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五導の賢者   作者: アイクルーク
第三章
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魔弓術のアーツ

 

 アーツは数秒ほどかけてカカン達が固まっているところに狙いを定めると矢を放つ。

 だが、放たれた矢の勢いは先ほどまでとは打って変わって遅いものだった。

 あの速さじゃ躱されるだろ。

 そう思っているとアーツがそっと呟く。


烈颯刃エアワルツ


 カカンに届く寸前で矢の先端から無数の風の刃が生じる。


「なっ‥‥」


 あまりに突然のことで反応できなかったカカン達は次々と風の刃に身を刻まれていった。

 なるほど、そういうことか。

 俺の中で今起こっている現象を理解する。


 魔法とは魂が持つ力、魔力を形にして放つことだ。

 だが、なんの手助けも借りずに魔法を使用するとなるとかなりの魔力が必要となる。

 それを軽減するためにあるのが詠唱や杖などといった付加要素だ。

 杖は魔法を使用する際に一瞬の間だけ魔力を蓄え、その間に魔法へと変換される。

 アーツはこの僅かな時間差タイムラグに目をつけたのだろう。

 矢を放つ直前に杖に魔力を込めて魔法を形成する。

 即座に矢を放ち敵の目の前まで杖を移動させてから超至近距離で不意打ちの魔法を放つ。


 おそらくこれがアーツの使っている戦闘法だろう。

 原理は簡単だが、タイミングよく魔法を発動させることや弓術と緻密な魔力コントロールを併用することは並大抵の難易度ではない。

 それに、大概の魔導師は国に所属しているから、こんなトリッキーな魔導師はそうそう生まれないはずなんだが‥‥

 気づけばアーツが二射目を終え、新たな矢が混乱しているカカン達に迫っていた。


「フォール、トドメはお願い」


 意味のわからないアーツの言葉に困惑するも答えはすぐにわかった。

 今度は矢の先から竜巻のようなものが生じてカカン達を巻き込んで大きく渦巻く。

 さすがに高速回転の中にいたら上下左右もわからなくなったようでカカン達はフラフラと地面に墜落し出す。


「っ、そういうことかよ!!」


 少し遅れるも俺はクインテットを握りしめて落ちていくカカンへと向かって行く。

 最初に落ちてきたカカンに警戒しながら近づくが反撃する様子はなく首元に一撃を入れて沈める。

 その後も落ちてくるカカン達は完全に目を回しており思いの外、楽に始末することができた。


「お疲れ、怪我はない?」


「それ、お前が言えるかよ」


 俺は目立った外傷はないがアーツは腹に深い傷がある。

 今も片手で傷口を抑え、出血を減らしていた。

 どっからどう見ても他人の心配をする余裕はない。


「ははは、少しヘマしちゃっただけだよ。それより他の所の援護にでも行こうか」


 こいつ、まだ戦う気か。


「いいからお前は休んでろ。それに他の所もほとんど終わってそうだ」


 ここから見える範囲にはカカンはもういない。

 もう手助けは必要ないだろう。


「そっか。じゃあ、少しだけ‥‥」


 アーツはその場に倒れこむようにして腰を下ろす。

 平気そうに振舞っているが、やはりもう限界だったのだろう。


「‥‥そうだ、ヤンとピエールは?」


 突然、アーツの動きが慌ただしくなり、しきりに首を動かす。


「誰のことだ?」


「あぁ、うん。一緒に戦ってたハンター。途中で怪我して下がっててもらったんだけど‥‥」


 俺が切り伏せたカカン達の死体の中に混じって倒れている人の姿が二つ見える。

 すでに殺されているようでピクリとも動く気配はない。


「もう‥‥死んでる」


「そっか」


 アーツは俯いて深い溜息を吐く。

 ハンターにとって仲間の死は当たり前のこと。

 言ってしまえば日常茶飯事だ。

 そう簡単に慣れるものでもないがハンターであれば次第に割り切るということを覚える。

 いや、覚えざるを得ない。

 アーツも怪我した仲間をかばって自分ごとやられる、などといった愚行はしなかったようだ。

 元の世界の奴らが見たら薄情とでも言うんだろうが、ここではそれが常識だ。


「アーツ、普通に魔法使ってたがどこで習った?」


 アーツの魔法は独学にしては練度が高すぎる。

 国から習ったものではないだろうな。


「魔法? 魔弓術のことかい?これは俺が独自に考えたスタイルだからね。基本の弓術以外は全部独学だよ」


 あの精度で独学か、恐ろしい才能だ。

 魔法のみを極めれば最上級魔法までも使えただろうに、惜しいな。


「フォールのその剣も相当珍しいと思うけどね」


 アーツの視線が俺のクインテットに向く。

 あまり興味を持たれたくなかったので鞘を探すがここに来る途中で投げ捨てたことを思い出す。


「あ、悪い。鞘捨ててきちまったから、ちょっと拾ってくる」


「ならついでに治癒魔導師も呼んできて」


 ついでかよ。

 そうツッコミたくもなるが堪えると、黙って頷く。

 それに満足したのかアーツは横になると体から一気に力を抜いた。



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