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五導の賢者   作者: アイクルーク
第一章
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始まりの日



 今から三年前、ある国で召喚の儀が行われた。


 魔王が現れし時、王国は古来よりそれに対抗すべく力として勇者を召喚している。


 勇者は共に召喚された五人の賢者と世界を救うために魔王を倒しに行く。


 三年前も同様に、新たに生まれた魔王の侵略に危機を感じた王国が勇者の召喚を試みる。






 色鮮やかに飾られたガラスから入ってくる光が特殊な鉱石の粉塵を使って描かれた魔法陣を照らす。

 十二人の大魔導士達が一斉に魔力を込めると魔法陣が天へと青い光を放つ。

 しばらくして、青い光の柱が消え始める。

 すると、そこには召喚を行う前にはなかった人影があった。


「おぉ、成功だ!! これで王国は救われるぞ!!」


 王が自ら勇者達の下へと駆け寄る。

 そこで、王は一つの不思議なことに気がついた。

 そこには本来、六人が立っているはずだ。


 だが、目の前には二人・・の男しかいなかった。


 二人の内、片方は仕切りに顔を動かし周りを確認し、もう一人は落ち着いた物腰で近くにいる王を見ていた。


「どう言うことだ? なぜだ!! なぜ、二人しかおらんのだ!!」


 かつてない程の異常事態に王が乱心し、それを見ていた臣下達も二人の周りに集まり始める。

 王国が幾度となく行った勇者召喚が一度たりとも召喚に失敗したことはなかった。


 王の叫び声に駆けつけた臣下達も二人しかいないことに気がつき、驚愕の表情を浮かべる。


「これは‥‥なんと言うことだ」


 ある者は恐ろしい事態に力なく崩れ落ち、


「数が足りないとはどう言うことだ!!」


 ある者は自身の焦る気持ちを隠そうと声を張り上げ、


「まさか、大魔導士達の魔力が足りなかったのではないか?」


 ある者は他人に責任を押し付け安心を得ようとする。


 口々に憶測を並べる臣下達。

 それを見かねた最高魔導士が杖で地面を叩いた音でその場を鎮める。


「まずは、落ち着きなされ。まずは、勇者達をもてなさねばならない。すぐに宴の準備をしなさい」


 最高魔導士は近くにいた兵士にそう命じると、兵士達はすぐに大聖堂から出て行く。

 冷静さを取り戻した王は堂々とした面持ちで二人の前に立つ。


「勇者よ、騒がせてすまなかった。色々話したいことがあるので付いてきてもらおう」


 王が付いて来いと言わんばかりに背中を向けて歩き出す。


「あぁ」


 片方はそれだけ言って王の後を追う。


「あのー、すいません。ここって、どこですか?」


 もう片方は周りにいる者に問うが誰も答えなかった。

 思わずため息を吐いてしまうも、いつまでもここにいるわけにもいかず大聖堂を後にする。






 王の後を追ってロウソクの灯る長い廊下を歩くと、一つの部屋に辿り着く。

 そこはテーブルクロスのかかった長い机に大理石の柱、そして天井にはきらびやかに部屋を照らすシャンデリアが幾つかならんでいた。


「ここは、食堂‥‥かな?」


「その通りです。お二人には食事をしながらでもお話をしようかと思いまして」


 先ほど無視されたので誰に言うわけでもなく呟いたが、先ほどの最高魔導士が現れて質問に答えてくれる。


「そう‥‥ですか」


 話が始まるまで何を訊いても無駄だと感じ、黙って席に座る。

 しばらくするとメイド服を着た女性達が高そうなカップに入った紅茶を座っている人達に配り始めた。

 座っているのは召喚された二人に、王と最高魔導士、それに加えて数人の大魔導士も座っている。


「それでは、話を始めようか」


 上座に座っている王が口を開く。


「まずは君達が召喚された経緯についてだ」


 召喚、その言葉が頭の中を駆け巡る。

 そして、それは否が応でもここが異世界であることを感づかせた。


 そこで二人はこの世界の実情について聞かされる。

 現在、魔王軍が人間の領地を略奪し続け王都へと向かっていることや、この世界には魔法が存在し一人に一属性しか持てないこと、六人の召喚されるはずなのに二人しか召喚されなかったこと。

 一通り話が終わったところで一つの質問が出る。


「俺達って、元の世界に‥‥帰れますか?」


 大学生である彼はこの状況に興奮していたものの、あまりに現実感がなかった。

 異世界と言うのは大変、魅力的なものだ。

 だが、それと同時に彼は元の世界のことも心に引っかかっている。


「それは無理だ。この魔法は一方通行‥‥万が一、元の世界で同じ魔法が使われれば帰れるが‥‥君達の世界には、魔法が無いらしいからな。恐らく不可能だろう」


 絶望と安心。

 もう二度と家族には会えない、その宣告は彼に十分な絶望を与えた。


「そう、ですか」


 その一方で、日々の勉強や研究などのしがらみから解放された安心感も感じていた。

 もう一人の男はそんな事にはまるで興味がないのか、平然と質問を続ける。


「六人召喚されるはずだったけど二人しかいなかった、ってのはわかった。で、俺は勇者なのか? それとも賢者なのか?」


 その男は王に一切気圧されることなく堂々とした態度で話す。

 そう、まるで自分が勇者であることを理解しているかのように。


「それについては、今から調べさせてもらうとしようか」


 王が二人の大魔導士に目配りをすると、どこからか透明なバスケットボール程の球体をを取り出し二人に手渡す。


「これは?」


「それはオーブ。君達の属性を調べるためのものだ」


 男は受け取ったオーブをしばらく眺めると、自信ありげに笑みを浮かべる。


「なるほどね」


 男はそう言うと急に黙り込んで、オーブを持つ手に力を入れる。

 すると、すぐにオーブが輝く光を放ち食堂全体を明るく照らし出す。


「やっぱり、俺が勇者か」


 満足のいく結果を得た男は、不要になったオーブを大魔導士に投げ渡す。


「なんでそう思うんだ? 光っただけで勇者とは限らなくないか?」


 もう一人の男が透明なままのオーブを手に持ったまま自称勇者に訊く。

 自称勇者はわざとらしく深いため息を吐くと、テーブルに置いてある紅茶を飲む。


「五人の賢者に一人の勇者、それにオーブによる判断。このことから想像できるのは一つ。五人の賢者が基本となる五つの属性を扱える者、それに対して勇者が光属性を扱える者。これでわかったか?」


 小馬鹿にしたように笑うと再び紅茶をすする。


「わざわざ解説どうも」


 嫌味ったらしい言い方に反論したくもなったが、場の雰囲気を考え口を紡ぐ。

 この時から二人は互いがそりが合わないことを自然と理解し始めていた。


「まぁまぁ、勇者様はわかったようですし、あなたもやってみてください」


 男はそう言われオーブを見るがどうすればいいかわからない。


「えーと、これはどうすれば?」


 隣の勇者が鼻で笑う。


「手に持っているオーブに自分の魔力を集中させるようにイメージしてみてください」


「‥‥はぁ」


 いまいち理解できなかったが、試しにオーブに力を込めてみるとオーブが赤、青、黄、緑、茶の五色に光り色とりどりに輝き始める。


「これは!?」


 オーブの中にあった五色が混ざり始め、激しい光と共にオーブが粉々に砕け散る。


 この時こそが、歴史上初めての多属性魔導士‥‥のちの五導の賢者と語り継がれる英雄がこの世に生まれた瞬間であった。


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