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五導の賢者   作者: アイクルーク
六章
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二人よがりの最終決戦


 最終決戦、それは勇者、賢者として召喚された者が目指すゴール。

 転生したバエルを殺すためだけの戦い。

 力を得た勇者、賢者が十万前後の兵士と共に魔王の居城まで赴くのが恒例となっていた。

 魔王の居城は王都より遥か南にある小さな城。

 通称、最果ての城。

 その周辺には魔人達が潜むと言われている城下町があり、どれほど腕に自信があったとしても不用意に近づける場所ではない。

 本来なら万を優に超えるであろう人々が集う戦いで、バエルも百を超える魔人と共に待ち構え総力戦になるのが常。

 だが今、俺たちはそんな戦いにたった二人で向かっていた。


 半ば廃墟と化している城下町の手前、すでに役目を果たしていない石門の前には見張りの魔人はいない。


「いよいよ、これで終わりか‥‥」


 夜明けの風に紺の外套をはためかせながら俺は一歩一歩、確かにバエルの下へと歩み寄っていく。

 これが最後の戦い。

 ここでバエルさえ倒せば、俺はもう二度と戦わなくていい。

 隣を歩く皇は無言のまま真っ直ぐ前を見て進み続ける。


「お前さ、バエルを倒したその後、どうする気だ?」


 戦いのない、平和な世界が来た時‥‥もし、そこに俺と皇がいるのならどう生きるのだろうか?

