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五導の賢者   作者: アイクルーク
六章
88/91

 

 闇が世界を覆いつくし、僅かな月明かりだけが崩壊しゆく城を照らしていた。

 そこではかつて幾度ともなく戦いが繰り広げられ、その度に多くの命が散っていった。


「いつまで隠れているつもりだ」


 バエルは目につくがれきを全て光線で破壊しながら二人の人間を追う。

 背の高い建物はあらかた壊されており、今となってはがれきが積み重なって山となっているだけである。

 身を隠せるような場所がもう残されていない以上、人間がいる場所はただ一つ。

 バエルは背中にある八本の黒脚の内二本を翼へと変形させると、足元のがれきを蹴り捨てて一気に上空へと上昇する。


「死に怯え戦いを拒むのというのならば、そのままがれきの下でくたばるがいい」


 バエルは残る六本の黒脚に魔力を集中させると無造作に真下のがれき目がけて光線を放つ。

 光線は何重にも重なる石の壁を無へと帰し、少しづつ二人の隠れる場所を消失させていった。




 丁度がれきの半分くらいがなくなったくらいだろうか、がれきの中から一筋の白銀の光の柱が立つ。

 それを反射的に勇者のものとして捉えたバエルは六本の光線全てをその柱の根元へと集中させる。

 石壁ですら紙のように貫いた光線だったが、その白銀の光による壁は貫けない。


 あれは全魔力が融合した時に見られる光……勇者が賢者を取り込んだか。


 バエルは経験的に目の前に存在する魔力が何なのか理解していた。


 だがしょせん人ごときに使える力ではない。


 そしてその上で勝てると判断したバエルはバスタードソードに闇をまとわせると一気に加速して柱への距離を詰める。


「宵の混沌ディストラクション


 光線よりも数段威力の高い一撃だった。

 まるで隕石のように上空から闇をまとって急降下していくバエルは地面に衝突すると同時にバスタードソードを振り下ろす。

 空気を激しく震わせ響き渡る爆音。

 辺りを覆いつくす破壊の闇。


 死んだのか?


 地面にできたクレーターの中心に立つバエルはバスタードソードにまとわせていた闇を解除するとそれを肩に担ぐ。

 手ごたえはなかった。

 だがそれはおそらく技の威力が強すぎたからだろう、と判断したバエルはその場を去るために黒脚を翼へと変形させる。


「どこに行くつもりだ?」


 不意に背後から聞こえてくる声。

 バエルは瞬時に体を反転させると剣を体の前に構えた。


 こいつは……っ!?


