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夢じゃない世界 1

水本がくれたピンク色のお酒は結構度数が高かったのだろう。

呑んでる時にはそう感じなかったが

少し脚もふらつくような気がする。

とにかく早く帰りたい。


「あの…」と私は唐突に管理人に言う。

「明日子供が学校なので、そろそろ…

今日は本当にありがとうございました。

高森さんすごかったです。

みなさんありがとうございました」


「「もう帰るの?」」

オレンジ姉妹が結構な大声で即座に反応した。

気まずいな、と思っていると

「「今からあたしら踊るのに~~」」と残念そうに言う。

オレンジ姉妹が踊るの?ここで?

そりゃあものすごく見たいけど、でももう頭がくらくらして…



私は申し訳ない感じをできるだけ出すようにして二人に言った。

「もう本当にものすごく見たいんだけど

久しぶりに飲みすぎて頭痛くて、ごめんなさい」

一瞬にしてオレンジ姉妹の機嫌が悪くなったが仕方がない。

ごめんなさい、オレンジ姉妹。


私とミノリのために開いてくれている歓迎会だから

最後まで楽しむのが礼儀なのもわかる。

私が呑み過ぎだのがいけなかったのだ。



私の脚は思っていたよりもふらついていたようで、

倒れ掛かってまた水本のシャツを掴みかかろうとしたら

その前に水本が私の腕を掴んで、

抱きかかえるようにして体制を整えさせてくれた。

恥ずかしくて慌てる。


みんなにお礼を言って外に出る。

「美月さんが階段転びそうだから

オレ、部屋に送ってくる」

水本は管理人にそう言って私とミノリについて来てくれた。



9月中旬の夜の外の風は生温かさと涼しさが入り混じっている。

ミノリが先に階段を上がる。

私は少し脚がふらついてしまう。

「大丈夫?」と聞いて水本が手を掴んでくれようとするが、

私はすぐに大丈夫だと答えて水本より先に階段を上がった。

鉄製の階段がカツン、カツン、と音を立てる。


「ねえ、すごかったね」とミノリが振り返って言った。

「あの手品。マジもんの魔法ぽかった」

「オレもちょっとできるよ、ミノリ」水本が言った。

「マジで!ミノリが素直に驚く。

「いや…ウソだけど」

「何それ意味わかんねー」



足元がおぼつかない私に、

水本が私の腰の少し上に手を添えて押すようにしてくれる。

明日仕事なのにあんなにやっぱり飲まなきゃよかった。


「あのお酒きつかった」私は水本に少し不平を言った。

呑んだ私が悪いがすすめた水本にも少し責任がある。

私の背中を押す水本の手が少し脇腹の方へ移動して

くすぐったくて私は身をよじってちょっと睨みつけた。

睨みつけても薄暗いからわからないか。


「今の言い方かすげー可愛いい」水本が言った。

「…へ?」

「お酒きついの入れました。へへ」

「…」

私はまだ私の背中を押そうとする水本の手を逃れるために

手すりにつかまって残りの階段を急いで登りきろうと足に力を入れる。



先にドアの前についたミノリがガチャガチャと鍵を開けた。

「おやすみなさい!。今日はどうもありがとう」

それだけ言って、私は水本の返事もまたずにさっさと

ドアの中に入ろうと思う。

「待ってよ美月ちゃん」


美月、ちゃん?

ちゃんて呼んだのか私のことを。

「見てホラ、あの月!」言われてはっと空を見る。

バタン、とドアが閉まってミノリはもう先に部屋の中だ。



空にはあと2,3日でまん丸になる月が浮かんでいた。

「美月ちゃんの名前みたいな、ね?」水本が笑った。

「好きだな、美月ちゃんの名前」

年下の男の子にちゃん付けで呼ばれるのがくすぐったい。


「おやすみなさい」月は見たいが私はそう慌てて言った。

閉まったドアを開けようとする私の手を水本が掴んで言った。

「月、このまま一緒に見てたいな」

私はもう、この10年なかったくらいのドキリを味わう。

恥ずかしくて水本の顔が見れない。

何だろうこの人。


「ミノリも一緒にこれからオレの部屋に来ません?」

私は無言で首を振ってやんわりと水本の手を逃れた。

この人、何が目的なんだろう。

「じゃーずうずうしいですけど、今からオレお邪魔してもいい?」

私はさらに首を振る。

ダメに決まってる。何言ってんのこの人。


「なんか楽しかったから部屋に一人で戻るのがさみしくて。

いいな、美月ちゃんは。ミノリがいるから一人じゃない」

まあね。この前までダンナもいたけどね。



もういいや、と思う。

この人はきっとちょっと変わった、馴れ馴れしい人なのだ。

それかもしかして私に甘えているのか?

お母さん、みたいな感じで。

お母さんは止めて欲しいな。

…でもお姉さんにしては年上過ぎる。



適当に流すのが一番良いのだろう。

とにかく私は部屋に入って冷たい水を飲んで早く寝転がりたい。

私はもう一度「おやすみなさい」を言って

今度は手を掴まれないようにさっさと部屋に入って鍵をかけた。



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