最強の勇者VS五導の賢者
俺は案内の兵士に連れられ、休憩所からスタジアムへの道を歩いていた。
長く続く石造りの道は明かりが少なく、全体的に薄暗い。
前方から聴こえてくる歓声は遠くからのものだとわかっているにも関わらず、うるさいと感じてしまうほどだった。
俺は一度、目を瞑り精神を研ぎ澄ます。
相手は勇者‥‥生半可な相手じゃない。
実力的には魔人化した師匠以上。
はっきり言って俺とは強さのレベルが違う。
だが、俺に出来る限りのことはやった。
目を開くと、呼吸を整え戦いへの気概を高める。
そうしている間に暗い道の終わりが見え始め、次第に歓声が大きくなっていく。
「さぁ、着きました」
案内の兵士はスタジアムに出る直前の場所で立ち止まると俺を促すように道を開ける。
「‥‥行くか」
俺は耳をつんざくような騒音の中へとその身を飛び込ませる。
まだ瞳孔が開ききってないせいもあり、大きく開いた天井から射す太陽が眩しく感じられる。
少しづつ慣れてきた目で辺りを見回すと俺の前方に人影が見えた。
‥‥皇、か?
スタジアム全体に広がっている土の上を歩きながらコロシアムの中心に向かう。
スタジアムにある客席は八割以上が埋まっているようで、様々な雑音が四方八方から聴こえてきた。
「ちゃんと逃げないできたんだな」
光に慣れてきた俺の目には黒の服をまとい、聖剣を地面に突き刺している皇がいた。
「あぁ」
皇の着ている服は見た限り普通の服ではなさそうで、魔物の素材から作られているものだと想像がついた。
見た限り他の装備は見られず、皇はエクスカリバーのみで戦うつもりのようだ。
「で、俺に勝つ算段はついたのか? 負け戦をしに来たわけでもないのだろ?」
俺は外套に手をかけると勢いよく脱ぎ捨てる。
「あぁ、俺はここでお前を倒す」
敵を前にしているというのに余裕を保ち続ける皇。
あくまで俺に圧勝するつもりか。
「言うじゃないか。だが三年間も戦いから逃げていた臆病者に、俺が負けると思うか?」
俺は皇の問いを無視して、左手に持っていたクインテットの柄を握る。
「蓮がのんびりと修行でもしている間に俺は幾千もの戦いを乗り越えた。たかだか魔人を数十体倒したくらいで英雄を気取るのは止めておけ」
皇の冷たく敵意が剥き出しの声。
俺と皇との間の空気が凍ってから数秒後、コロシアムの上方にある鐘が三度鳴らされる。
それを聞いた皇は地面からエクスカリバーを抜くと、その大きな刀身を難なく持ち上げ、体の前で構えた。
コロシアムで人対人の試合を行う際は開始直前の合図として鐘が三度鳴らされる。
その後、コロシアムの特待席から剣が投げ捨てられ、それが地面に刺さった瞬間に試合が始まる。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
静まり返った群衆は息を呑んで俺と皇に視線を送っている。
五メートルほどの間合いを互いに詰めることをせず、また空けることもしなかった。
俺は高ぶる呼吸を必死に抑えながら剣が落とされるのを横目で待ち続ける。
実際には十秒かそこいらの、短い時間だっただろう。
だが俺はまるで一分以上続いているかのような感覚に囚われていた。
そして、その時はきた。
宙に投げ捨てられた両刃剣は弧を描きながら落下していく。
剣が地面に着くより早く俺は視線を皇に向けると耳に全神経を集中させる。
ザッ
「雷っ!!」
刹那に俺は鞘からクインテットを引き抜くと、その中に溜めていた全ての雷を皇に向けて放つ。
放雷の際の激しい光がスタジアム全体を覆う。
この程度で倒れるわけはない。
見ると皇はエクスカリバーを盾にして俺の雷を受け切っていた。
やはりな。
「身体強化・雷」
飛蓮・旋
俺は即座に皇の後ろに回り込むと風の魔力を通したクインテットを振り下ろす。
「身体強化魔法」
光が皇を包み込んだかと思うと、次の瞬間には正面に構えていたはずのエクスカリバーがクインテットを受け止めていた。
くっ‥‥速い。
身体能力で劣る俺は鍔迫り合いを避けるために即座に飛蓮で後ろへと跳ぶ。
「まさかここまでとは。想像以上だ」
