皇帝の寝室 彼らのみの繋がり
現在……夜、食事は豪勢でした。
なんというか、バイキング形式の晩飯だったのだが驚かされた。
皿が多重構想と言うのかあれ? 何かそんな感じで回しながら自分の取りたいフロア? の食材を取っていくという面白い感じの皿が中央にあった。流石に他の皿は普通の皿だったが、それでも大変、豪華だった。
料理に関してもジュージュー焼けている見た事もない肉料理、湯気が立ち、しゃもじを入れるとふわりとしていた米、シャキシャキしておいしかったサラダ。他にもいっぱいおいしそうなものがあった。
「なんだ、これ」とか「ああ、歓迎の為ですか」とか他の食事会場にいた人たちが言っていたので、俺たちの為らしい。本当にアルカンナさんには感謝しなければな。料理以外にもとても、色々な人がいて、喧噪や、雑談があって賑やかで楽しい空間を提供して頂いた。
食事時はそう思ってたし、今だって心に残る、優しい記憶だ。
しかしね。
「まさか、本当に来るとはな?」
そう、ここはアルカンナさんの私室。豪華な部屋だが、装飾品が少なく簡素な、印象を与えるが、絨毯やカーテンには華の文様がつけられた静かな美が感じられる。
程よく明るい特徴的な赤い照明や火のともされているアロマキャンドルが良い落ち着く香りさせ、良いムードの部屋だ。そう俺は、食事が終わった後、案内役さんにこの部屋まで送られた。
晩飯の時があまりにも楽しかったのでどうして俺だけ食べ終わったことを確認されたら途中退場させられたのとか、明らかに案内されてた場所が昼と違うとか、俺の足取りが何故か軽くなってるとか気にしないでいた。この部屋に連れられるまでは。
そう言えば、謁見の間であった。軽い話し方をしていた茶髪の吸血鬼のお兄さんがわざわざ苦みのちょっとだけ強いコーヒー牛乳や独特の味のするレモンジュースなんか持ってきてくれたっけ? 確か、親愛の印にーーとかで、喉を通す時なんかやけに熱い気がしたけど?
そう言えばやけに飲まされた変わった味のするジュースを飲んでいる最中に「やけに飲むな……『コレ』アル ー 度 九七いってるんだけどな」
とか、言われたけど、今思えばあれってなんなんだろうか? アレのせいでちょこっと歩き辛くなったんだが。
「お前、やけにさ。いや、なるほどアイツか」
ここまで来る時の事を回想しているとアルカンナさんはこちらを見て、鼻の付近で手を振って顔をそむけた後、何か得心をしたような顔で言った。目が細く遠くを見ていたような気もするのは気のせいか?
こうして、俺とアルカンナさんの長い夜が始まったのだろう。
部屋の明かりによる少々の明るさと夜中と言う時間帯ゆえの静けさに包まれたこの部屋で俺はアルカンナさんと対面している。
「お呼ばれしました」
「ふふ、緊張を解くといい」
正直、女性の部屋に入ったことなどないので謁見の間とは別の意味で緊張してしまう。ただ、その様な俺に椅子にゆったりと腰を掛けて座っていた黄色の緩やかな部屋着を着たアルカンナさんがにこやかな顔で言ってきた。
「ああ、この服装か。いや、本当に訪ねてくるとは思わなかったし急に入ってきたのでな。着替えてる時間がなかった。確かに皇帝らしい威厳も、女性らしい可愛らしさもない服装だとは自覚している」
俺が服装に目を向けていたのを知ったのかばつが悪そうな顔でそう言った。確かに、色気もへったくれもないローブのような割烹着のような部屋着だ。だがしかし、家庭的な暖かさを感じる部屋着だと思う。そう、金髪混じりの髪とその部屋着の色、そして今にこやかで穏やかな顔はまるで……「お母さんと言う物が居たらこのような感じなのだろうな」と感じてしまう。
この部屋の程よい暗さもそのように感じさせる理由なのだろうか? 「正直、皇帝をやっているよりらしいなぁ……」と感じる。
「レイ、君は気づいていないようだから言っておく。声に出てるぞ」
そう言ったアルカンナさんはジト目でこちらを見る。声はとても優しかったが何処か拗ねた印象を与えさせた。
「あ、いやそれはですね。ちょーっとそう思っただけでして」
俺はこの状況に焦り、アタフタしながら言葉を紡ぐ。このような女性と二人っきりでつい本音を漏らしてしまう様な状況は初めてだったので、リカバーがいつも以上に難しい。
「くっははは。いやいや、気にするな。こちらは気にしていない。からかっただけだ」
我慢できないと言った感じでアルカンナさんは俺のアタフタした姿を見た後、弾けたように笑う。それを見て俺は少々拗ねた顔になってしまっていると思うが何処か懐かしさが俺『達』の胸に去来する。
「「……」」
どうやらそれは相手も思っていたようで、俺たちは互いに見つめ合う。何時の間にかアルカンナさんの笑い声もやんでいた。
今、俺達は黙っている。なのにどうしてか心地よい。心が通じ合う。そう、この身体の芯に響き合う静けさに身を委ねている。
ああ――そうだ、俺達は久しぶりなのだ。こうやって『家族』と『会話』する事が異世界に来て、そして彼女は皇帝になって。
そう考えると今だけは切に時よ止まってくれと願ってしまう。
これはあいつらと分かち合えない、血が繋がらなくても存在する。同じ人を『祖父』に頂くものだけが持つシンパシーって奴なんだろうな。
「なぁ、レイ、君は何故『ここ』にいる?」
揺らめくアロマキャンドルが解け始めたと自覚できる頃、ポツリとアルカンナさんが言ってきた。他愛もない話であるはずなのにそれは今までに無いくらい真剣で、そして今までに無いくらい穏やかな顔だった。
俺がここにいる理由……説明こそ微妙に改ざんしたが父さんに送られただけで別にここに来たかったわけではない事はアルカンナさんは知っている。だから多分、『ここ』はこの世界でもなければこの城という訳でもないだろう。しかし、どういう意味だ?
