どうして?
目から生気の消えたゼスタリアスがその場で崩れ落ちる。
「お父様っ!!」
慌ててルナがゼスタリアスに駆け寄ると何度も体を揺すり続ける。
「どうして? お父様が何をしたのよ!?」
ルナは目から大粒の涙を零しながら俺を睨みつけてくる。
「一年ほど前からこの街に出没する殺人鬼、その正体はこいつだ」
「えっ‥‥?」
ルナの動きが止まり、見開いたその両目でゼスタリアスの顔を見る。
「俺は、そいつに大切な人を殺された」
「だからって、だからって殺す必要はないじゃないの!!」
ルナは涙を流しながらも俺の胸元に掴みかかってくる。
だが、俺が少し殺気を出すだけでルナはその場にへたり込む。
「どうしてそこまで‥‥」
ルナは泣きじゃくる顔を両手で覆い、うつむいて泣き続ける。
「これで、俺の復讐は終わりだ」
俺はルナを尻目に倒れているゼスタリアスの前でしゃがむと止まった心臓の上に手を乗せる。
「拍雷」
俺の手から心肺蘇生の仕組みと同じように、高圧の電気が流れ衝撃を加える。
強い衝撃の加わったゼスタリアスの体が床の上で跳ね上がるとその瞬間、閉じていたその目が開く。
それを横から見ていたルナが顔を明るくさせてゼスタリアスの横に寄り添う。
「お父様!!」
「私は‥‥」
ゼスタリアスは困惑しながらも俺と視線を交える。
「俺はあんたのことを殺した。これで‥‥俺の復讐は終わりだ」
俺はその場で立ち上がると二人に背中を向ける。
「別にあんたを許したわけじゃない。ただ、これ以上は何もしない。だから、ルナを助けてやれ」
背後からは鼻のすする音が聞こえる。
「‥‥すまない」
これで、よかったんだ。
ドンっ
この家の玄関の扉が勢いよく開かれる。
そこからは見慣れた姿の四人が屋敷の中へと入ってくる。
その四人は周りの惨状に足を止めるが、こちらを見つけると近づいてきた。
すぐ近くまで来たところで四人は足を止める。
「フォールさん? どうしてここにいるんですか?」
「ラノン‥‥」
ラノンは迷わずに俺に近づいてくるが、それをアドネスがそれを手で静止させる。
「フォール。これは一体どういう状況か、説明してもらえますか? 今のあなたは、少し様子がおかしい」
俺が血に濡れたクインテットを持っているからか、アドネスはかなり用心しており、俺の間合いからギリギリ外れるように立っていた。
「‥‥ただ、遊びに来ただけだ」
「嘘ですね」
アドネスは即座に答える。
気づけば、後ろにいたグレイスとリアも武器を手にしており、ラノンを庇うように立っていた。
「フォールはミーアを殺したのがその男だと気づいてここまで来た、そこまではわかります。その後、一体何があったのですか?」
俺はチラッと後ろにいるゼスタリアスとルナを見る。
ルナが怯えた様子でゼスタリアスを抱き抱えていた。
アドネス達の目的はわかってる。
「お前ら、ゼスタリアスを捕まえに来たのか?」
ラノンが殺人鬼を捕まえることを引き受けたことは聞いている。
どうやったかは知らないが、ここに辿り着いたのだろう。
「ええ。領主が殺人を犯しているとは考えたくないのですが、次の領主にでも捌いてもらいます」
「えっ‥‥」
後ろから悲しそうなルナの声が聞こえる。
「フォールだって、ミーアを殺した奴は憎いでしょう?」
アドネスの言う通りだ。
俺はゼスタリアスが憎い。
クインテットを持っていた手から力を抜くと、張り巡らせていた警戒を解く。
アドネスは笑いながらゼスタリアスを捕まえようと足を運び、クインテットの間合へと入る。
だが‥‥
ギンっ
「やはり、ですか」
俺の振るったクインテットはアドネスが即座に抜いた剣で防がれる。
そのまま鍔迫り合いになると互いに引かず睨み合いになった。
「お前は正しい。国に使える者として当然のことをやっているだけだ」
「なら、その剣を引いてはもらえませんか。フォールが味方をする理由が見当たりません」
俺がクインテットを振るう力を一層強めると、力負けしたアドネスが後ろに押し返される。
