待ちにまった町
長い長い、森を超えた先には町があった。
エニグマ曰く、どことなく昔の面影が見えるけど、中々に現代に適応している感じとの事である。
夕方に近い昼ごろの街並み故に、人も多いようで有り、同時にまばらにもなって行く。
なんだろうか、現代に古い時代の建造物が沢山残っているような、欧州とか行ったことなんかないけど、どこか欧州的な雰囲気を感じる街だよな。
よく舗装された平らの地面に、ある程度自然に生えていた木等、家もレンガ? 作りで何処か懐かしくしかし、穏やかな空気を感じる。気候も冷静に感じてみると二十度で辺りで安定してそうであり過ごしやすい所である。
どこか中世的だけど、みんな妙に小ざっぱりしているのはどうやら魔法のおかげとの事。人間自身が使えなくても、そのような汚れなどを浄化させる魔力を発生させる場所や、物などもあり生活に浸透しているのだという。
「なぁ、情報を集めるとは聞いたが、一体何をするんだ?」
正直に情報を集めています。と言っても、今更常識的に聞けないものもあるだろう。
そんな事を聞くようでは正直、怪しい人物なので疑ってくださいとでも言う様なものである。
それに、ぶっちゃけいちいち人に聞いて回るとか面倒な事はしたくは無い。
そのように考えているとエニグマが顔の近くでちっちちと指を左右に揺らした。
懐かしいなそれ。
「嫌だなーレイ、何の為に魔族に親しい人間が住む町に来たと思っているんだよ」
そう言われてもこの地に不慣れな自分としては正直、何故来たのか? とかはわからない。その為、理由について問いただすと
「まぁ見ててよ。魔族に親しいって事がどいうことなのかさ」
等と言ってきた。
一体全体どういうことなのだろうか? と思っていたらエニグマが何やら書物や紙やらが置いてある店の方に行って何かを店員に尋ねていた。
どうやら話は終わったようでそのような店で何やらかつて見た地図みたいな紙を買って来たって、ああこの町の地図か……
「まぁまずはこの町の地図が必要だからね。昔ならともかく今と百年前では住んでる人とか結構変わってるし」
とりあえずといった調子で、エニグマがそう答えた。まぁ、確かにどこに行くにしても場所を把握している必要があるからな。本当に地図というものは旅先では必需品と言える。
それに、流石にそれだけ時間も経っていたのならば、完璧に覚えていたとしても記憶さえ意味をなさないだろう。
アレ、百年前? 父さん今四十代位だぞ、おかしいような? 時間の間隔が地球とこっちでは違うのだろうか。色々と疑問に思うことが増えてきたがそれよりも気になる事が一つあったのでエニグマに聞いてみる。
「そいやエニグマ、金どこから出したんだ?」
そう、エニグマは一応、先週位まで爺さんの家で剣の番人をしていたはずである。どうやってもお金を稼ぐ手段がない。
そこらで拾ったものを換金するにしても、流石に書店(だと思われる)では換金もできないだろう。一応、昔の通貨が、今も使えた可能性もあるにはあるが……そう考えているとエニグマから答えを聞かされる。
「いや、剣なんかを盗みに来た冒険者を撃退してると稀に落としていったからそれ拾ってた」
何か照れくさそうにそう答えられた……アレ? 普通それ、冒険者じゃなくてボス側エニグマがすることじゃね? と思ったがまぁ、他人の家に物を盗みに行っているんだからそれくらいのリスクは背負うべきなのかもしれないなとも思いなおす。
元の世界では犯罪である事に目をつむる。どうやら、エニグマも結構お金を持っている事だけは分かり、今後のこの町の行動について地図を見ながら話し合ったのだった。
どうやら行くべき場所が分かったようでエニグマの導きに従い、地図を見ながら、暗い路地の方を抜ける。
「あっすいません」
「……」
そこはジメジメした路地裏。日の光が当たる街とは正反対のとても薄暗い所のようで、人もなんというかその暗さに当てられたかのようになんというか、うんスラムに近い。ガラの悪そうなのや何かを引いて眠る浮浪者が存在した。ただ、そこまで治安も悪くないのかこちらを睨んでくるだけで襲い掛かってくるような事まではし無いようだ。その代りこちらが話しかけても黙っているが。