皇は体を慣らすようにエクスカリバーを左手一本で何度か振るうと、俺の方に体を向けてきた。
あの反応速度‥‥まともにやり合うのはやっぱり不利か。
皇の姿に目を凝らしていると突如その姿がぶれる。
「くっ‥‥」
飛蓮
咄嗟に後ろに跳んだ俺は左から迫ってきていた皇のエクスカリバーを回避した。
ギリギリ反応はできる。
だが‥‥
大きく空振りした皇の視線が俺に向けられると再び体がぶれる。
「っう、身体強化・土。加重剣」
回避は無理だと判断した俺は瞬時に受けることに思考を切り替え、茶に染まったクインテットで正面からくるエクスカリバーを受け止める。
「ぐっ‥‥かっ!!」
まるで隕石でも受け止めているような感覚だ。
強化しているにも関わらず肉体は悲鳴を上げ、全身から骨が軋むような音が聞こえてきた。
「これを止めるのか。だがな‥‥」
皇はエクスカリバーを引くと、少ない動作で今度は切り上げを放ってきた。
まだ体の痺れていた俺に回避する術はなく、止むを得ず受け止める羽目なる。
だが、下からの攻撃を防ぐには踏ん張りが利かず、受け止めたクインテットごと上空へと打ち上げられる。
やばっ‥‥
数メートルほど打ち上げられた俺はすぐに皇の攻撃に備えて魔力を左手に集中させる。
「閃光矢」
俺に向かって突き出された皇の手から光輝く矢が放たれる。
これは‥‥下級魔法の矢系?
それは五属性全てに存在、誰もが最初に覚えるような魔法。
だが‥‥
俺は左手を矢を受け止めるように突き出す。
「氷晶盾」
俺の体の前に作り出される大きな氷の結晶。
それは一瞬で俺の体を全て覆えるほどの盾となる。
上級魔法のこれなら‥‥
光の矢を受けた盾に凄まじい衝撃が走り、瞬く間に亀裂が入った。
「ぐっ‥‥」
やがて皇の放った矢は光を失うと共に消えていく
俺が役目を終えた盾への魔力供給を断つと、ボロボロだった氷はあっという間に崩れ去る。
「身体強化・風」
近接戦を続ければ負けるのは必至。
なら、魔法の撃ち合いに持ち込む。
エクスカリバーを構え佇んでいる皇に追撃を仕掛けてくる様子はない。
空蓮
俺は足に風を集中させると、それの上で全力の飛蓮を使う。
連続で使用することができない上に魔力消費も激しいが、空中での移動にはかなり便利だ。
皇から大きく距離を置いた俺は地面に着地するや否や魔法の詠唱を始める。
皇に動きはない、受けるつもりか‥‥なら!!
俺は身体強化・風を解除するとクインテットを地面に突き刺し、並列詠唱に切り替える。
「何をするつもりかはわからないけど、ガッカリさせないでくれよ」
「あぁ‥‥当たり前だ。隆天地裂」
俺が左腕を地面に置くと、皇との間の地面が隆起し十メートル近くある壁となる。
これを壊しにくるか、飛び越えてくるか‥‥
皇の次の行動を待っている間、俺は腰袋から手の平サイズの小袋を取り出すと、目の前で着々と大きくなっている水の中へと放り込む。
すると皇が軽々と土壁を跳び越え、その姿を現わす。
「水の魔導書」
俺は目の前に蓄えていた巨大な水の球体から皇に向けて放水を始める。
技も何もない、ただ圧倒的に水量で相手を押しのける魔法。
いくら勇者といえども形のない水を蹴散らすことは容易ではなく、あっという間に水の中に呑み込まれていった。
「神をも射抜きし雷が天より堕ちる。その力は一の神を殺し、十の龍を殺し、百の英雄をも殺す」
水に流され土壁に叩きつけられる皇を見ながら俺は新たな魔法の詠唱を始めた。
皇は押し寄せる水からエクスカリバーで身を守っており、身動きが取れていない。
今が好機。
「人が扱うにはすぎる力、ゆえに我はこの力を使おう。紫電煌雷」
放たれた雷は一直線に皇の下へと向かっていく。
当の皇は土壁と水に挟まれ身動きが取れずにいるため躱す術はない。
雷は水もろとも皇に命中し、大量の水の中を一気に電流が駆け抜ける。
エクスカリバーで全身を隠しているため皇の様子はわからないが、あの水の中にいる以上、無事ではないはず。
やがて魔法の効果が切れ俺の手からの雷の放出と、皇を押し付けていた放水が止まり落下する。
やったか?
