森を抜けて新たな町、衣服の町アリアトレス
「森を抜けるとそこは雪国だった」
「抜ける前から雪国ですよ」
その様な茶番劇から始まった今日の午前の出来事だった。玖珂の先導のもとなんとか森を脱出したのがかつての戦闘から一週間たった後の事だ。
「思いの外、森を抜けるのが早かったね」
「それに関しては本当に同感だな。ここ抜けるのに一か月近く掛かると言われた時は本当に野宿、辛そうだなと思ってたんだがな」
動物もあまり襲ってこず、本当に順調に進めた。
「私の珠のお肌を傷つける訳にはいかないので全力で案内した。さぁ目の前の町に行って風呂に入ろう!」
「目の前の町って何処にも町なんか見えませんけど……」
唐突に可笑しなことを言いだす玖珂、いつもと一緒なはずなのにどうしてもその言葉に引っ掛かりを覚えるのは何故なのだろうか?
「いや、待て。確か地図には……ああ、あったあった確かにここから先に行けば町があるね」
「いつも思ってたんだが本当にお前、何か隠してるだろう?」
人を感知する能力があるのは知っているがしかし、それ以外は知らない。間違いなく他にも色々隠してるだろうと思うが
「フィー♪知らなーい」
口笛を吹き、耳をふさぎながら進む玖珂に俺たちは各々思う事があるが進む。流石にこの寒空の下で俺達も野宿はしたくないからだ。
綺麗な青空の元、なんだかカントリーな雰囲気の木製の扉と石の城門に囲まれた静かな町に辿り着く。
「いらっしゃいませ。衣服の町アリアトレスにようこそ」
「何してるんですかユミさん……」
門の前で俺達を待っていたのは先行していた玖珂だった。パンフレットを片手に持ちながら棒読みのその言葉に色々と考えさせられるものがあるが、俺たちは無視して門の前の守衛に話しかける。
「ようこそアリアトレスへ 入城許可証を拝見させてください」
「入城許可証?」
「ああ、それなら僕が持っているよ。待っててくれ」
町なのに入城許可証とかなんなのだろう? そして城門も気になる。ただ、それを知らないのは俺だけのようでテレザはここが例の……とぶつぶつ言っており、玖珂は先ほどのパンフレットからある程度、情報を知っているようだ。まぁ、それも後で分かるだろう今は、エニグマの交渉を待ち物思いにふける。
「……ここには何があるのだろうか」
「おーい終わったよー」
「そうですか、皆さん行きましょう!」
途端に雰囲気が変わる玖珂がちょっと気になる。しかし、それもきっと何か分かるだろう。交渉を終えたエニグマがこちらに手を振るのでそちらに行く。この町にはいったい何が待っているのだろうか。
「城門と衣服の町アリアトレスだよね。ぶっちゃけ」
門の奥、町に入ると思いの外普通の町だった。ただ、それでもやはり主張する城門にはどうしても目がいく。何があるんだ?
「まぁ、ここも元々、古い王国の都市だったからね」
「そうなのか?」
エニグマはこの周辺の町の地図を確認しながら先導する。この町も百年以上前だと色々と変わっているようでやはりここでもマップを買いに行っていた。
「ええ、古き神を祀る雪国ブレスアリアの主要都市の一つだった町アリアトレスです」
「……なるほど、それでこんなに力が満ちているのか」
ここも色々あって戦争中に自治権を奪われ潰されたらしい。ただ、エリジアと違いここは自業自得らしい。
「古い神を祀る国だったんだけど当時の王が冬国の寒さなどや清貧に耐え切れずに祀っていた神を戦争の道具に使っちゃったんだよ」
「当初は神も自国の人間の現状には憂い手いたので戦争には協力的だったそうですよ?」
要は末期に人間同士の戦いが主な所で神を出張らせていた国がこの町の元となった国らしい。
「積極的に戦争に参加する祭神っていったいなんなんだよ……」
「大魔王も主神に等しいし、君たちチキュウ人も覚醒を果たせば神の様なものなんだから大差は無いんだけどね」
そう言えばそうだったな……つまりはそう言うのがわんさか出張り始めたのが大戦末期らしい。雑兵は大体、最初の俺レベルの強さで神は今の俺達では戦う事すら出来ない存在……地獄か何かか?
