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足りないという話

  「ねぇ、一つ聞いていいかい?」


エニグマが頭を押さえながらそう呟く。その気持ちは俺もよくわかる。あからさまに俺にも関係も深そうな話がいくらか所ではないレベルで多かった。


 「なによ?」


エリーゼは分かりきってるけどわざわざ、聞きたい訳でもないのか。我、関せずと言った姿勢で立っている。目を離したすきに酒まで用意して飲んでいる始末である。


 「あらから様に今の僕たちに重要な話じゃないか?」


 マイペースが身上とでも言いたげなエニグマだが流石にこれには余裕が崩れがちになるのか若干言葉が鋭い。それに反してエリーゼの方はマイペースすぎるほどマイペースだ。


 「ああ、そういえばそうね」


 一升瓶を片手にレンガ造りの壁に寄りかかり耳をかきながらエリーゼはそう言った。


 その後、改めてグビグビと、オッサン臭く酒をあおっている姿には、グーを入れてあげたくなる気持ちに駆られてしまう。

 しかし、改めて彼女の言葉を吟味し、一つにこの剣が関わっていると知ると、俺がこの剣を抜いた事に対して本当に大変な事をしてしまったのだと感じてしまう。


 「まぁ、深く考えなくてもいいんじゃない?」


 顔を沈め、深くその事について考えていると思わぬ方向から助け舟が出される。顔を上げると意外な事にそれはエリーゼさんだった。


 「あんたがその剣を抜いた事なんてあまり今の情勢に関係ないわよ。あんたに関係があるとすれば。アンタのおじい様の別の孫がこの大陸の皇帝の可能性がある事と、あんたとアンタのお父さんが地球人だったって事ね」


 もっと落ち込んでしまうこと投げかけてくれるあたり、この人は励ます事とか苦手なんだろうなと思います。だけど、ぶっきらぼうながらこちらを思いやってくれてることだけは分かり大変ありがたかった。


 「まさか、彼らとあの国がそんなことになってるとはね……あの国に関しては人間が基本的な行政の管理者だから中枢にもうあの時の事覚えてる人なんていないだろうに……」


 エニグマは深く考えながらもそう呟いた。確かに、片方は知らないが国の方はある程度聞いている。もはや当事者の居ない伝説に今もなお、何故すがり続けるのだろうか。


 「伝説になったからこそ、というのもあるんじゃない? 他人から聞いた言葉や歴史なんて自分の悪口でもない限り、いい印象に残ったところしか覚えてないもんでしょ?」


 「それに、あそこは表だって差別こそしていないものの魔族にいい印象を持ってはいない。それこそ、いまだ差別主義の国以上にいい印象を持ってないわ。そんな国にとって今のご時勢はね……」


 ざっくりと彼の国の事情をエリーゼが切り捨てた。なんというか少々強引だが俺も概ねその意見には同意してしまう。それにすがれる神が実際いるのならば縋ってみたくなるのもわかる。


 「そうか、そういうものか……」対するエニグマはどこか悲しげだった。


 「まぁ、あんた達の気持ちもわかるけどね……」


 あんた『達』? 


 どうやら何かしらの話のようではあるが、所々で情報を共有していない為、話について行けなくなる。エニグマが思い悩んでしまっている。


 流石にエリーゼもしまったと思ったのか、気分転換も兼ねて他にもいろいろな事を教えてもらった。


 東の果ての地で同一人物が複数出現するだとか、砂漠地帯で失われた魔道の家の末裔が見つかっただとか色々な事を教えてもらった。その後、エリーゼさんの家で教わるべきことを大体、教わったので後日、この町で装備を整えて東北の国へ行きたいと考える。大分きな臭くなっているが逆に言えばそれだけ情報も集まっている事だろうとの話である。


 正直に考えれば、今かの国に行く事は愚策以外の何物でもない。ただ、この先俺が、ナナセの息子で地球人である俺がいることが、この国に新たな争乱を招いてしまうことは想像に難くない。その為、言い方は悪いが早期に地球に剣を持って帰らなくては行けなくなってしまったのだ。


 ただ、異世界に飛ばされただけかと思ったら、思いのほか面倒な事に巻き込まれてしまった。

 自分の存在が知られれば、話の中心になれる。そんな中で、争いを止められたならば英雄になれるとは思う。これでも、自分は人並みくらいは英雄願望を持ってるつもりだ。正直この争いが起こる雰囲気を自分で止めてみたいと思ったことならある。


 しかし、実力が決定的に不足している。頼みの綱の伝説の剣も、使えば自分が破滅する仕様である。この状態で自分が争いを止めに行っても決して事態は好転せずにそれこそ最悪な未来を描いてしまうことだろう。


 それ故に、今は自分の実力でできる最善の事をするしかない。争いの火種となりうる人間、黎と剣を異世界に送る事それが俺の実力でできる最善の行動だろう。


 そう考えておくしか今のところはない。口惜しいし、男の子として悔しいけどな、


 今後について話し合いや考えているうちに、遅くなったのでエニグマがエリーゼさんの家に泊めてほしいと願い出る。エリーゼは最初は嫌がったのだが俺の話とエニグマの話を聞くことを条件として話を飲んでくれた。


 さて、今までは俺がこの世界でできることについて考えていたのだが、どうやら元の世界について考えなくてはいけないらしい。どんな話を根掘り葉掘り聞かれるのだろうかと少々、戦々恐々としている俺であった。

 


まぁ世界レベルの紛争相手に自分が関わっているなら颯爽と止めたくはなるんだけど決定的なまでに実力が欠けている。

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