水が染み込み小豆色に染まった地面のど真ん中に皇は倒れていた。
俺はクインテットを地面から抜き取ると、慎重に一歩一歩皇に近づいていく。
うつ伏せに倒れていた皇は左手にしっかりとエクスカリバーを握っており、いつ動き出すかもわからない以上、ここで近づくようなヘマはできない。
俺は片手で皇の体まで繋がっている水溜りに触れると雷の魔力を集中させる。
「撃雷衝」
水の上を伝わり雷が皇の体まで届く。
直後に皇は大きく跳び起きると水溜りから逃げるように後ろに下がった。
「随分と慎重だ。せっかく待ち構えていたのに、意味無しか」
俺は水溜りに雷を流したまま皇に話しかける。
「どうやって凌いだ?」
俺が使ったのは両方とも最上級魔法。
特に魔法を使ったようには見えなかったが、生身で耐えられるとはとてもじゃないが思えない。
「実戦で敵に能力を訊いて教えてくれるとでも思っているのか?」
相変わらずの皇による嫌味ったらしい返し。
だが‥‥
「いや‥‥そんなわけないだろ。ただの時間稼ぎだ」
飛蓮
俺は雷を流すのを止めると、即座に全力で皇から離れる。
「火炎矢」
後退しながら俺が放ったのは下級魔法の火炎矢。
燃え上がる炎の矢は真っ直ぐと皇の下へと飛んでいき‥‥空気中で大爆発を起こした。
その規模は皇はもちろんのこと、離れた俺の下までその余波が届くほど。
爆風で舞い上がった土煙に視界が遮られてしまうため、爆発地点からさらに離れることで視界を確保する。
水素爆発
俺が水の魔導書を使った際に水の中に投げ入れたのは水酸化ナトリウムの固体が入った袋。
水に溶けた水酸化ナトリウムは二つの役割を果たした。
一つは電気伝導率を高め、皇に水中から直接的に電撃を喰らわせること。
もう一つが魔法が解けた後に雷で水の電離を起こすことにより水素と酸素を作り出すことだ。
可燃性の高い水素は僅かな火で燃え上がり大爆発を起こす。
日本にいた頃の知識で試してみたが、予想外に上手くいったので水酸化ナトリウムを用意してきた。
かなりの威力があるはずだが最上級魔法をものともしなかった皇なら‥‥
そう考えていると土煙の中から僅かに光を感じる。
「っく!!」
反射的に頭を下げると、土煙の中からレーザーのような光が飛び出し、横一直線に振るわれた。
その光はコロシアムの石壁をえぐり、綺麗に削られたような跡を残す。
‥‥なんだ今の?
レーザーみたいな攻撃まで使えるのかよ。
次の瞬間、土煙の中から皇が文字通り飛び出てくる。
ダメージは‥‥なさそうだな。
地面に着地した皇の姿にさっきまで変わっているところはなく、余裕気な表情でこちらを見てくる。
「今の攻撃は中々よかったが下準備が多すぎだ。防ごうと思えばいつでも邪魔はできた」
今ので‥‥駄目か。
正直、これでノーダメージになるとは思わなかった。
最強の称号は伊達じゃない、か。
俺と皇の距離は十メートルあるか、ないか。
普通なら中距離に分類されるがこの場合は近距離以外の何ものでもない。
「身体強化・雷」
俺は全身に雷をまとい皇の近接に備える。
「その魔法、少し興味がある。じっくりと見せてもらおうか」
皇がエクスカリバーを後ろに構えたまま真っ直ぐと向かってくる。
その速さは俺が身体強化・雷を使った状態での飛蓮と同じくらいであり、正に目にも止まらぬ速さだった。
飛蓮
俺はフェイトすら無い振り抜きをバックステップで回避するとそのまま後ろに逃げようとする。
「ワンパターンだ。逃げるしか能がないのか?」
一段階速度を上げた皇は一瞬で俺の後ろに回り込む。
「くっ‥‥そ」