アドネスは剣を構え直すと、俺とアドネスの間に張り詰めた緊張感が生まれる。
「フォール、最後の忠告です。剣を引いてください」
アドネスは強い。
俺だって今の状態で勝てるかどうかわからない。
「お前が規律を重んじているように、俺にも引けない理由があるんだ。ルナ!! ゼスタリアスを連れてここから離れろ」
「‥‥うん、わかった。フォール、気をつけてね」
ルナは渋々答えるとゼスタリアスに肩を貸しながら、最も近くにあった扉へと向かっていく。
「フォールくん。すまない」
ゼスタリアスの弱々しい声が聞こえるが、振り返ることなくアドネスを睨み続ける。
「グレイス。後を追ってください」
アドネスだけじゃなく、他の三人も加わったら勝機は薄いな。
そうなったら‥‥
「てめぇ、誰に命令してんだよ。俺はてめぇの部下じゃねぇ」
グレイスはシルフィードを背負ったまま動こうとしない。
あくまでラノンの護衛ってことか。
「ラノン、グレイスに命令してください!!」
アドネスの声に焦りを感じる。
ラノンは少しの間迷うと、意を決したようにアドネスの隣に並ぶ。
「フォールさん。どうしてゼスタリアスさんを庇うのか、理由を聞かせてください」
僅かに潤んだ美しい蒼い瞳が俺に向けられる。
‥‥そんな目で、見られたくはなかったな。
「ゼスタリアスの娘、ルナは病気でもうすぐ死ぬらしい。ゼスタリアスは娘を生かすために自分の魂をルナに与えようとしている」
もしここでゼスタリアスが捕まれば、今までの犠牲は水の泡。
ミーアの死も‥‥価値のないものになってしまう。
それだけは、させない。
俺はクインテットを握り直す。
「もし、私たちがゼスタリアスさんを捕まえたら、ルナさんはどうなるのですか?」
「死ぬだろう」
後ろで扉の開かれる音がする。
刹那に俺は魔力を左手に集中させると、ラノンを含めた四人に向ける。
「天雷牢」
俺の手から放たれた雷が四人を囲むようにして流れる。
「拘束系か」
四人が麻痺して動けなくなった隙に俺はルナとゼスタリアスが逃げた扉へと駆けた。
「フォールさん!!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが足を止めずに扉をくぐり抜けた。
扉を抜けると俺は近くにあった飾り棚を倒して扉が開けられないようにする。
少しだがこれで時間が稼げるだろう。
少し先にはゼスタリアスに肩を貸しながら歩いているルナの姿があった。
「大丈夫か?」
「フォール‥‥」
ルナは一瞬期待のこもった目で俺を見るがすぐに視線を逸らす。
一時とはいえ俺はゼスタリアスを殺したことに違いはない。
そこが引っかかっているのだろう。
「フォールくん。殺絆刃はこの先だ」
ゼスタリアスは痛みを堪えているのか顔を歪めている。
「ルナ、少し離れてろ」
このままのペースだとラノン達に追いつかれてしまう。
「‥‥何をする気?」
ルナからは疑いの目を向けられる。
「ルナ、フォールくんの言うことを聞きなさい」
ゼスタリアスは弱々しくルナを振り払うとどうにか一人で立つ。
俺はそんなゼスタリアスの首裏に指を二本当てると僅かに魔力を込める。
「痺神」
「ぐっ‥‥」
ゼスタリアスはその場に膝をついてうなだれた。
「ちょっと、フォール。お父様に何をしたの!?」
ルナがすごい剣幕で俺を睨みつけてくる。
「大丈夫だ、ルナ。どうやら、体から痛みがなくなったようだ。すまない、フォールくん」
ゼスタリアスは先ほどとは打って変わり、しっかりとした足取りで立っていた。
神経を麻痺させたといっても動ける程度には余裕がある分、多少の痛みは残っているだろう。
「えっ‥‥?」
飾り棚で塞いだ扉が何かで叩かれる音が響く。
どうやらラノン達が後を追ってきたようだ。
「早く行くぞ。さすがに俺も、あいつら全員を相手にはできない」
「わかった。先を急ごう」
ゼスタリアスを先頭にルナを俺と屋敷の中を駆けて行く。




