夜は明けるもの
俺の『魂』は意識が朦朧としながら周囲の情報をかき集めていた
「これで終わりだと思うけど?」
エニグマが、先ほど気絶から立ち直ったテレザを連れて、ゼリウスの元に行く。
ただ、連れてきたテレザはフラフラしながらも一瞥し、俺の元に駆け寄った。何とかゼリウスさんを切り捨てることはできていた。俺はゼリウスさんには勝てたものの「炎龍爪破」もまた威力がすさまじく、身体を保護していた魔力力場を燃やし尽くしてしまった。俺はもう力場を纏っていなかった上、体力も意識さえも尽きていた死に体と言っていい。
その為、身体の生命活動の維持が困難となってしまい、現在、気絶し生死を彷徨っているのだろう。なのに外の世界をある程度、客観的に認識できるのはもしかして剣の力なのかもしれない。
テレザは俺がその様な状態になるだろうと考えていたエニグマがテレザが倒れた時点で看病していた。そして今、回復の為に、テレザが必要になった為、彼女は叩き起こされたのだろう。
魔力の使いすぎによる疲労がなくなったわけではない。今でもふらふらしていてテレザの意識は今にも消えてしまいそうになっている。それでも、やらなければならないとでもいいようにこちらに来て癒してくれた。身体こそ動かせないものの感謝している。多分、幽体離脱の記憶持ち越せない者がいる様に、この状態から解放された時記憶を持越せないと思う。その為、こんなにも献身的に尽してくれる者に応える事が出来ないのが少し、悔しい。
俺は意識どころではなく命が今にも消えそうなのだから……と、テレザは手を大きな怪我のある胸の所に手を当てる。手の汗を感覚がある、手が震えているようだ。しかし自分がやらなければ今目の前にいる人は死んでしまうのだとでもいう様に癒しの力を込めてくれる。
「生きていてください。死なないでください……」
そう呟きながら今にも泣きだしそうな顔で看病をしてくれるテレザ。それを後目にエニグマはゼリウスさんに警戒する。エニグマにとって、俺の状態は確かに危篤なのだが別にそこまで気にした様子はない。
これはテレザの腕を信用しているというより、俺の身内である爺さんや父さん達からの判断だろう。正直、聞く話だと、あの程度怪我の内ともいえる。ただ、治療が適切ではなかったら死にそうだな……くらいにしかエニグマには思っていなさそうだ。
「それ抜きにしてもレイなら生き残るだろうけど、問題は君だよ。ゼリウス」
そう、俺達にとって、ここでゼリウスさんに立ち上がられるのはともかく、立ちあがって仲間を呼ばれるのは結構きついので警戒する必要がある。
「近場にいるであろう糸目の奴とか、読んで欲しくないからなー」
エニグマの言う『糸目の彼』等はそもそも全員が健全な状態でも絶対負けてるくらいには実力差がある。
その為、援軍を呼び寄せる可能性などは潰せるうちに潰しておきたいのだろう。
光弾をいつでも放てるように魔力が集まり輝いている手をゼリウスさんに向けている。
ゼリウスさんの傷は腹部から胸にかけて大きく、深い右斜めの切り傷が出来ている。意識もそのせいか失っているようだ。
しかし、エニグマは警戒を解いていない。そもそも高位魔族にとってその程度は致命傷とは言い切れず、時間をかければ自然治癒さえできる程度の傷に過ぎないからだ。今も、その証拠に傷口に薄い膜ができ、血の流失を止めている。
「もう、そろそろいいかな」
そう言うとエニグマはゼリウスさんの顔に向けてケリを放った。そんなに強くもないが流石に怪我人に対して行うものではない。というか手の魔力光は?