 そこに立っていたのは瞳に銀の光を宿した賢者の姿だった。






 気づいたときには全身から無作為に白銀の光を放ちながら僅かに光の差した空を眺めていた。

 そんな視界に映る一つの闇。

 それは高速で俺のいる場所へと向かってきていた。

 視線を足元へと向ける。


白銀の翼ソウルブレイブ


 俺の全身を白銀の光が覆いつくす。




 バエルによって作られたクレーター、その淵に立っていた俺は抱えていた亡骸を静かに下ろす。

 そのすぐ脇には皇のエクスカリバーが地面に突き刺さっている。


「借りるぞ」


 俺はそれを左手で引き抜くと、視線を後ろにいたバエルへと向ける。

 距離は大体、数十メートルといったところ。


 飛蓮


 視界の光が線のように伸びた次の瞬間には俺はバエルの背後をとっていた。


「どこに行くつもりだ?」


 突然現れた俺に驚いたのか、瞬時にこちらを向くとバエルは身を固くする。


「貴様……いや、そういうことか」


 何を納得したのかはわからないがバエルの戸惑いの表情が晴れる。

 そして翼を黒脚へと戻したバエルは八本の黒脚と手にしているバスタードソードを構え、臨戦態勢をとっていた。


「なあ、お前らは何で人を殺すんだ?」


 俺は武器を構えることをせず、そんな質問を投げかけた。


「理由か、そんなものはない。ただ,俺達はそういう存在というだけのことだ」


 そういう存在、か。


 俺がバエルから視線を外した瞬間、八本の黒脚が俺目がけて一斉に放たれた。


「死ね」


 俺がバエルに視線を戻した時、強い殺気と共にその言葉を吐き捨てられた。

 俺の手にしていたクインテットの刃が銀色に染まる。

 そして数度だけその刃を振るうと俺を殺そうとしていた黒脚は全て両断されていた。


「遅い」


 俺が左手に握るエクスカリバーに力を入れた瞬間、バエルは危険を感じ取ったのか即座にバックステップで俺から距離をとった。

 バエルの呼吸は明らかに乱れている。

 おそらく奴はこれまで圧倒的強者と戦ったことはないのだろう。


 飛蓮


 白銀の翼ソウルブレイブによって強化された俺の体はバエルに逃げる隙すら与えず、その目の前まで迫る。


「くっ……」


 振り下ろされたエクスカリバーを寸でのところでバスタードソードで受け止めるがその衝撃により、その体は地面に激しくめり込んだ。

 上からかかる圧を必死に抑えているバエルにとどめを刺そうとクインテットに込める魔力を増やす。


双脚ツヴァイっ!!」


 瞬時に生成される黒脚を目で捉えた俺はすぐさまバエルの腹に蹴りを叩きこむ。

 その威力のままに飛んで行ったバエルだがすぐに態勢を立て直す。


 飛蓮・旋


 背後に回り込んでの一撃。

 とても避けられる速さではないにもかかわらず、クインテットは空を切った。


 頭を下げて回避したか……こいつ、直感で動いてるな。


 追撃のエクスカリバーは衝撃をもろともバスタードソードで受けた。

 案の定、受けきれなかったバエルの体は宙に浮くがその顔に焦りはない。


 致命傷だけは意地でも避けるつもりか。

 なら……


 飛蓮・旋


四脚フィーア


 回り込んだ俺の一撃を今度は黒脚で受けることによって凌いだが、俺は再びその腹を蹴り飛ばした。


 ボロボロになるまで、斬り続けてやるよ。


 邪悪な笑みを浮かべている俺は圧倒的力を手にしたことにより復讐心がむき出しになる。

 俺はクインテットを数度振るうその刀身から銀光の刃が放たれた。

 それは全身を守るように展開していた黒脚を貫き、バエルの全身を切り刻む。

 全身から血を流しながらも地に膝を付けるバエル。


 飛蓮


 俺はそんなバエルを容赦なくエクスカリバーで叩き飛ばす。


「お前さえいなけりゃ、きっと俺は幸せに生きれたんだろうな」


 地面に這いつくばっていたバエルはそんな俺の言葉に応えるかのように光線を放ってきた。

 俺はそれをエクスカリバーの刀身で弾くと追いつめるように一歩一歩歩み寄っていく。


「本当に、こっちに来てから辛いことばっかだ。訳も分からないまま賢者にされて、訳も分からないまま殺されかけて、訳も分からないまま戦って……」


 バエルはバスタードソードに闇をまとわせると俺との距離を一気に詰めてきた。

 これまで何度も見せてきた攻撃法だが今回はまとわせている魔力の量が桁違いだった。


「常闇一閃」


 光線をも超える威力の一撃に対して、俺は両手の武器を交差させて受け止める。


「けどさ、結局全てを知ったところでやることは変わらなかった」


 俺とバエルの力は拮抗し、鍔迫り合いになった。


「俺はどこまでいっても戦うしかないんだ」


 クインテットとエクスカリバーはバスタードソードを断ち切り、バエルの体からは十字に血が噴き出す。

 バエルは目を見開きながらも力なく俺の前にひざまずく。


「なるほど、確かに強い」


 戦意の消えたバエルは笑みを浮かべながら俺を見上げてくる。


「だがな、貴様はしょせんは人間。生き残ることはできない」


 俺はその言葉を振り払うかのようにエクスカリバーの切っ先をバエルへと向ける。


「次に会うことがあったならば、今度こそこの手で殺してやろう」


 俺が軽く左手を振るうと、あっけなくバエルの首は宙を舞った。








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