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五導の賢者   作者: アイクルーク
六章
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価値なき真実

 

 魔人がいなくなり状況を立て直そうとしているのか、王城にはかなりの兵が集まっていた。

 だがその数は戦う前に見たときに比べ半分もおらず、また集まっている兵も全身に傷を負っているのが大半だった。


 ラノンまだグレイスのところか?


 そう考えた俺が足を階段のほうに向けるとそこには片腕を抑えて兵達に命令をするアドネスの姿があった。


「アドネス!?」


 真っ赤に染まった左腕はあらぬ方向に曲がっており、魔法で治る範囲を逸脱していた。


「レンですか。先ほどは助かりましたよ」


 アドネスが言っているのはバエルと戦った時のことだろう。


 それにしても‥‥


「お前、左腕は痛くないのか?」


 あまりに普段と変わらない様子に不気味さを覚える。


「これですか? これなら先ほど麻痺させてもらったので特に痛みはありませんよ」


 麻痺‥‥雷魔法か。


 だがそれはあくまで一時的なもの。

 傷が治るわけじゃない。


「ところでレンは何をそんなに焦っているのですか?」


「あぁ、ラノンを探しているんだが、どこにいるかわかるか?」


 日没までの時間はそう長くない。


「ラノンですか? この辺りでは見てないので上の階にいるのではないでしょうか」


 上の階‥‥もしかして、まだグレイスの傍にいるのか?


 グレイスを封じる氷はそう簡単に溶けるものではないのだが、やはり心配なところはある。


「そうか、助かった」


 俺はすぐに階段を登ろうと足をかけるも、その動きを止める。

 そんな俺の不審な動作をアドネスは不思議そうに見ている。


「アドネス‥‥一つ、頼みがある」


「何でしょうか?」


 俺はゆっくりと振り向くとアドネスの目を見ながら続ける。


「もし‥‥もしも人類が魔王に負けるようなことがあったら、その時はラノンを守ってくれないか?」


 俺の心境を察したのかアドネスの顔つきが変わる。


「それは‥‥いえ、訊かないほうがよさそうですね」


 アドネスは近くにいた兵達に目配りをしてその場から離れさせる。


「さて、レンが言うのは国を捨ててでもラノンを守れと、そういうことなのでしょう?」


 アドネスは俺の考えていることがわかっているような的確な問いかけをしてくる。


「‥‥あぁ、そうだ」


 実際そうしてほしいと思ってるし、そうするようにと思って頼んだ。

 グレイスやリアはラノンの考えを優先しがちで、ラノンの頼みを無下にすることはほとんどない。

 これを頼めるのはアドネスしかいない。


「いいですよ」


 否定的答えが来ると予想していたがアドネスからはあっけなく承諾の返事が返ってくる。


「ただし、一つだけ条件があります」


 そう告げるアドネスの顔は今までで一番活気があるようにも見えた。


「条件?」


「えぇ、そうです。おそらく今のレンになら答えられるはずです。勇者とは何か、賢者とは何か、そして魔王とは何なのかを」


 そう訊いてくるアドネスの顔には隠し切れない好奇心が溢れ出しており、見たことのない表情をしていた。


「勇者、賢者、それに魔王、か」


「僕は長い間この国の歴史を調べるために本や文献を見てきたのですが不思議なことに一度もそれらの記述を見たことがないのですよ。でも、レンならわかるのではないのですか?」


 やっぱり、いるのか。

 世界の真実を求める者達が。


「それを話したら、ラノンを助けてくれるのか?」


「もちろんです」


「‥‥上で話す」


 俺達は兵達が溢れる下階を離れるために上への階段を上る。

 幸いにも戦力を集中させるためかほとんどの兵は一階にいるのか三階以降は静まり返っていた。


「他の人には話さないでくれ」


 階段をのぼりながら俺はそう頼む。


 アドネスは自己満足で真実を求めている。

 他の人に話すことはそうそうないだろう。

 俺はゆっくりと賢者達の記憶を思い起こしていく。


「今から三四百年ほど前、この世界に突如として人間よりも遥かに強い存在が現れたんだ。それがソロモン七十二柱、全七十二体の悪魔達だ」


「それぞれが異形の形を成し、単騎で万を超える人を圧倒するほどの存在。それは人間にとって恐怖の象徴でしかなかった。どうやっても勝てず、ただ殺され続ける日々。そんな時代に終止符を打ったのが、初代勇者および初代賢者達だ」