確かにもくろみ通り、ゼリウスさんも意識を取り戻したが、先ほどのケリの影響か呻いている。「グッっグ」っとやたら危険な呻き声だった。
「おい、いい加減に意識を戻しなよ?」
テレザが治療に専念しているからいいものの、もしも見ていられる状態だったら、信用を失うであろう声と行動でゼリウスを叩き起こす。
「ぐッ元々、敵には容赦というか、興味のない人だったってきぃてましたっが自分の身で体感してみるときついですね」
「……」
怪我というよりも横っ面を蹴られた影響か、苦悶の表情を浮かべながら意識を取り戻したゼリウスさんとそれを冷たい目で見続けるエニグマ。
後ろの方では、なんとか回復の目途が立ちそうな俺と回復役として孤軍奮闘しているテレザの必死な顔が何処か対比すると異様な空間を作っていた。
すぐ近くでエニグマが、ガシガシ重体の人間の横っ面を蹴っていた中、並行して行われていたテレザによる治療は快方へ向かっていた。
剣の影響で、傷口の消毒などしなくても大丈夫な状態である事も事前にエニグマに聞いていたことも、このような短時間で治せている理由の一つだろう。
それでも、テレザの目に集中の色が消えることはない。そもそも、骨が見えるほど抉られている胸部というのが異常な状態だった。
今でこそ献身的な治癒術の影響と、治癒術の余波でいつの間にか治ってしまっていた周囲の穴のような傷等が治っていた訳の分からない治癒速度の影響で骨は見えなくなり、肉もついてきたように見えるが普通に生命維持に関わる。
良くこの状態で戦えていたものだ。テレザは俺の傷口を見て本当にそう思う。この傷が出来た時は遠巻きにしか見えていなかったため、大量の血を流しながら大きな傷が出来た程度にしか思えなかった。
間近でレイを見た時もすでに傷は魔力力場で覆われた後、今思えばあの時は戦うことに集中する必要があった為、冷静に考える余裕もなかった。あれだけの血を流しているならば致命傷のはずなのに……
「心配するな、だけど適切に治療してくれ。とは、言われてましたけど、ね」
治れ、治ってくれと思いながら治癒術かけ、その合間、合間に口移しで高カロリーの経口医療用食品を食べさせ、いや、飲ませていく。身体を補填する栄養と物質的な意味で食べ物を無理やりでも食べさせる必要があるとはいえなんというかこそばゆい。
携帯していた分では足りないけど、本格的なのは、今もなお維持され続けているこの炎の結界の外だ。どうしようもない。今もなおある炎の結界も煩わしいが、良い事もある。
本来ならそろそろ夜も明ける頃とはいえ真っ暗闇の中で治療するのは難しい。その中でこの結界は明りとなっている。その点だけは感謝している。と余裕のできてきたテレザは思っていそうだ。
「良かったぁ……レイさん……」
短時間であれほどの怪我が治っていく、冷静に考えれば異様な光景だ。それでも、友達が無事である喜びに勝るものは無いのか感嘆の声を上げその状況を見つめながら治癒術をかけるテレザ。その頬には一筋の涙が流れている。
俺の方の感覚も身体に引き寄せられている感覚がある。どうやら意識と記憶もの方も掠れかけだけど、それでも言いたい。万感の思いを込めて口にする。届くかどうかも分からない。身体に魂が戻る過程で意識が客観的から主観的に切り替わり、まるで記憶と引き換えにするように感情が爆発する。
ありがとう
言いたい事はいっぱいあったが、これ位しか言えなかった。それでも、薄れゆく、覚醒に向かう意識の中でせめてもの感謝をテレザに伝える俺であった。
近くで「グッっぐ」と呻いている敵だったものの声も聞こえてはいないのだろう。傷がほぼ治ってきた頃には安堵と疲労からか、治しきれずにテレザは気絶してしまった。
「づぁあああぁあああ」
ある程度、治ったとはいえ傷の合った所に思いっきり頭突きのようなもの食らったレイは痛みの中で目が覚める。声にならない悲鳴は何故か小さく、まるでそれは、今まで治療に専念してくれていたテレザを気遣うが如く小さくなったようだった。
起きてすぐ自身の身体の調子を確かめようとしたレイであったが、テレザの小さな体がレイにちょうど覆いかぶさっているので動けない。
「申し訳ないけど退かそうかな……」
「良かったでしゅ……レイさぁーん、あっやめてくださぁーい。そこは、そこはぁー!」