 皇は僅かに歩速を速めると俺に背中を向けたまま言う。


「先のことなんか考えるな。いざって時、決断が鈍る」


 冷たく、そしてひどく無機質な声。

 それは俺たちが生きる望みの薄さを再認識させた。


「持ってきたのか?」


 何が、とは言わない。

 言わなくてもわかっているから。

 記憶の中にちゃんと‥‥残っているから。


「当たり前だ。できる限りは使わずにいくが、もしその時がきたら、覚悟を決めろ」


「‥‥」


 俺は皇の言葉を無視して足を前へと進め続ける。


「ここが最果ての城か」


 石門をくぐり抜けた先にはすっかり朽ち果てた建物が広がっており、石製の壁も風化しちらほら倒壊している家すら見えた。

 そして俺たちが今立つ大きな通りを真っ直ぐ進んだ先、王城に比べたら遥かに小さいがそれでも十分に大きな城がそびえ立っている。

 まぁ、記憶の中では何十回も見た光景なんだけどな。

 皇はそんな足を止めて眺めていた俺のことなどにはお構いなく一人滅びた街を歩き進んでいた。


「おい皇、そんなに急がなくても‥‥」


 僅かでもその時を遅らせたい俺と一刻も早くその時を迎えたい皇。

 先に進む皇の背中を追う俺の姿はまさに互いの心情を表しているようだった。

 そしてそれは俺が皇の横に並び、一言言おうと思った瞬間のことだった。


「来たか」


 周囲の建物から一斉に魔人達が姿を現し始める。

 無表情で背中のエクスカリバーの柄に手をかける皇。

 魔人の数はざっと見積もって十体。

 そのうちの半分以上が一位級か。

 俺は外套からクインテットを持った左手を出すといつでも右手で抜けるように前に突き出して構える。


「皇、ここは俺がやる。お前は魔力を温存しておけ」


 臨戦態勢に入ると同時に背中合わせになっていた俺は周囲の魔人を警戒しながらそう言った。


「やれるのか?」


 このくらいの数、今の俺なら問題ない。


「あぁ。それに魔力量も俺の方が余裕がある」


 皇は悩んでいるのか僅かに間を置いてから答える。


「いけ」


身体強化・天雷クロスブレイブ


 外套から素早く右手を出すと、クインテットの柄に手をかけ魔人の下へと突っ込んでいく。






「これで‥‥最後か?」


 俺は地面に転がっている魔人の死体からクインテットを引き抜くと、周囲を見渡し残る魔人がいないことを確認する。

 まずは賢者から仕留めようとでも思ったのか、全魔人か俺に向かってきたため掃討は想像以上に上手くいった。

 多少の魔力は消耗したが、それ以上にバエルとの戦いでの不安要素が一つ減ったのが大きい。

 これで全てとは言い切れないがそれでもバエルの戦力が格段に減ったのは違いない。


「終わったのならさっさと行くぞ」


 一切剣を抜かなかった皇はエクスカリバーの柄から手を離すと再び城へ続く道をゆっくりと歩き始めた。


「‥‥まじか。少しは休ませろよ」


 血に濡れたクインテットを素早く振るい血を落とすと、魔人達の亡骸が転がる周囲に目を走らせて戦闘中に投げ捨てた鞘を探す。

 戦闘開始と同時に投げ捨てた鞘は浅く地面に突き刺さっており、かなり目立っていた。


「‥‥‥‥」


 俺は天を見上げると少しの間動きを止めた。

 薄っすらと明るみ始めた空にはまばらに白い雲が散っている程度でとてもじゃないが雷などは落ちそうにない。

 この空じゃ、天の雷あまのいかづちは無理か‥‥

 もう一度地面に転がった鞘を見直す。

 バエル相手にいかづちは隙が大きすぎる上に効果は薄いだろう。

 他にも居合い系の魔刀術はあるが(いかづち)に匹敵するものはほとんどない。


「置いていくか‥‥」


 荷物になるとわかっているものを持っていくわけにもいかない。

 クインテットを抜き身で持っていくことを決した俺は地面に刺さった鞘の前まで歩く。

 いつまでも師匠に頼ってばかりじゃ‥‥駄目だよな。

 俺は身にまとっていた紺の外套の留め具を外すと左手でゆっくりと脱ぐ。


「また、来るから」


 俺は鞘の先に紺の外套をかけると先に行った皇の後を追いかけた。






 最果ての城内部、王の間正面扉前。

 最終決戦の際、バエルはいつもこの先で待ち構えている。

 そして今回も扉の先から感じられる魔力でその存在を認識することができた。


「戦いが始まったら俺はすぐに全開でいく。蓮、お前のやるべきことはわかっているな?」


 そう言いながら扉前に立つ皇は左手で背中からエクスカリバーを抜く。


 ここまで来たら、もう引けない。


「あぁ、わかってる」


 俺は皇の右横に立つとクインテットを地面に突き刺し、腰袋から五つの指輪を取り出す。

 指輪にはそれぞれに紅玉、瑠璃、橄欖、翡翠、琥珀と宝石がはめられている。


「しかし、あれだよな」


 俺は左手に親指から順に指輪をはめながら軽く笑う。


「これを全部の指にはめたのは俺が初めてだろうな」


 本来なら一賢者に一つの物。

 そう何個もつける者じゃない。


 俺は全ての指に指輪がはまった左手を慣らすように何度か開いたり閉じたりする。


「無駄口を叩いてないで、早く構えろ」


「はいはい、わかったよ」


 そう言いながら俺は地面からクインテットを引き抜く。

 今回のバエルの強さは未知数。

 最初は様子見もかねて速度重視ていくか。

 俺は慣れた動作で身体中に二種類の魔力を張り巡らせる。

 その隣では極限まで魔力を溜めた皇が、それらを一気に解放しようとしている。



身体強化・天雷クロスブレイブ



身体強化・極オーバーブレイブ



 二人の体から大量の魔力が溢れ出し、光と風雷を生じさせる。

 そして、そのまま皇は前を向いたまま無言で右手の掌を差し出してくる。


「なぁ、お前さ、ソフィアさんと最後になに話した?」


 別にその内容自体に特別興味があるわけじゃない。

 ただ最後にどんな気持ちで皇が戦うのか、知っておきたかったんだろう。


「‥‥別れだ」


 普段なら絶対に答えないであろう質問。

 その答えを聞いた瞬間、俺は少しだけ皇を理解できたような気がした。


「勝つぞ」


「当たり前だ」


 俺は前を向いたまま左手を皇の右手と合わせる。




絆の軌跡ラストフォース




 次の瞬間、俺の中にあった火の魔力が皇と繋がる。

 皇の魔力である光と俺の魔力である炎が混ざり合い、そして調和する。

 その紅い光の魔力は皇の全身をめぐり、膨大な力を宿す。


「いくぞ」


 皇が一気に振り下ろすと真っ赤な光が一瞬で石製の扉を吹き飛ばし、大きな穴を開けた。

 俺と皇は破壊された扉をくぐり抜け、最終決戦の舞台へと足を踏み入れる。



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