグマの持ち回りの時どうしてもチキュウに似てるから余り食っていないようには感じなかったけど、ここでチキュウのそれもヤマトが由来でもある料理は珍しい」


 その為ついついあの料理店で『俺から』逃げてる最中に寄ってしまったのだという。ポロッとこぼしたその言葉にやはり逃げていたのかとは思う。だが同時になぜ逃げていたのか? と言う疑問も最近は湧いてきた。 初めて会った時からどこか調子の外れた奴ではあった。だけれども、最近ではその行動の全てに意味があるように思えてくる。


 今もなお、日が傾き始めたこの状況で玖珂の顔が曇っているように感じる。顔の変化こそ微細だがこの国に来てから本当にそのように感じるのだ。


  「チキュウか、ラーメンを伝えた人は何を思って、この世界でラーメンを作ったんだろう……」


  「分からん、ただ俺達では想像できない苦労もあったんだろうな」



 その疑問は多分、玖珂にとって重要な疑問なのだろう。


 答えてやりたい気もする。しかし、俺にそれは分からなかった。ただ、分かるのは俺たち以外にも普通にチキュウ人がいた形跡があったという事。その人にはどんな人生があってどんな選択をしたんだろう。その事を考えると少々気になる。取り敢えず合流まで時間があるのでテキトーにぶらつきながら考える。


 このような場所でラーメンの材料を集めるなんて並大抵の苦労ではあるまい。異世界で雪国なのだ俺達では思いもつかない労力があったはずだ。俺達もそのように真剣に自分の人生について考える事が出来るだろうか?


 足取りも少々重くなり、顔も俯き気味になる。玖珂はそんな俺に何か思う事でもあるのかじーっと見つめているような気がする。振り返るとうっすらと笑いこちらの前に走り出した。


  「おい、コケるぞ」


  「ねぇ、レイ君。君が気になってそうな事に対するヒント、上げようか?」


  前に踏み出し華を咲かすように回転してこちらに向き直る。その表情には憂いとこちらに対する悪戯心があるのだと思うそんな表情だ。だから俺も下手な事は言えず、相手の行動を吟味した。


  「俺の聞きたい事のヒントとは?」


  「あの店での話、この世界に正規の方法で来る人の話。君と貴方との違い。私が、君を気に入って惹かれた訳そんな話のヒントだよ」


 今までとは違う優しい声で、凛とした姿勢で、何処か物悲しさを称えた表情で、言葉を口にする。いったい何があるというのだろうか。今はただ、夕日になりかけていないこの青空と光を反射する白日のキャンパスで彼女のその姿を真剣に見つめる事しかできなかった。


  「レイ君は人は例外なく『当初は』望み望まれて存在しているかもしれない。そう考えた事はある?」


 いきなりそう呟いてきた。なんだろうかどこかで聞いた事がある。


  「マザー・テレサか?」


 確かそんな人の言葉に近いような気もする。しかしどうやら違ったようで嘲笑を交えた苦笑いでこちらを見てくる。


  「全然、違うよ。それしかも子供だったはずだしね」


 確かにそうだった。


  「召喚と言うのはね『招き』『喚ぶ』と書くんだよサモンとかではなく私たちの言語で私たちの頭にそう訳されている以上、それには意味があるはずだよね?」


 召喚に付属する言語の翻訳は、該当する言葉が無い場合は似た意味合いの言葉で翻訳されたりもするらしい。これは書物の文字をエニグマと学んでいる時に解ったことだ。


 玖珂が続け様にそう言葉を投げかけてくる。連投し、こちらを振り向くその姿はきっと何か気づいてほしい事があるのだろう。


  「意味ね、招き喚ぶ……招く? 喚ぶ? ん?……」


  「うん、誰しも逃避願望や新天地願望がある。別天地への希望か、今ある場所への絶望かは別としてね?」


   「しかし、仮にそうだとしてそれならば一回につき、大体一人である事の理由にはならない」


 チキュウ人の召喚は、過去の大規模召喚以外、必ず決まって召喚一回につき一人だった。召喚される側が召喚されたいと願う事、もしもその程度で召喚されるのならばもっと召喚されている人数が多くなくてはならない。