何か、おかしな夢でも見ているのだろうかテレザが幸せそうな、困惑したような表情をしながら愉快な寝言口にする。レイに何かされているような夢なのに手がわさわさと胸元を触っているのは何故だろう。感覚がまだ無くて良かったがきっとあったら下腹部が天の頂を目指していただろうとレイは思っていた。
テレザは怖くて起こせなくなってきたので仕方なく、ゆっくりと行動しながら体の位置をずらして立ち上がろうとする。
平らとはいえ、小石のある地面にこすれて痛いがそうもいっていられない。そうやって起き上がっていく過程の中で忘れていたものがある事に気付くレイ。
胸から下腹部付近に顔が移ってしまっているテレザ、危ういと思いつつも上手く動かない自分の身体を今も動かしながら言わねばならぬと何かが、そう多分、魂が言っていた事を口にする。
「言うのを遅れていたよ。ありがとう。本当にありがとう……テレザ」
幸せそうに寝ているテレザを後目に、彼女に語りかけるレイであった。
その後、何とか立ち上がり、テレザをおぶさり、エニグマの元へ向かう。テレザの様子は幸せそうな寝言を呟きながらもすやすやと背中で寝ている。正直思っていたよりはだいぶ軽い。そして柔らかい。
俺がおんぶした事がある女子、全員筋肉ついてたからなぁ……見た目では全然わからなかったけど。比較して初めてわかる事ってあるよな。
「レイしゃん、エニグマしゃん。よかったでしゅ」
そのような事を考えながらエニグマの所につく、そこまで距離が離れていないのですぐ着いたが、やはりというかエニグマには指を向けてて笑われた。
「俺の席ある?」
「まぁ、あるよーしかし、今晩はお楽しみかな?」
「今晩、もう終わるよ!」
「さっきまで殺し合っていた奴に言うのもどうかしているが君が来てくれてうれしいよ……」
ゼリウスさんの方は顔に痣があり疲れ切った表情をしていた。多分、色々あったのだろう……
そんなこんなで、色々な話をした。今は援軍は来ない事や、それでもゼリウスさんは定期報告の時にはこの剣が魂蔵持ちの剣である事はきちんと報告する。
何処に行ったか、どのような人物かはある程度はぼかしてくれる事等、負けた以上はそちらに便宜を図る事をそして曲げられないものがある事はなした。
エニグマは報告は仕方ないとして本当に援軍がいないのか気になっていたが、正直この手のタイプがこちらを騙すようなことをするわけがない。テレザやエニグマに対して襲わないという約束を違う形で守ろうとしたのがその証拠だ。
「レイ、君ねー」
「そうか、信じてくれるのか……君はやはり……」
そういうフォローを俺が入れたらエニグマには呆れられ、ゼリウスさんからは意味ありげな表情を向けられた。ただ、もう一つ理由があり、この手のタイプは信じてることを告げる事で恩を売っておいた方がいいという事もあるのだが、わざわざ言わない。めんどくさいし。
「ただ、こちらも意味なく襲ってきたわけでもない。負けたが故に一時、引くただ、それだけだ」
そういってゼリウスさんは炎の結界を解き、中央都市の方角へ歩き出した。どこか、安心したような、問題を先送りにした苦悶があるような微妙な顔をしていたが襲い掛かってきた時よりも良い表情だったと思う。そしてエニグマは監視の意味も込めて彼を見送っている。
「分かってるよ、君も理由なく襲ってくる奴じゃない。ただ、当然今度も負けないようにしておくさ」
(何度も、何度でもたたきつぶす)
「まぁ、とりあえず今度は死に掛けない程度には強くなっていますよ」
一瞬だけ繋がったアルヴァの物騒な言葉を聞きながら、俺たちはゼリウスさんをエリジアの中央都市まで行くのを見届ける。あそこで定期報告まで魂蔵のありそうな伝承を本で漁っているのだろう。もしくは召喚術の方法かもしれない。
俺たちは流石に同じ都市にいれば戦わない理由がないので安全の為にも、もう一度ゼリウスさんをうそつきにしない為にも北を目指す。行き先はどうせばれていると思うけど、向かうしかない。
そろそろ夜が明けて来たのか朝日がエリジアの方から見える。「うーん」とテレザが起き上がってきた。エニグマが起き上がってきたテレザにまたしても俺と同じことを言い顔を真っ赤にしたテレザが俺の背中で暴れだす。
痛い、煩い、さて次はどんなことが待ち受けているのか……
糸目の彼は深夜に連絡してきた人です。出ているキャラの中のセリフがあるキャラで二番目に強い人
よし強引に視点を変えない様に努力してみたぞ