 アドネスは興味深そうに、そして嬉々とした表情で話しを聞いていた。


「彼らは正面から戦うことを限界を感じ、封印の術式を組むことで異次元の空間へと悪魔達を封印しようとしたんだ。そして、見事にその目論見は成功し全ての悪魔を魔法陣の中へと封印することに成功した。だが、そこで一つの誤算が起きた」


 それこそが全ての始まり。

 多くの人の人生を変えた、たった一つの誤算。


「魔法陣を完全に閉じきる前にたった一つの魂が逃げ出したんだ。異次元に体を置いていくことで、魔法陣を通り抜けたんだ。そして、その後その魂は外にいた人間へと憑依した」


「それが魔王というわけですか」


 アドネスの顔からは笑みが消えており、深刻な表情をしていた。


「いや‥‥少し違うな」


 今の時代を生きている人は魔王が何なのかすら理解していない。

 国民はおろか王でさえ真実を知る者はいない。


「少し? どういうことですか?」


 ある人はどうしようもない災害だと考え、ある人は自然と湧いてくる魔物と同列のものと考えている。

 けど、本質はまるで違う。


「その時に生まれたのが初代魔王。未来永劫に続いていく戦いの始まりだ」


「未来永劫‥‥?」


 魔物は魔物の中で生態系が構築されているためその数が増え続けるようなことは決してない。


「いくら俺たちが魔王を倒そうともその魂を屠ることはできない。つまり魔王を倒したとしても、奴はまた次の人間へと器を変えるだけ。奴が敗北をすることは決してない」


 アドネスは俺から目線を逸らすと何を考えているのかうつむいたまま黙り込む。


「そして俺たち‥‥勇者と賢者の魂を受け継ぐ者はこの王都が陥落すれば召喚自体が行われなくなり、二度と生まれることがなくなる」


 言ってしまえば相手が残機∞に対してこちらはゼロ。

 たった一度の敗北で人類は滅びることになる。


「‥‥魔王を、魔王を復活させない方法は、何かないのですか?」


 分かりにくいがどうやらアドネスも動揺しているようで、額に薄っすらと汗が見えた。


「ない。歴代の勇者や賢者達も魂まで干渉することだけはできなかった」


「そう‥‥ですか」


 この事実は人々が絶望するには十分すぎる真実。

 それゆえ、隠されてきた。


「これが魔王に関する全ての真実だ。満足したか?」


「決して知りたくはなかったことですが、知れてよかったと思います」


 アドネスはこの真実をどうにか前向きに受け止めたようで、またいつもの笑顔を見せながら軽く頷いた。


「じゃあ‥‥アドネス」


「えぇ、わかってます。例えラノン本人に恨まれようとも約束は果たします」


 俺が口に出すより早くアドネスは答えると、もう一度だけ力強く頷く。


「悪いな」


 俺はそれを見てなんとなく思った。

 おそらくアドネスは今、この国の兵士としてではなく一人の男としてこの頼みを引き受けてくれたんだろう。


「こんな所にいつまでもいないでラノンと一緒にいたらどうですか? 僕は仕事に戻りますので」


 アドネスはそう言うと足の向きを反転させ来た道のほうを向く。


 こいつなりの気遣い、か。


「それもそうだな。じゃあな、アドネス」


「はい、さようなら」


 それだけ言って俺たちは背を向けて歩き始めた。



これからの最終話まで毎日投稿にしたいと思います。

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