「すみません質問の意味がわからないです」
降参と言うポーズで俺は目の前のアルカンナさんに向き直る。
「すまん、少々カッコつけすぎた」
「あっいえ気にせずに」
「気に、する……」
顔下に向いて赤くしている。どうやら気取ってしまったことに少々テレが入っているらしい。手をグーにして前に有る机に押しつけている。ついでにその机はメキメキって音が聞こえる。これは、落ち着くまで時間がかかりそうだ。
「何故、お前はわざわざ元の世界に戻ろうと旅を続けている? 父に言われたからか? そして何故、玖珂ユミをわざわざ一緒に連れている。同情でもしたのか?」
アルカンナさんは冷静になった後、一呼吸置いてキリッとした顔で先ほどの事などなかったのかのように言葉を続ける。どうやらこの人身内の前ではカッコつけたいはらしいな。親近感湧く。
しかし、改めて言われると確かにそうだ俺は何故、こんなに苦労してまでチキュウに戻ろうとしているのか?
「そう、別にこの地で一生を過ごすというのも悪くはないだろう。ここには私がいる。異世界の知識も重宝されるぞ? 元の世界以上の安定した生活を送れるかもしれない」
雰囲気が変わる。
アルカンナさんはただ淡々と、まるでこちらを値踏みでもするかのように言葉を紡ぐ。これは試されているのだろうか? それとも……
「仮に、戻るにしたってそうだ。何故、玖珂ユミを連れて行く? 彼女をここに預けて私の部下と共にプラティナセルマに先入し、帰還方法探る。その後に一緒に帰還した方が安全だと思うぞ?」
そう、狙われているのはユミだけだ。確かに俺たちも忍者を逃がしたことから抹殺対象に入っているかもしれない。だが、それでも一緒に行動するよりは危険性が少ない。
「だから、改めて聞く。何故、君は苦難の道をあえて行くんだ? 成り行きか、それとも…… さぁ答えてくれ何故、君は『そこ』にいる?」
強い目がこちらを射抜く。決して中途半端な答えを許さない瞳がこちらの動きを見逃さない。
俺がこの道を選んだ理由。何故戻らなければいけないのか。何故、玖珂を連れて行くのか。戻りたいとか、可哀そうとかではない。心の中にあるはずの確かな答え。
それをさらけ出せとアルカンナさんは言っているのだ。
「ここで答えられなければ後に行くのは辛いから……ですか?」
「それもある。お前たちが思っているほど簡単な旅になりそうにない。そう思っている。勘だがな」
でなければお前はきっと何処かで死ぬ。確かな覚悟をここで見つけ出さなければいけないのだ。俺は胸に手を置く。それは自分の心に問いただすように、お前は何がしたいんだ。六導 黎?
目をつむり自分の心に問いかけて、今更だが俺は大きな目標って奴を自分の意思で持っていない事に気付く。
戻るのだって父さんに言われるがままだった気がする。剣を持って帰るのだってエニグマに言われたからだ。玖珂の件だってアイツが嫌がったから……
俺の意思は何処にある? 俺の出すべき結論は?
そう自分に問いかける。何時の間にかアロマキャンドルも明確に溶けだしてきたとわかるほど溶けてきた。アルカンナさんは俺が考えている間中じーっとこちらを見ている。まるで俺が逃げ出さないか監視しているようだ。
エニグマ、テレザ、玖珂、そして俺、最後に父さん。今までの出来事から俺なりに見つけた答えについて。俺はようやく見つけ出して彼女に伝える。
俺はその目に向かって答えを口にしようとする。いや、正しくは、その目を通して自分に宣誓するのだ。俺は……