飛蓮を使う暇のなかった俺は足払いを跳び上がって避けると、宙にいる状態で体を捻りクインテットを振るう。
「雷閃」
体重も乗っていない軽い一撃だった。
おそらく皇なら容易に受けることができただろう。
だが、皇はそれを大きく仰け反って斬撃を躱す。
地面に足の着いた俺は両手でクインテットを構え待ち受けるが、意に反して皇はその場で静止していた。
「体内に雷を流すことでリミッターを外しているのか。その代償としての激痛は神経を麻痺させることで誤魔化している、そんなところか」
自信ありげに語り出す皇。
そして、その言葉は実際にその通りだった。
身体強化・雷は一時使うだけで体に凄まじい負担がある。
今は感じてすらいないが解除してしまえば瞬く間に全身が激痛に襲われる。
「俺はこうでもしなきゃ、戦えないんだよ」
飛蓮
俺は思い切って前へと踏み込むと受けられるの覚悟でクインテットを振るう。
「魔刀術、地割れ」
その重い一撃は皇に守りの一手を打たせる。
飛蓮・旋
俺は即座に皇の背後に回ると燃え上がるクインテットを振り抜く。
「炎刃」
完全に虚をついたつもりだった。
だが皇は後ろを向いたままクインテットを腕で受け止めてる。
クインテットと触れ合う右腕では光で完全に守られており、一切炎を寄せ付けていない。
「ちきしょう‥‥」
予想を遥かに超える皇の強さに、つい口から愚痴が溢れてしまう。
「悔しいか? だったら、蓮。お前は弱い。それを認めればいい。少しは楽になる」
皇は背中を向けたまま上向きに語る。
「確かに‥‥確かに俺は弱かった」
飛蓮
俺はクインテットを引くとともに皇から距離を取ろうとする。
だが、それを皇が逃すはずもなく、勢いよく地面を踏みしめると飛蓮の速度に肉薄する速さで走り出す。
「そう、お前はあろうことかたった一人で五人の賢者を殺すに等しい蛮行を犯している」
それは違う!!
そう言いたかったが、俺にそれを言うことはできなかった。
なぜなら、それは俺も考えてしまうことだから。
たまに思うんだ‥‥もし俺がいなかったら、賢者がちゃんと五人揃っていたら、って。
でも‥‥
「弱かった俺は死んだんだ。この三年間で、俺は強くなった」
皇の斬撃を飛蓮で躱すとまた逃げるように後ろへと跳ぶ。
「強くなった? この程度の実力で何をするつもりだ?」
相変わらず追ってくる皇は疲れた様子一つ見せない。
確かに皇にしてみれば俺の変化なんて些細なものなのかもしれない。
それでも俺はこの強さに‥‥師匠のくれたこの力に、胸を張って戦う。
「ここでお前を倒し、ラノンを守り抜くっ!!」
ここで負けたら‥‥ラノンが。
そう考えるだけで力が湧き上がってくる気がする。
この戦いだけは、負けられない!!
俺は後ろに下がりながらも向かってくる皇に左手を向ける。
「撃雷衝」
俺の放った牽制の一撃に皇は足を止め、エクスカリバーで雷をかき消した。
足が止まった、それだけで十分だ。
「白霧影」
俺が魔法を使うと大量の霧が生じ、辺り一帯が見えなくなるほどまで立ち込める。
だがさっき皇が土煙の中から俺のいる位置がわかったことを考えると、よほど感知能力が高いのだろう。
「白霧影、白霧影、白霧影」
視界を覆い尽くす霧はこれでもかというほどまで密度が増し、自身の体ですら見えなくなった。
ここで決める。
「逃げているだけで、俺は倒せないぞ」
離れた所から聞こえてくる声は多少なりとも皇の位置を特定させた。
その声を頼りに全力で跳び上がった俺は霧から抜け出すと、皇のおおよその位置に見当をつける。
これで、最後!!
