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夢の世界 3

高森弟は蓋の真上から、前、後ろ、右、左、と

合計5本剣を刺した。

そして箱全体に手をかざす。

箱からは何の音もしない。もちろん子猫の鳴き声も。



ごくん。ごくん。私は甘い飲み物を飲み続ける。

高森弟がまたどこからともなく取り出した杖で

蓋を叩くと、パッと蓋は勝手に飛び上がった。

と、同時に銀色の花吹雪が噴射するように飛び出してきた。


「きゃっ」と驚いてつい水本のシャツを掴んでしまい、

グラスの飲み物が少し、

自分の赤い花柄のブラウスのおなかの辺りにこぼれてしまった。

水本がポケットからハンカチを取り出し

ブラウスをつまんで拭いてくれようとするが私は慌てて断った。

「いいから」と言って、水本はなおも拭こうとするが

そんな子供みたいなこと、自分の子供の前でされたら恥ずかしい。



ここに連れて来られるまでは緊張して、

そしてここに来てからは他の人たちにばかり注意がいってしまって、

水本の事を良く見ていなかったけれど

この人は、ここの住人の中では普通な方なのだなと思った。

新入りに世話を焼いてくれているのだ。

 

肩より長そうな髪の毛を

昨日と同じように後ろで無造作にくくってはいるけれど

予備校の講師だから、職場でも髪型は自由な感じなのだろう。

何かのロゴが入ったごく普通の深緑のTシャツに

濃いめの普通のジーンズ。

改めてよく見てみると

どちらかと言えば結構良い感じの若い男の人なのだ。


少し馴れ馴れしいような気もするけれど

それは私がたぶんずっと、

全く馴れ馴れしさを見せない夫と

過ごしていたからそう感じるのだろう。

だいたい夫や職場の同僚以外の男の人と

こんな風にしゃべったりするのは結婚以来なかったことだ。


「しみになるから」と水本は言って

私のブラウスのしみを勝手に拭く。

ただハンカチを私に貸してくれればいいのに、と思う。

「なーミノリ、早く拭かないとしみになるよな?」

水本はミノリにそう言ったのだが

ミノリは手品から目を離さず

「うん」となまくらな返事をしただけだ。

「ごめん、ありがとう」

恥ずかしいのを隠して水本にお礼を言ったが

水本のメガネをかけた顔が

私のおなかの辺りに近付いて本当に恥ずかしい。



花吹雪の後から次々に、箱の中から飛び出し始めた動物たち。

その数がすごい!もう数えられない…

5倍だ。たぶん5回剣で刺したから、数が5倍に増えたのだ。

その上、さっきはいなかった子ブタも5匹、

床に飛び降りて走りまわりはじめた。


全てのものがくるくるくるくる、

くるくるくるくる……

もう止めどなく全てのものがくるくると動き回って

あんなにうるさかったオレンジ姉妹の声も聞こえない。

なんかもう、動物たちの声も動く音も、

BGMももう何も聞こえない。


急に恐ろしく不安になって私はミノリの手をぎゅっと握る。

帰らなくちゃ。

頭がふわふわ、ふるふるする。

早く自分の部屋に帰らなくちゃいけない。

帰らなくちゃ…明日仕事だし、ミノリも学校だし。


証明の色がすごい速さで変わる。

きっとそのせいで全部が魔法みたいに見えたんだ。

目がくるくる、頭がくらくらする。 

私は椅子の上に足を上げる。

子猫とウサギが私の足元をうろうろしている。

水本が私の手からそっとグラスを取ってくれた。



一瞬で部屋が真っ暗になった。パン!と手を叩く音が響いて

ビクリ、とする。

そしてパッと高森弟と黒い箱に赤いスポットライトが当てられる。

動物たちの動きがピタッと止まった。

パン!もう一度高森弟が手を叩くと、

動物たちは一斉に動き出し、

また箱の中へと吸い込まれるように帰っていった。

わらわらわらわら、わらわらわらわら…全部、全部、全部…入った。


「どうなってんの?あの箱!どうなってんの!」

ミノリが聞くが私がわかるはずがない。

高森弟が蓋をパタリ、と閉め、

パッと部屋の電気がつけられた。


パチパチパチパチ…

ミノリが手を叩いている。

もちろん言うまでもなくオレンジ姉妹は指笛だ。

指笛もならしながら興奮して脚もドスドスと踏み鳴らしている。


私はただぼんやりと、今見た光景が信じられない。

体はふわふわしたままだ。

水本の顔を下から除くと水本が私の頭をなでてきたので

私は椅子からパッと立ち上がった。


早く帰らなくちゃ。私とミノリの部屋へ。


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