幕間3 Fall sun
それは音も無く忍び寄る影法師。敗北を糧に夜を翔る復讐者。『彼』は身体を癒す事を最優先し本国に帰る目途が着いた時、かつての屈辱を思い出していた。任務を全うできず味方を全て失ったあの日の出来事を。
目標であった黒髪の異世界の少女、二本の大剣を持った赤い髪の奇妙な少年、金髪にローブの魔法使い、あからさまに人間とは言い難い精霊種と思われる者。
自分達の任務を妨害した仲間の仇。自分勝手な事だと彼は自重するように布に隠れた口元を歪ませる。
「いう権利など一切ないが、これも仲間たちの仇だ。必ずやお前たちを倒し任務を遂行してみせる」
彼らは暗殺者闇に生きるものにとって任務こそが絶対であり、それを行うためならなんだって犠牲に出来る。だが、それは犠牲に出来るだけで気にしない訳でもない。暗殺者にだって、闇に生きるものにだって絆は間違いなく存在する。それ以上に任務の成功を優先しているだけで。
故に今はただ、すぐさま依頼主にこの情報を報告し、別命あるまで待機がベストな行動なのだ。できれば解任あるいは追撃の指令を頂けると幸いなのだが。
彼は身体の状態を確認する。あの戦いから二日、真っ当な医療機関や回復術も無かった為、万全の状態で動けるようになるまで二日掛かっていた。
最高速であれば影をも置き去りにして翔る彼にとって、最善に近い状態である今個人での行動ならば、三日あれば本国に着く。その後、報告すれば幾ら本国の対応が遅くても国に辿り着く前に向かい打てる形になるだろう。
そうなれば、相手は油断ないし、疲労がたまっているはずだ。例え自分一人でも勝機はある。
そう思った彼の身体には、必要以上に活力が湧いているようだ。木を背にしていた状態から真っ直ぐに立ち大地を踏みしめる。そして、待ちわびた夜。目立たぬように本国まで戻ろうとした時、微かに感じる魔力反応に気付く。
しかし、それは遅かったようだ。
彼の反応を楽しむが如く、その魔力の持ち主は彼の行動に合わせて魔力を出したり消したりしている。
「……」
彼は動かない、いやもはや動けないのだろう。何故ならそもそもその魔力反応を感じたのはさっきではあるが、その魔力を放っていた相手は自分に半歩しか劣らない程度には早い相手で尚且つ、気配を消すのが上手かった。
彼は詰んでいるのだ。どうしようもなく。隠れていた彼をどうやって見つけたのか、ここまで彼に気付かせずにどうやって接近してきたのかは分からない。だが間違いなく対象はすぐ近くにいる。
「なぁ、聞きたい事があるんだけど」
彼の視点から客観的にみると木が話しかけているように聞こえる。声の出し方すら工夫されている。奇妙な技だが追跡や逃亡に於いて音のする方向と言うのは重要なファクターである。その様な技巧の持ち主を相手にここまで接近されて逃げ切れるわけもない。
「俺も終わりか……」
その後の彼の行方を知る者は『彼女』と『彼』しか存在しない