俺は真っ白な霧のドームの中に感覚だけを頼りに左腕を伸ばす。
「絶対零度っ!!」
俺が魔法を放つとドーム状の霧のど真ん中に巨大な穴が生まれる。
その中には全身が凍りつき、氷像のように動かなくなった皇の姿があった。
氷晶核
空気中の水は氷になる際、何かを核とすることによってその形を形成する。
俺は大量の水が立ちこめる霧を魔法で急速に冷やすことで皇を核にそれらの水を凍らせたのだ。
これはさすがに動けないだろう。
皇は全身を厚い氷に覆われ、真っ白な姿となっている。
俺は地面に降り立つと即座に落下中に唱えていた魔法を使う。
「突風」
俺の周りに風が吹き、視界を覆い尽くしていた霧を払う。
開けた視界にはエクスカリバーを含む全身が凍りついた皇が映る。
「これで勝──」
突如、視界が歪む。
地面に膝をついた俺は呼吸を整えてから皇へと視線を戻す。
さすがに短時間に魔力を使いすぎたか。
俺はクインテットを握り直すとふらついた足取りで一歩一歩、皇との距離を近づいていく。
ピキッ
不意に氷の割れる音がした。
ピキピキピキッ
その音は次第に大きく、連鎖的に広がっていき‥‥次の瞬間には皇を覆い尽くす氷が粉々に砕け散った。
「勝った‥‥とでも思ったか?」
無傷の皇は体に付いた氷を払いながら腕を回す等の軽いストレッチをしている。
どういうことだ?
確かに決まったはずだ。
呆気を取られた俺は体から力が抜け、その場に跪く。
普通なら体まで凍り始め、時間が経つほどに動けなくなるはず。
俺は皇が割った氷の破片に視線を向ける。
薄く湾曲した形をしている氷。
‥‥そういうことか。
「なかなかいい攻撃だった。ただ相手が悪かった、それだけのことだ」
皇は再び光をまとうとエクスカリバーを俺へと向けてくる。
おそらく皇の身体強化には鎧のような使い方できるはず。
それならば今までの攻撃を受けていられたのにも納得がいく。
「いい加減相手をしているのも面倒になってきた。次で終わりにする。死にたくなければ棄権しろ」
皇の握るエクスカリバーが放つ光量が明らかに増加している。
おそらくこの言葉、ハッタリではない。
そして今、皇から感じ取れる魔力は膨大で最上級魔法を優に超えている。
あぁ‥‥これはまともに喰らったら死ぬな。
俺はクインテットを地面に強く突き刺すと、それを杖代わりにして立ち上がる。
けどさ‥‥俺は、
「負けられないんだ。俺はこの戦いを諦めることだけは、絶対にしない!!」
「そうか‥‥なら、死ね」
皇が空高く跳び上がるとエクスカリバーの刀身にまとわりつくように魔法陣が浮かび上がってくる。
皇の言い方からしておそらくは範囲攻撃。
天の雷が使えたとしてもそれは受け切れるかわからない。
俺に残された手段は‥‥一つしかない。
地面に突き立てられた透き通った刀身の刀を抜く。
「全てを焼き尽くす紅蓮の炎」
刀を一振りするとその刀身に紅き光が灯る。
「鋭く研ぎ澄まされし天色の氷」
刀を一振りするとその刀身に蒼き光が灯る。
「音をも超えて駆ける藤黄の雷」
刀を一振りするとその刀身に黄金の光が灯る。
「幾千の鋼を断ち切った常磐の風」
刀を一振りするとその刀身に翠の光が灯る。
「決して貫かれることなき琥珀の土」
刀を一振りするとその刀身に赭の光が灯る。
「それがお前の切り札か。なら、この魔法を打ち破ってみろ。聖光剣」
皇が振り上げているエクスカリバーが光り輝いたかと思うとその光がエクスカリバーを覆い尽くし、巨大なる剣となる。
あれは‥‥避けられないな。
五色に染まった刀を構え、俺は走り出す。
「覚えているか? 俺とお前が初めて会った時のことを」
皇はエクスカリバーを掲げたまま待ち構えている。
「あの時、俺がお前に割れなかったオーブを割ったことを」
俺がクインテットを後ろに構えると、その刀身で五つの色の境界が崩れ出す。
それらは互いに混ざり合い、最終的に黒き刃となる。
待ち構えてたかのように振り下ろされるエクスカリバーに俺は飛び込んでいくとクインテットを力一杯振り抜く。
「五導の斬撃っ!!」
黒の刀と白の大剣がぶつかり合う。
一瞬拮抗したかに見えたが、それは瞬く間に崩れ去った。
片方は抑えきれなかった相手の魔力に武器を弾かれ、そのままコロシアムの端まで飛ばされる。
やがて勝者はゆっくりとした歩調で壁に叩きつけられた相手の下へと歩いていくと、敗者を見下ろす。
敗れたのは
俺、秋空=蓮だ。




