すごく近付く人 4
私はすぐには答えられない。ミノリも聞いているからだ。
困って私は「ありがとう」と言った。
「何それ」と言ったのはミノリだ。
「それは母さん、すごく嬉しいって事?」
うん、嬉しいよ、と思う。人から想ってもらえるのは嬉しい。
「何か…ヤだな…」
久々にミノリが泣きそうな声を出すので私は焦った。
「違うよ。人から想ってもらえるのはありがたいって事だよ」
「ありがたいの他は?」水本がなおも聞く。
「嬉しいけど」
というと水本の顔はぱぁっとほころびミノリは私を睨む。
「嬉しいけど、もったいない気がするよ」
「もったいない?」水本が聞く。「もったいないくらい嬉しいって事?」
「若くて独身なのにもったいないって事」
「何それ」
「他にいくらでも若くて可愛い子と付き合えるのに
わざわざ私のとこに来てそういう話をするから
嬉しいけどやっぱ信じられないっていうか
そんな気持ちは今だけのものだって感じがして…
今日だってホラ、女の子来てたって聞いたし」
水本は嬉しそうな顔をした。「やっぱ気にしてくれてる」
「いや、そうじゃなくて。
普通だったらそっちに行くのにな、って言う…」
「あ、そう」水本が軽く言うので少しひるむ。
「…まぁそう思っちゃうのも仕方ないよね。
…まだ1週間くらいだもんね。
一緒に暮らすようになって」
いや一緒には暮らしてないよ。
「でもオレは気にしてくれて嬉しいよ。
でも本当、今度美月ちゃんに会わせてもいいよ」
「いや会いたくはないって。私関係ないもん」
「関係あるじゃん、美月ちゃん気にしてるんだから。
美月ちゃんの事彼女って紹介しよっと」
「しなくていい!」
「まぁいいや。じゃあそういう事だから。
泊りたい気持ちは山々なんだけど
仕方ないから帰るよ。また明日ね」
水本はあっけなく帰っていった。
もっと喜ぶべきだったんだろうな。
普通の女の人の反応としては。
実際嬉しかったけれど、手放しでは喜べない。
信じられないし、もったいないと思っているのは本当の事だ。
それに今、ミノリの目が冷たい。
今日は一日が長かったな。いろいろ有り過ぎた。
やまぶき荘に越してきてからすごく疲れる。
それでも水本が「また明日ね」、って言ってくれたのが
やっぱり嬉しいと思ってしまう。
「ミノリ、お母さんが言うのも変だけど
なんかいろいろごめん」
「カオル君相当変だよね。
…でも母さん、カオル君の事好きになる?」
ごめんミノリ。今の段階で結構好きかも。
だからってどうもしないけどね。
水本の事が好きか嫌いかというと好きだ。
それは私の事を好きだと言ってくれているから。
今は水本が話してくれた気持ちを嬉しいと思うし、
ありがたく受け止めて、でもそれだけだ。
だって先の事はわからないと水本も言ったのだ。
だからミノリには言った。
「お母さんもずっと好きって言われてたら好きになると思う。
でもそれはずっとは続かないよ。
ミノリも言ったみたいにさ、水本さんは若いし、
女の子も尋ねてくるくらいだから
普通に若くて可愛い女の子から好きになられたら
その女の子の事好きになると思うしさ。
私達の事良く見かけてたって言ってたでしょ?
見かけてた人が隣に越して来たから
なんかテンション上がって
すごく好きなんだって思いこんでるだけだよ。
お母さんはずっとお母さんの事を好きでいてくれる人が好き」
「もうおばちゃんなのに、そんな事言ってはずかしくないの?」
「おばちゃんでもいいの!」
自分の大きくなった声にびっくりして気を付けようと思う。
水本に聞こえてしまう。
「じゃあさ、」とミノリもしつこい。
「カオル君がずっと母さんを好きだったら母さんも好きになるって事でしょ?
カオル君がずっと母さんの事を好きだったら結婚する?」
「しない。水本さんも言ってたじゃん、自分で。
先の事はわからないって。
お母さんの事好きって言ってくれてんのも今だけだよ。
それにお母さんはもう誰とも結婚しない」