どうしてこんな所に向かうのか? など聞きたいことがあったが、自分でも思い至ったので黙ってついていく。
魔族に対してあまり差別意識がないとはいえ、やはり、魔族の為の情報をくれる人とは余り目立た場所に住めないのかもしれないな。等と、思っていたが、エニグマの愚痴で勘違いに気付く。
「本来ならこんな路地裏に入らなくてもいいはずなのに、これだけ街並み変わってるなら、いい加減場所変えればいいのに。同じ場所ではあるけど逆に行き辛い……」
どうやら、深く考えすぎたようである。そりゃ、長い年月そこに住居とか構えていたら区画整理等で路地裏になってしまうこともあるよな。
そう考えながらも、俺とエニグマは延々と路地裏を歩く。途中途中で人が寝転んでいたり、エニグマに寝転ばされたりしていた。流石に奥まで行くと相応に暴力的なのがいるなぁ……
うん、伊達に長生きしていないのか、戦闘技術も高く、目にも止まらに早業で、路地裏の視覚外からの不意打ちを不意打ち返しで寝転ばしていた。狭い道に隠れた野党からの不意打ちに接近してきた瞬間、足元に光弾を出現させ転ばせる。そこに間髪入れずかかと落としを入れ気絶させる。
どこかで見たような技だったが、エニグマに聞いたところ父さんの技の自分なりのアレンジらしい。かつての組手で見て覚えたらしい。確かに父さんは、相手の足元に攻撃を加えて、相手が体勢を崩した所に踏みつけで攻撃をするのを得意としていた。
アレ、あからさまに隙が多いのに体勢を崩されてからやられるから一対一だと良く食らったなぁ。アレ、子供の頃からの技だったのか……
そんなこんなで、路地裏をでる。途中でそこそこ長い道のりだったせいか色々な事があったような気もするが、まぁいいだろう。
こうして着いた場所は、小高い丘の上にある。畑とかやたら生活臭のするそこそこ大きな古い家だった。
多分、この家、かつてはここら辺が町はずれに一見ぽつんとあったはずがどんどん町の規模が拡大したり打ち捨てられたりしたりでこんな感じの場所になったんだろうなと感じさせる。
「時代変化って残酷だなぁ」
本来はもっと物静かなはずの場所で景観良かったんだろうに、そう思っても仕方ない程度には路地裏の裏にあるくせにいい感じの家だった。
「まぁ本当に重要なのは住んでいる住人だし、そんなこと気にしてないで行くよ」
何かやけにエニグマがドライになってるように感じるのは気のせいなのだろうか? いや、どこか逸る気持ちを抑えきれていないように感じる。
わざわざその言葉に逆らう理由も特にないので、その言葉に従いエニグマについて行き、家の前に辿り着く。
近くで見ても歴史を感じさせる。赤い屋根のレンガ造りの家だ。趣と歴史を感じさせる古ぼけた鐘が櫓? らしき物に入っており、あれを鳴らすことで住人にここに来たことを伝えるのだろう。要はあの鐘こそがチャイムなのだ。
そのように認識し、当然エニグマもチャイムらしき物を鳴らすのかと思いきや、思いっきりガンガンと立派なドアを叩き始めた。
「ちょっtお前、何やってんだよ!」
ヤクザもかくやと言ったその行動には流石に俺も止めに入る。何故、わざわざついているものを無視してドアを叩いたのか鐘で鳴らすのではないのだろうか? それをエニグマに問いただすと意外な答えが返ってくる。
「アレ、昔なかったのにやけにかつてから存在しますようーって自己主張しててムカついてやった」
どうやらあの鐘はエニグマ感覚でつい最近備え付けられたもののようだ。
やたら古臭いように感じたのだが、どうやらわざわざアンティークを買って昔っからあるように思わせていたらしい。ここに初めて来た俺みたいなのを騙す為の物であることをエニグマから説明を受ける。
「おい、人聞きの悪いことを初めてきた奴に言いふらすのはよしてよ」
先ほどの荒いノックにもマイペースに扉を開けて登場したのは古臭い魔女のようなローブを胸元を開けスリットを入れて着こなす。妙齢の美女だった。
なんか何時の間にか景観の良かった家が周囲に新居が立ったせいで微妙になるとかよくある事