  「まぁ、それだけではね。もう一つ、二つの条件がある」


  「ヒントじゃなかったのか?」


 喋りたそうにしている玖珂におどける様にあえて突っ込む。無粋だと分かっているが俺達にはこれでいいだろう。


 反応、ゆっくりとこちらに近づき頬を引っ張る玖珂、互いに無言なのは少々不気味だが、互いに瞳は真剣だ。数秒根負けしたかのように元の位置に戻りため息をつきながらこちらに向き直る。


 ああ、突っ込んだら負けだかから終始、無言だったわけね。確かにこの言葉に反応すれば延々と無意味な会話が続けられそうな気もする。真面目な状態だと大分知恵が回ると見える。玖珂の新たな一面を発見したような気がする。


  「無言の中でさえ見つかる情報があるか……」


  「つづけるよ。もう一つの条件と言うか、更なる条件と言うのは」


 俺がエニグマの言葉を回想している時、このままでは脱線すると分かったのか強引に話を戻す。言葉も珍しい方向に平淡である。


  「強く、異世界の存在認識している事……だよ」


  「異世界を認知出来るほどの超直観と異世界への逃避願望こそが私がこの世界に来た理由だよ」


 日の元と淡い雪が降り注ぐ幻想的なその光景は何処か玖珂を弱弱しく、そして今にも消えてしまいそうな感覚にさえ陥らせる。俺は黙って玖珂の言葉を聞く。


  「レイ君は、大和での生活はどうだった? 私は、嫌いだった」


  「別に普通だ。半ば高等遊民みたいなもんだったしな」


 なんというか、そんなに色々な事に焦っていなかった気がする。ゆっくり落ち着いていた。悪くいえば、空虚だった。絶望も希望も無い空虚、未知への希望も無ければ既知への諦観も感じないやる気のない生活ルーチンワーク。


  「うん、羨ましいよ。本当に」


 だが、それでも彼女にとっては羨ましいモノだったのだろう。とても羨望の目を向けていた。


  「私はね、今の行動からは分からないだろうけど、大和では品行方正でお嬢様学校に通っていたんだよ」


  「何をやっても一番で、銃の扱いでは右に出るモノなんていなかった」


 ……流石に黙って聞いていられなくなってきた。


  「自慢か?」


 首を横に振る。そして縦にも振りやがった。どっちだよ?


  「そうでもあるんだけどそうでもない。曖昧なんだよ自分でもね」


 自嘲気味に言うその言葉は何時もと違うように感じる。そして、ゆっくり顔を上げ天を見上げるその姿は遠くの地となってしまった地球へ思いを馳せているようにも見える。冷静に考えればいい所もいっぱいあったとこちらを見ながら言ってきた。


  「それでも思う。あの世界での人生は苦痛だった」


 品行方正を演じ、頼れる女性であることを演じ、自分と言う物をすり減らしていく毎日も、その中で浴びる羨望も嫉妬も等しく私を理解などしていない。鋭敏な感覚は常に自分が他人からどの様に見られているのかを教えてくれた。


 食べ物を選ぶこと一つすら勝手な思い込みで邪魔される。無視すればいいと思っていたが、実際に無視した時は何故か周りで煩わしくこそこそと話をされた事がある。


 銃の大会で優勝した時、それからは銃を台無しにされたりと言ったこともあった。それらの妨害を超えて優勝し続けても、今度は観客の中から結果が決まってる大会はつまらない等と言われ始めた。


 他にも家族からの身勝手な伝統などで行われる束縛、勝手に期待し決めてくる先生、人をつけまわしたり、見張ってる事に気づかない自称ファン。自分の判断でこちらに向かってくる者を遠ざける友達。やりたい事を家でも外でも行えない。ゲーセンや漫画だって買えやしない。買い食いなんて以ての外。


 言葉の羅列は苦痛の羅列。吐き捨てる言葉は文章にすらならず自身の自由を叫ぼうとレイに叩きつけられる。

ラーメン屋がある理由は地理上の上に何があるのか思い浮かべてくれれば分かりやすいかと

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