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五導の賢者   作者: アイクルーク
第三章
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八つ当たり


 ゼスタリアスが部屋に入ってくるなり周りにいた護衛達の気迫が一段と増したように感じる。


「フォールくん。君は何をしにここに来たのだ?」


 ゼスタリアスは俺の殺気にも押されることなく鋭い眼光を向けてきた。


「あんたの隣にいる二人が攫った少年を返せ」


 二人の黒服は周りにいる護衛より数段上の強さだな。


「それだけか?」


「‥‥それだけ? お前、散々人を殺しておいてなんなんだよ、それ」


 その言葉を聞いて俺のクインテットを握る手が激しく震える。

 抑え込んでいた怒りが爆発しそうだ。

 今すぐにでもゼスタリアスに切りかかりたいほどに憎しみが湧く。


「人を殺したことは悪かったと思っている。だが私はこれっぽっちを後悔はしていない。あれは必要な犠牲だ」


 必要な犠牲?

 ミーアの死が必要な犠牲?

 俺はクインテットを抜刀した。


「悪いがもう耐えられそうにない」


 俺が行動に移そうとした時にはすでに三人の護衛が同時に襲いかかってきていた。

 俺は一人は鞘の先で腹を突き、一人は脇腹を切り裂いた。

 そして、もう一人の剣を鞘で受け止めると数度クインテットを振りその体に傷をつけ、鳩尾に全力の蹴りを入れて吹き飛ばす。


「こいつ、強いぞ!!」


 誰かがそう叫ぶ。

 俺は三メートルほど離れていたそいつに狙いをつけると一瞬だけ足に力を溜める。


 飛蓮


 一歩で間合いを詰めると目を見開いてこちらを見ていた顔面を掴みそのまま縛雷バインド・スパークを放ちながら地面に頭を叩きつける。


「速すぎだ‥‥」


 俺は周りにいた呆気を取られている護衛達を一撃で切り払う。

 次の標的を見極めていると、少し離れた位置で魔力が高まっているのを感じる。

 目を向けて見るとそこには詠唱をしている魔導師が五人いた。

 すぐに黙らせようと考えたが相手もさすがにプロ。

 俺と魔導師の間に重装備の護衛が立ち並ぶ。


「うぉおおおお!!」


 その中の一人が大型のランスを構えながら向かってくる。

 装備は身長を優に超えるランスに中型のシールド、そして身を覆うレザーアーマー。

 元騎士といったところか。


「魔刀術」


 下段気味に構えられたクインテットの刀身が黄色く染まる。

 俺は向かってくるランスに合わせてクインテットを混じ合わせた。


「発雷」


 クインテットがランスに触れた瞬間、染まっていた黄色の光が強くなり大量の雷が相手に流れていく。


「ぐがっ‥‥ぁ」


 動きの止まった隙に神経が集まっている首の後ろにクインテットを当てて意識を奪う。

 まだ魔導師の前には十人近く立ちはだかっている。

 これを一人一人倒していくのは手間だな。

 一気にいくか。

 クインテットを天井すれすれまで届くように投げると両手を伸ばした状態で交差させる。


双雷撃クロスサンダー


 俺の両手から放たれた雷が立ちはだかっていた護衛達を気絶させ、後ろにいた魔導師達が露わになる。

 だが、気絶した七人の護衛達の中で一人盾を構えている男がいた。

 雷を防いだのか?

 男の構えている盾は緋色。

 おそらくはヒヒイロカネの盾だろう。

 ヒヒイロカネは最上位に位置する鉱石で、その耐火性能と耐雷性能に加えて、極めて軽いことから防具によく用いられている。

 落ちてきたクインテットをキャッチすると俺は全速力で距離を詰めた。

 すると男はすぐさま身を覆い隠すほどの盾で己の身を守る。

 無駄だ。


 飛蓮・旋


 俺は盾にぶつかる前に一度飛蓮を使い男の斜め後ろに跳ぶ。

 着地の一歩でさらに飛蓮を使うことで男の背後に回り込むとクインテットで脇腹を貫く。


「痛っぁ‥‥」


 臓器は外したので死ぬことはないだろう。

 俺は崩れ落ちる男からクインテットを引き抜くと、詠唱していた魔導師達に目を向ける。


「‥‥ゆえに雷は我が力と化して敵を撃ち抜かん!!」


「‥‥ならば、この身は灼熱に滾り業火を放つ」


 そこいらの魔導師なら詠唱をしても中級が限界だろう。

 よくて上級ってとこか。

 俺はその場で魔法に備えて呼吸を整える。


雷貫エレキニードル!!」


 先に魔法を放ったのは雷の魔導師。

 大杖から放たれた雷が一直線に俺に向かってくる。

 俺はかなりの魔力をクインテットに込めると、向かってくる雷に切っ先を向けた。

 魔導師が放った雷はクインテットに触れると、激しい光を放ちながら消滅する。


「なっ‥‥俺の魔法が」


 雷の魔導師は信じられないといった目で俺を見てくる。

 同属性の魔法が同じ力でぶつかり合ったら打ち消し合うのが通り。


「これならどう? 大炎蛇バーンスネーク


 今度は女の魔導師が大杖から蛇の形を模した炎を生み出す。

 燃え盛る蛇は空中をうねりながら俺に向かってくる。

 他の魔導師はまだ詠唱中か。

 これ以上魔法を使われるのも面倒だな。

 俺は飛蓮を使い大炎蛇バーンスネークを軽く回避すると、魔導師達に一気に接近する。


「‥‥氷結フローズン──」


縛雷バインド・スパーク


「っぐ‥‥」


 魔法を使おうとした魔導師には雷で詠唱を途切れさせる。

 一度意識から離れた魔法は再び詠唱しないと使うことができない。

 俺が魔導師達の間近まで来ると、魔導師達は完全に腰が引けていた。

 前衛経験のほとんどない魔導師は基本的にビビり。

 自分が危険に陥ったらすぐ使えなくなる。


「そこで黙ってろ」


 俺は流れるような動作で魔導師達を死なない程度に切っていく。

 怪我に慣れていない魔導師達は苦痛から呻き声を上げて倒れる。

 俺はクインテットに付いていた血を振り払うと、まだ立っていた護衛達に再び強い殺気を放つ。


「‥‥化け物だ」


「あんなの、人間じゃねえ」


 恐れた護衛達は一歩、また一歩と後ずさり始める。


「俺は、俺はもう降りる!!」


 一人の護衛が俺から背を向けて出口へと走り出す。

 その様子を見ていた他の護衛達も一瞬の間の後、我先にと逃げ始める。

 俺には追う気など毛頭ないので少しの間待っていると残ったのはゼスタリアスと黒服二人、それに倒れている護衛達だけになった。


「大した強さだ。だが、この二人には勝てるかな?」


 ゼスタリアスがそう言うと黒服の二人は白い手袋をつけてこちらへと歩いてくる。

 やはりこの二人がゼスタリアスの切り札か。

 俺も黒服達と同じように近寄っていくと、五メートル程の距離で互いに止まった。


「ミーアを殺したのは、お前らか?」


 だとしたら、命令したのが誰であれ、許す気にはならない。


「‥‥ミーアというのが今日死んだ茶髪の少女ならば、おそらくそうだ」


 その言葉を聞いた俺は歯を食いしばると、僅かに震える手でクインテットを構える。


「それだけ聞ければ十分だ」


 次の瞬間、俺と黒服二人はその場から動き出す。



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