序章 チキュウの落とし子 荒廃魔王城 オルガ・ゲイト
新生 評価、感想を自由に募集中です。つまんなかったでも面白かったでもご感想お待ちしております。
暖かい陽光が西側の窓からベッドへ降り注ぐ。
日差しに当てられ、朝目が覚めると俺は、昨日の資格試験で自己採点が結構良かった事もあり、今日が人生のいい転機になる事を予感していた。
その為、着替えが済んだ後、気分よく部屋を飛び出し食卓へ向かう。普通の一軒家とは思えない二桁は住人がいる木造の家の長い廊下を歩く。
とりあえず、資格は取ったから、これで父さんや下の兄弟からは動け、ゴクつぶし2号とは言われまい。新卒で卒業できず二十三歳、まだまだ再起は可能だと思いたいが、大学生活の頃から部屋でゴロゴロしている事が多く、バイトも短気しかやって来なかった。その為、七歳くらい年下の弟その一からは
「なぁ、兄さん。ニート弐号は何時、基地から発進するんだ?」
等と当て擦りをされる毎日だった。
就職は失敗するとズルズルと行ってしまう。ただその反面、俺は悠々自適な生活を送っていると思う。朝起きて、遊んで、学んで、動いて、食って、夜寝る、そうこれはとても健康的で素晴らしい生活であると言える。
うん、自覚してしまうなダメ人間だ俺。
一応第二新卒として『来年』頑張る為に幾つもの資格に挑戦してるし、実際受かったのもいくつかあるから大丈夫なはず!
そう自分に言い訳しながら歩いていると、いつの間にか食卓の扉の前に辿り着く。俺は、ドアノブに手をかけて軽く深呼吸をする。
少しだけ、開けるのが怖かった。
弟一ならまだ反論などできるが、兄や姉だと合わせる顔が無い。そして、父さんならなおさらだ。
大学を卒業するまではバイトをあまりしていなかったことを覗けば表面的には誇れる生活であろう。
俺の家は少々裕福であり、その家人達もある程度はそんな主人の息子を素晴らしい存在だと言ってくれている者もいた、ハズだと思いたい。
それでも、こうして就職が失敗してしまいズルズル行くとどうしても自分の本性とか、親への負い目と言うモノが出てきてしまう。
多分、見るひとによってはばれてたんだろうな……
ああ、この人はこれ以上の努力する気ないな……って。
俺には悪癖がある。煩わしい事、面倒な事をできれば必要最低限の努力だけしかしない様に心掛けていたのである。
だから、それが父さんにもばれているんだと思うとどうしても心が重い。目の前のドアノブもさっきから回しているつもりだが鍵でも掛かっているかの如く重く感じる。
うん? アレ本当になんか回らない?
正気に戻り、冷静になってドアノブを回すものの、さっきからまるで反対の方でも回しているのかドアノブがうんともすんとも言わない。仕方ないので一度放してみると回ったよ。ドアを挟んで前に誰かいたよ。
どうも気が沈んでいるとマヌケになるようで失態を演じてしまう。ドアの向こうから誰が来るのか、少々怖いものがある。
心臓が早鐘をうつ。
頼む父さんではありませんように、父さんではありませんように、父さんではありませんように
まるで、神にでも祈る敬虔な仔羊にでもなったのか、食卓の扉の前で手を合わせて祈っていた。正直、ここで来るのが父さんではなくても呆れてものも言えなくなる状況ではある。しかし、その健闘もむなしく現実は無慈悲だった。
扉から出て来たのは身長、百八十センチ、体重百オーバーの筋肉の塊と似合わない髭を生やした。とても綺麗な透明感のある紅毛の男だった。うん終わったよ真っ白にな……まるで紅白だぜ。
「黎か、これから朝食か? なら、食べ終わったら私の部屋に来なさい。資格試験頑張ったそうじゃないか。それに免じて『今までの生活の』成果に見合うものをやろう」
父さんの口から出たのはの思いもかけない祝福の声。今まで怒られると思っていた俺はそのギャップもあり、ついつい
「やったぜ」
とガッツポーズを決めてしまった。それに父さんは苦笑しながらも食卓を出て自室に戻って行く。
久しぶりの二人っきりでの食堂での父さんの言葉に、テキトーにやっていたがいい感じの成果を出していた資格勉強の成果にと物を貰う。父さんに褒められるというのも有り、ウキウキしながら朝食を食べ終えた後に父さんの部屋に向かう。しかし、その父さんの部屋に向かった時に待っていたのは褒美ではなく異世界へ送られる事だった。
「異世界に行って性根叩き直してこい」
その言葉を淡々と放った父親の顔は、正直鬼か悪魔にでも見えた。
そう言われた俺は、唐突な事だったので頭が空っぽになる。とてもマヌケな面だった事だろうと今の俺は述懐した。俺以外にも、魔方陣にはそこそこ大きな荷物が床に置かれていた。父からその荷物に関しての説明があった。
「これは旅に必要な道具だ。目標は自力でこっちに帰ってくる事」
「ッ冗談ですよね。と、父さん?」
新卒で社会人になれず特にアルバイトもしていなかった俺にとうとう業を煮やしたのか俺は父に異世界まで送られようとしているようだ。
「待て、待ちやがれ!! 父さん 糞がぁあ!」
褒められると思っていた事も含めて感情のふり幅が大きく、怒りを覚えた。その為、俺は父に喉よ涸れよという様に悪態をつき、この世界に落ちてきた。
まるで無限の空から堕天するエデンの住人の様に、頭から地面に急降下するような感覚が俺を襲い、そしてその様な感覚がったにもかかわらず俺は直立で地面に立っていた。
「とりあえず、ここ何処だよ……」
余りにもあんまりな父さんの言葉と、不思議な感覚よりもまず、本当に見た事も無い空間に頭がフリーズしたのか思わず言葉が出てくる。瓦礫に満ちた何処か灰色な空の廃墟の中心で俺はそう呟いた。
「ここからどう帰れって言うんだよ……」
そう、この時より俺、六導 黎の長く険しい旅は始まったのである。