改めて、この世界の理不尽っぷりに考えさせられモノがある。強きもの以外生きる事さえできない。今までも散々感じて来たことだが昔は更にカオスだったようである。
「まぁ、という事で、戦争に神を戦争に出張らせたのは問題は無かった。問題なのはその後の対応」
神が戦争に参加していくうちに民達は驕って行った。自分たちは最強だ。今まで虐げられてきたから虐げて行っていいのだと。
「支配領域を広げていく毎に現地の住民を奴隷として虐げてきた。当初は神も勝者の権利として認めて行ったが時が経つほどにその民達の行いが目に余るようになって行ったと聞きます……」
テレザが顔を伏せながらそう口にする。歴史について詳しいのか澱みなくすらすらと答える。どこかに自分の知識を披露する事に対してのワクワクがあるのだろう。笑みが隠しきれていない。
「で、末期には神さえも道具として扱ってしまったので神に反旗を翻される。人間たちは奴隷にして言った者さえ動員して神に対抗していった」
パンフレットを見ながら話を玖珂が引き継いだ。何か思う所があるのか妙に神妙だ。
しかし、自分勝手な話だ。今まで散々頼っているくせに、いざ叱られたとなるといじめていた連中と一緒に被害者面か……人間の身勝手さについて色々考えさせられるものがある。
「その中で、その国の軍の最高幹部六人により神は討伐され、原因となった王は処刑。軍の頂点にして英雄たちのリーダーだった少年と国の姫が出奔して副リーダーが責任を取って皇国にこの国を明け渡して町になったというのが歴史っぽいね」
最高幹部が少年である事もそうだが、愛の逃避行とか自由すぎるだろう最高幹部!
ついでに城門があるのは神との戦争のころの名残りなのだという。昔はこの城門に魔力をかけ神の攻撃を防いでいたのだという。
話し終えた後、どこか遠い顔で都市を見回す玖珂、やはり何か感じるものがあるらしい。思えばこの町を最初に発見したのも玖珂だったな。
「なぁ玖珂、お前……」
その事を聞こうと思った時、俺は言葉を紡げなかった。珍しく真面目な玖珂の物憂げな表情に心を奪われたからだ。
何時もふざけている奴が真面目になっているから話しかけ辛い。というのもあるのだが、それ以上に見惚れたというのもある。その表情はこいつが元々絶世の美少女である事を思い出させてくれる。
「ん、何か言った?」
「あ、ああ、お前この町をどうやっ……いねぇ」
「おっちゃん肉いっちょう!」
「おうよ、肉お待ち! 嬢ちゃん良い食いっぷりだね」
「ふ、それほどでもない」
何時の間にか食料を見つけたのかそこに回って談笑してる玖珂がいる。熱々の肉汁たっぷりの豚らしき肉はここが雪国な事と俺たちが今まで碌な物を食ってこなかった事もあってとてもおいしそうだった。
「あ、そうだ。レイー、こっちで一緒に飯食わないー?」
「おっ嬢ちゃんの彼氏かい。ちょっと冴えないけど中々の面構えじゃないか」
「ふ、それほどでもない」
キリッとした顔でさっきと似たような事を口にする玖珂に呆れが込み上げてくるが突っ込んでも仕方がない。のだが、
「誰が彼氏か。あ、おっちゃん俺にも同じもの一つ後二つほど持ち帰れるか?」
つい、チョップを繰り出し黙らせる。こいつにどうもツッコミを誘発させる何かがあるような気がする。
「応よ、待ってろ兄ちゃん」
ついつい単独というか二人で別行動をとってしまった為、言い訳の材料としてお土産も買っておく。
「肉美味しーうめぇ、うめぇ」
「……はしたないぞ。玖珂」
「はは、食ってる姿も別嬪なのに口調で台無しだがそこまで言われると調理者冥利に尽きるってもんだぜ!」
食ってる姿は綺麗なのに口調と言うか擬音? が全てを台無しにしている。玖珂にツッコミを入れつつ俺はおっちゃん達と飯を食う。コレ遠目じゃわからんかったけど野菜付け合せもついているのな。
出された食べ物に舌鼓を打ちながら忘れていたことを思い出す。その過程で聞きたい事を聞きそびれてしまったが……まぁいい、後で聞けばいいか。
この時はそう思っていたし、今でも後悔はしていない。だが、この時聞いておけばきっともっと違う結末があったんだろうな。と未来の俺は思っていた。




