ゆらり 1
ミノリも一日疲れたのだ。
もうこんな話は止めにしよう。私は話を変える。
「手品すごかったね。そうだ!ミノリの手品の話してよ、
お風呂の後でいいから」
でもミノリは秘密だから、と言う。
それなら私も秘密にしてきた話をミノリにしよう。
「お母さんさ、うずまき見た」
「竜巻の事?」
「違う。うずまきの事。さっき水本さんが
お母さんが前に空見てるとこ見てたって言ってたでしょ?
あの時お母さん、空にうずまき見えてたんだ。こんくらいの」
私は指で大きさを作って見せた。
虹色で光りながらうずを巻いてたと説明しても
ミノリは押し黙ってる。
「今日のリョウさんの手品の光もすごかったよね?
でもお母さんの見た光のうずまきもすごい綺麗だった」
「母さん、あんまそういう事言わない方がいいよ。
光るうずまき見たとかさ。僕だからいいけど、
他の人には止めといた方がいいよ」
あまりに常識的な子どもに感嘆しながら、わかった、そうする、
と答える私。
ミノリが眠ってしまった後も眠れない。
私は朝の水本のパンのところから、一日を順を追って振り返る。
高森美々は私の事を好きでいてくれていると言いながら
なぜ高森リョウが手品をする時にはいつもいなくなるんだろうか。
水本がいない時ならわかるが、
水本と私が残るのに帰ってしまう。
水本だったら、私を高森美々と残したりはしないだろう。
言うほど私の事を好きじゃないんだろうな…
…もしかして!高森美々が裏でいろいろ細工して
高森リョウがあの手品をやってるとか…
私は弟のためにかいがいしく裏で工作する高森美々を想像してみるが
しっくりと来ない。
明日尋ねた時にちょっと聞いてみたいな。
聞いたら嫌がるだろうか。
嫌がるなら友達になれない。嫌がらなかったら友達になれる。
…かもしれない。
明日部屋を訪ねるのは不安だけどけれど、きっと大丈夫だ。
何をお土産に持っていこうか考える。
昼にサンドイッチを持って行こう。
そして食べ終わったら頃合い見て帰る・
そして私は水本が話してくれた事を繰り返し思い返す。
その気にはならないと思いながら嬉しがっている自分が気持ち悪いが、
あんなに自分の事を好きだと思ってくれる人がいると思うと
それだけで嬉しくるのはしょうがない事だ。
だから水本の気持ちが今だけのものでもしょうがない、
すぐに気持ちは変わってしまってもしょうがない、
そうも思えるから私は水本からいくら好きだと言われても、
ただそれをこっそり嬉しいと思いながら受け止めるだけだ。
返したりはしない。
水本の私を思ってくれる言葉に私はすごく喜んでいる。
私は本当は、ものすごく水本の事を気にしている。
もしかして、と思い付いて恥ずかしくなる。
もしかしたら水本は帰った後で
私にメールをくれているんじゃないかと思ったのだ。
ケイタイを確認したい。
けれど、来てなかったらすごく寂しくなるだろうと思うと
確認するのが怖い。
どうしよう…
それでも恐る恐るケイタイを触る。
…来てる!胸がきゅんとなる。
開けると件名はなくて
『美月ちゃん?』とだけ。
しかも30分も前に来たメールだ。もう寝てるかもしれない。
もっと早く見れば良かった。
3分ほど迷ってから返信した。『何?』
水本からすぐに返信が来た。
『ちょっと外に来て欲しいんだけど
今夜もまだ、すごく月が綺麗なんだよ』




