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五導の賢者   作者: アイクルーク
第三章
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僅かな希望を‥‥



 

 八体の魔人が来た。


 ムーフェイス家にて事後処理をしていた私達の下に来たハンターは動転した様子ながらも確かにそう言った。

 魔人が八体‥‥そんなの誰もが死を覚悟するでしょう。

 ハンターはさらに続けた。


 魔人達は北門に並んでラノン=カルトクラティアを差し出すよう言った。

 ラノン=カルトクラティアが来なければこの街を殲滅する、と。


 それは他の誰でもない、私の名前でした。

 そう、魔人達は私を狙ってこの街まで来たです。

 私の足は自然と屋敷の入り口へと向かう。

 だが、北門へと向かおうとする私の肩をアドネスが掴む。


「どこへ行くつもりですか?」


「私は、北門に行きます」


 魔人に見つかれば私は容赦なく殺されるでしょう。

 それでも、この街の人々が助かるのなら、私はそれでいい。


「正気とは思えません。ラノンが北門へ行ったところで殺されるだけです。ここはどこかに姿を隠しましょう」


 アドネスの言い分は最もだと思います。

 ですが、私はここで引くわけにはいきません。


「私が行かなければこの街が滅びます」


「ラノンが行ったところでこの街が安全である保証はありません」


「それは‥‥」


 私は言葉に詰まる。

 それはアドネスの言い分が正しいと認めることなってしまう。


「なら‥‥なら、私が魔人を全て倒します。そうすればこの街を救うことができるはずです」


 魔人八体を倒す。

 私にそんなことができるでしょうか。

 いえ、私はやらなければならないです。


「何を言い出すかと思えば、あの時に魔人の強さは散々実感したじゃないですか」


 フォールさんと出会う少し前の記憶が呼び起こされる。

 たった魔人一体に多くの人が殺され、私達四人が全てを出し尽くして勝てた相手。

 そんなのが八体もいる。

 いや‥‥あれよりも上位の魔人がいるかもしれません。

 思い出すだけで気分が悪くなります。

 ですが──


「私には、この街の人々を見捨てることなんてできません!!」


 私は手に持っていた大杖を体の前に構える。


「もしアドネスが私を止めるのなら、フォールさんと同じように、私もあなたを倒して進みます」


 精神を研ぎ澄ませて臨戦態勢に入る。

 アドネスは深いため息を吐くと、体の前で拳を構える。


「変わりましたね。これもフォールの影響でしょうか。ですが、対人経験のほとんどないのに、僕に勝つのは無理だと思いますよ」


 私とアドネスの距離は二歩ほどしかない。

 魔導師が戦う間合いとしては明らかに少ない。

 多分、魔力を込めている間に接近される。

 どうしたら‥‥


「えっ‥‥?」


 策を巡らせていると、私の前にグレイスとリアが庇うようにして立つ。

 グレイスはシルフィードを、リアは二本の小杖をアドネスに向けていた。


「どういうつもりですか?」


「てめぇこそどうゆうつもりだ。ラノンを守るのが護衛じゃねぇのか!?」


 アドネスはグレイスの怒鳴り声に気圧され一歩だけ後退する。


「えぇ、そうですね。僕はラノンを守るために引き止めているんです。邪魔しないでもらえますか」


「ラノンを守るために引き止めるだぁ? 違えだろ!! 俺たちの仕事はラノンを守ることだけだ。魔人が八体いるなら、全部倒して守ればいいだけのことだろうが!!」


 グレイスの言葉が私の心に響く。

 グレイスはどれだけ危険なことかわかっているでしょう。

 それでも、私についてきてくれる‥‥


「そうそう。考えるのはラノンの仕事で戦うのが私達の仕事、でしょ?」


 リアもついてくる気のようですね。

 胸の奥から言葉にできない気持ちが溢れ出してくる。

 アドネスは表情を歪めながらグレイスを睨みつけていた。


「あなた達‥‥正気ですか?」


「正気に決まってんだろ。時間がねぇんだ。退くか戦うか、ハッキリさせろ」


 グレイスはいつでも戦えるようにシルフィードの先端部をアドネスに向けている。


「一つだけ、質問です。勝算は‥‥あるのですか?」


「‥‥あれを、使います」


 アドネスの質問には私が答える。

 上手くいけば、勝てるかもしれない。

 おそらく今、この街を救える唯一の方法でしょう。

 アドネスは数秒間、その場で考え込むと不意に全身から力を抜く。


「僕の負けです。ここで無駄に争って、消耗したあなた達を行かせるくらいなら僕も同行しますよ」


「アドネス‥‥グレイス、リア、ごめんなさい」


 みんな、私の我儘に付き合わせてしまった。


「そんな今更どうしたの。さっ、早く行きましょ」


「そうですね。行くなら急いだ方がいいでしょう」


「んじゃあ、行くぞ」


 私達四人は北門に向かって駆けて行った。






 北門の門前までくるとすでに多くのハンターが待機しており、それぞれが緊張した面持ちで慣れ親しんだ武器を手にしている。

 その中心には以前に何度か会っていたギルド長のアーツさんの姿があった。

 アーツさんは私達に気づくと周りとの会話を止めて、こちらに向かってきた。


「ラノン様。どうして来たのですか? 狙われているのは──」


「私です。ですが私のために皆さんが戦うのに私だけ隠れているなんて、できません」


 私はアーツさんの目をしっかりと見てそう言うと、やがて諦めたかのように首を横に振る。


「わかりました。ならば、ラノン様は後方支援をお願いします。そちらの護衛達は‥‥」


「僕たちは僕たちで動きます。まずは今の状況を説明してください」


 アドネスはここに来る際に持ってきた大型の盾を地面に置くと、素早く状況把握に入る。


「今この場にいるのはハンター七十二に騎士が二十二、魔導師が十一人です。最低でもDランク以上の実力者で構成されていますが‥‥」


「敬語じゃなくていいですよ」


 アドネスは鋭くもアーツさんが敬語を使い慣れていないことを見抜く。


「そう? なら、そうさせてもらうよ。多分敵は門の外にいる魔人八体だけで、こちらの様子を伺っているのか並んで立っている。見た感じだと三位級が五体で二位級が三体だと思う」


 二位級が三体‥‥

 二位級の魔人は三位級よりも数段上の身体能力を持っているとの話。

 人間の中で近接戦で勝つことができるのはたった一人。

 光属性魔法の一つで、この世界で唯一の身体強化ブレイブが使える勇者のみ。


「わかっているとは思うけどまともにやったらこっちが全滅するのは目に見えてる。だからまず前衛と後衛に別け──」


 アーツか話していると突然、北門から激しい爆発音が聞こえる。

 北門を塞いでいた木の部分に亀裂が走ったかと思うと次の瞬間には粉々に砕け散っていた。


「全員下がれぇ!!!!」


 アーツさんがその場にいた全員に聞こえるほどの声量で指示を出すと、自分は木の矢を弓にセットして破壊された門へと向ける。

 その場にいた全員がアーツの指示に即座に反応し、門を半円状に囲むようにして位置取った。


「ほーら、やっぱり。人間は俺達と戦う気だよ」


 木屑舞い上がる中から次第に一つ二つと人影が見え始める。


「けっ‥‥無駄なことをよくやるぜ」


「皆さん、魔王様の命令を忘れてはいないでしょうね」


 視界が晴れるとそこには余裕そうな顔をした八体の魔人がいた。



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